第13話
「健人、本当に周りに気をつけるのよ?」
「だーかーら、分かってるって。」
「大学は大丈夫なの?怪しい人とかいない?」
「そんな人いないって。もう行くよ。」
「この辺も物騒になったわね。前までそんなこと全然無かったのに…。」
母親の心配を背中に受け、スニーカーの紐をきつく縛り玄関を開く。
外は清々しいほどの晴天だ。空には雲ひとつ見当たらない。
まるで自分の今の気分を表しているのかと思うほどの天気にとても嬉しくなってしまう。
あと一人だよ、優菜。
あと一人で、君はこっちに帰ってくるんだ。
はしゃぐ気持ちが抑えきれずに自然と頬が緩んでしまう。
もし君が戻ってきたら何をしよう?
とりあえず思い切り抱きしてめ愛の言葉を紡ごうか。
これで、俺の世直しも終わりとなる。
しかし、俺の心の中では優菜が戻ってきてからも“ 神”として「世直し」を続けても良いかもしれないという思いが膨らんできていた。
相手が強者のために、泣き寝入りしないといけない者、証拠が不十分だからといって警察に相手にして貰えない者、様々な被害者がいるのは今回十分に知ることが出来た。
その者たちのために何が出来るのか考えたら、やはり、世直しを続けることが一番だという結論に至った。
神様の遣いだから捕まることもないし、罪に問われることも無い。
これは、俺に与えられた使命なのだ。俺だけの、俺にしか出来ない役割なのだ。
そう思うと、願い玉に優菜との結婚が無くなるように願ったこと、不運にも優菜が交通事故で亡くなってしまったこと、全てが必然だったのだと分かる。全ては俺が神様の代理になるために必要なことだったのだ。
自分の使命を確認し、まずは優菜を生き返らせる目的を果たすために10人目を殺さなければと思い出す。記念すべき10人目だ、うんと悪い奴にしようと計画を立てたのだ。
真っ昼間ではあるが、神様の代理が悪人を1人殺しても特に何もならないだろう。今まで人目を避けて世直しをしていたのが馬鹿みたいだ。最初から堂々としていれば良かった。何も間違ったことはしていないのだから。
パーカーのポケットに入れた包丁の柄をグッと握りしめ、ターゲットの情報を確認しようと携帯の画面を開いた。
ブーブーブーブーブー
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