第15話

「離せ!!おいっ離せって!!俺が何をしたって言うんだ!!」

「おい暴れるな!!」

「大人しくしろ!!」


両脇を捕まれ、動きを封じ込められた。


「君のお父さんから、リビングで母親が血を流して倒れているとの通報があった。廊下にある血痕を辿ってみると君の部屋に辿り着いた。見たところ君の靴下は誰かの血で汚れているようだが、それはもしかして母親の血じゃないのか?」

「俺は世直しをしてたんだ!!捕まるようなことはしていない!!くそっ!離せ!」


どんなに暴れても日々鍛えている大の男2人に掴まれていては逃げ出すことは不可能だった。

任意の事情聴取というが、これはもうほとんど強制のようなものだ。やはりこのような輩に、これからの世は任せられないと改めて思った。


半ば引き摺られるようにして家の外に出され、パトカーの中へと誘導される。ちらりと見えた父親の顔はまるで殺人犯を見るような怯えた目をしており、信じられないといった感じだ。まさか実の息子が母親を刺すなんて考えたこともなかったのだろう。

外に出るとサイレンの音によって周囲は野次馬が集まって来ていた。隣に住んでいる老夫婦も、幼い時にはよく遊んだ近所のお兄さんも好奇心に目を光らせてこちらを見ている。

野次馬の中には携帯を高々と持ち今この瞬間を残そうと動画を撮っている者もいる。

神の姿を世に晒そうとするなんて、なんと罰当たりな人間なのだろうか。


ふと、その野次馬の中に優菜が居るのが見えた。

成人式のために綺麗なミルクティー色に染めたあの髪には見覚えがある。


優菜は、本当に生き返ったのだ。


神様は偽物なんかじゃない、本当に存在したんだ!

あまりの嬉しさに思わず声が出た。

「ゆうっ…」

しかし、目が合ったはずの優菜は、怯えた表情をして目を逸らした。

まるで見てはいけない何かを見てしまったようだ。


優菜に無視をされたショックから、抵抗する力も抜け、されるがままパトカーの中へと押し込められた。

パトカーが発進し、人混みから抜け出す際、もう一度ちらりと優菜の方を見たが、やはり目が合うことは無かった。

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