遡 今日子さんのお姫様願望
僕の妹だと
だが断る。
のように――彼女は僕にとって『赤の他人』だ。
通りすがりの通行人のようで。
隣のクラスの話したことも無い学級委員長のようで。
僕の記憶には
「わからない人は短編の相合傘編を読んでね」
とまあ、このように
※
はてさて、今は身体が芯から冷える程の寒さで凍えている。
凍てつく寒さに負けじと僕はコートのポケットから手が出せない状況。
つまりは登校中だ。
ホッカイロなぞもはやただの砂の集まりに過ぎない。
僕と今日子さんが通う『私立
その正門が見える信号交差点で、僕と今日子さんは信号が青になるのを待っている。
横断歩道の信号機が赤を点灯させている。
この世の春を待ちわびている様子の信号機(青)。
震えながら信号が変わるのを待っていると、今日子さんが、
「ニャ〜」
「朝からなんですか今日子さん――気でも触れましたか?」
僕の左隣にいる今日子さんへ振り向きながら、僕は少し意地悪に尋ねた。
すると今日子さんは首を傾げこう答えた。
「お兄ちゃんの猫真似でしょ? 可愛い。その威力に思わず心臓が3秒止まったよ」
相変わらず何をふざけて。
と、僕は雪の山に突き飛ばしてやろう。
そう考え身体を今日子さんの前へと数歩進んだ。
「ニャ〜 ミャ〜」
「あっ」
今日子さんの右耳の少し後方に見える。
モフモフの白色の小さな毛の塊。
そう、子猫だ。
アニマルプラネットだ。
白色の彼女が木の枝の上で泣いていたのだ。
「今日子さん後ろ」
「んー? うしろー?」
僕の前にいる残念な妹の今日子さんも振り返る。
「ぉお! ねこちゃん」
「降りられなくて泣いているとか?」
……この雪の山に飛び降りれば問題無いとも思うけど。
僕は犬も猫も好きだけれど、残念なことにアレルギーなのだ。
特に猫に対しては破壊力が凄い。
「お兄ちゃん助けてあげようよ」
「うーん。仕方ないか。失敗しても下は雪ですしね」
アレルギーはさておき、枝に座る白猫の真下まで歩みを進めた。
僕は、そこそこ身長が高いと思う。
特に部活等やっていないが188センチ。
いや、そんなことはいいか。
「ルーールルルルル」
「お兄ちゃん、それ北海道の人しか知らないよ」
「え? てっきりキツネと同じで良いかと」
僕は知っている掛け声を口にしながら手を真上に上げた。
「ニャ〜 ニャ〜 ミャ〜」
むむむ。
少し威嚇されているように感じる。
でも、猫の威嚇は「シャーッ」だったっけ?
とはいえ、手を伸ばしても届きそうに無い。
「今日子さん、鞄持っててもらっていいですか?」
今日子さんは僕の鞄を両手で受け取り、首を傾げ「どうするの?」と尋ねてくる。
それに対して僕は、
「できるか分かりませんが、登ってみようかと――さすがにジャンプしたら、彼女もびっくりして落ちちゃいそうですし――下は雪ですけど」
そんな僕の思い付きを耳にした彼女が、
「ええ、猫ちゃんうらやまっ!」
「アホなんですか?」
毎度の事ながら今日子さんに呆れつつ、僕は木に手をかける。
いや、さすがに無理難題の無謀策だった。
手は真っ赤に
仕方ない。
驚かせてしまうけど、枝に飛び付くしかないか。
今日子さんは僕の考えを察したのか「頑張ってお兄ちゃんっ」と。
更に何故か瞳を輝かせ身体はフルフルとしている。
それはさておき。
木登りの考えを改め、白猫の真下で僕は枝へと跳ねる。
「ふんっ」
もう少し。
「んー、ふんっ」
よしっ! 掴めたっ!
――バキッ
「ミャ〜」
「ひゃぁっ」
僕は今日子さんの驚き声は耳にも入らなかったのか、枝の割れる音を先に耳にし、大量の冷や汗が吹き出てしまった。
一先ず完全に折れたわけではないようで、「ふぅ」と安堵の溜息を漏らしながら、僕はゆっくりと着地した。
「お兄ちゃあーん、頭の――」
少し冷静を取り戻した僕は、声の主へと振り返る。
すると、今日子さんの頭に白猫が鎮座しているのだ。
僕はその珍妙な光景を目にし、この人は何を考えているのだろうか。
それとも最近の女子高校生は猫を頭に乗せるのが流行っているだろうか。
『招き猫を乗せた女子高校生が無双する異世界転生スローライフ生活〜悪役令嬢9女の領地改革〜』
うん。これは流行るかもしれない。
「流行ってもいなし、異世界無双もしないからっ」
今日子さんの両手は僕と彼女の鞄で塞がっている。
鞄を地面に下ろせば良いのではないのだろうか。
うーん。
やはりなんと言えばよいのやら。
やはり――アホなのだろうか。
「アホ言わないでよ。でもそうか、鞄を下に――」
今日子さんは二つの鞄を地面に置き、頭の白猫をゆっくりと掴んだように見えた。
「シャーッ」
「ふぇっ」
先程猫の威嚇は「シャーッ」だったと予想していたけど、やはり本物の威嚇は怖かった。
まして猫アレルギーの僕なのだから。
恐怖は人並み以上に感じる。
と、思っていると白猫モフモフは僕の胸へダイブしてきた。
「うわっと」
なんと、今日子さんに威嚇した白猫は僕が咄嗟にキャッチしたことで、安心したのか「ニャ〜」と鳴き声を漏らした。
すると、僕と白猫を視界に捉えた今日子さんは、
「お兄ちゃん! 私より猫が好みなのね」
「はい?」
そんな。
まさか?
僕は人間との関わりは苦手だけれども猫はさすがに。
「もう。先に行くっ」
この白猫とのやり取りの間で、何度信号が変わったか分からないけれど、今日子さんは「ふんっ」と鼻息を漏らしながら踵を翻し信号を渡ろうと駆け出していく。
すると。
――ファーーーーーーーーーーーッ!
「危ないっ!」
信号を渡ろうと駆け出した今日子さんに一台のトラックが迫っている。
僕は咄嗟に今日子さんへと声を荒らげる。
と同時に驚いたのか白猫は胸元から地面へと飛び降りる。
ほぼ同時に白猫のことも気にとめず、僕も片手を伸ばしながら今日子さんへと走り出す。
あと数秒でトラックは今日子さんに届いてしまう。
地面は凍りついている。
こんな事考えている余裕もなかったのかもしれない。
今日子さんは音のするトラックへと振り向く。
更に驚いてしまったのか今日子さんはその場で硬直している。
僕は更に手を伸ばす。
と、
「え?」
僕は目の前の出来事に思わず一言の声が漏れた。
「ありがとうお兄ちゃん結婚してっ!」
結婚?
君、今。
今
トラックのフロントにぶつかったよね?
なんで僕の両手に乗ってるの――ええ?
「なんでってお兄ちゃんが助けてくれたんでしょ?」
いやいやいや。
落ち着け。
何だこの状況。
ふぅ。
先ずは。
そう、あと少しのところで今日子さんを引き寄せるところで彼女は……。
え?
なんで木の下に僕はいるんだ。
横断歩道手前にいたはずだよな?
そうだ。猫をキャッチしたんだ。
その光景を目にした今日子さんは不貞腐れた。
そうだよ。猫と今日子さんが入れ替わったような収まり具合だ。
先程不貞腐れた女子高校生が居た場所に白猫がいる。
「ニャ〜」
「ねえお兄ちゃん」
僕はもう一度胸元に目をやる。
やはり今日子さんが僕に抱えられている。
正にお姫様抱っこというやつだ。
「愛してくれているのは嬉しいけど周りが――」
どのくらい思考をフル回転させていたのだろうか。
通学途中の生徒達に囲まれている。
そのどれもがワイワイキャッキャしており、僕の事を話題にしているのは
そんな野次馬の色声に気がつき僕は、今日子さんを地面には
記憶にまだ新しい一台のトラック。
そのトラックが「ドカッーん」と轟音を響かせ、信号機を吊るした電柱へ体当たりをしたのだ。
野次馬の生徒達は「うわぁ」とか「キャア」等の悲鳴をあげている。
僕は今日子さんをお姫様抱っこの形のまま腕に抱えながらトラックを呆然と眺めている。
僕が暫く固まっていると今日子さんが、
「もしかして、巻き戻った?」
未だに僕に抱えられている今日子さん。
その状態でその台詞。
「もしかして、今日子さんが?」
僕はこの言葉を選ぶしか無かった。
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