第11話

『続いてのニュースです。昨夜、△△市の路上で男性が倒れているのが見つかりました。男性の腹部には刺された跡があり、警察は殺人事件として捜査を進めています。』


「最近物騒ねぇ。この前もこの辺りで殺人事件があったばかりなのに…。」


平日の昼下がり、ワイドショーから流れてくるニュースを聞きながら母親がそんな愚痴をこぼす。

何者かに背中や腹部を刃物で一突き。同様の事件がこれで4件目になっていた。

使われた刃物も現場に残された足跡から導き出されたスニーカーも量販店で売られている大量生産の物ということで、犯人を炙り出すことが難しいと警察官のOBが話している。

神妙な面持ちをしたアナウンサーが何か他に犯人に繋がるような物は無いのかと尋ねているが、被害者たちの共通点もなく、被害者同士の接点も無いことから難航を極めるだろうと結論づけられていた。


当たり前だ。すぐに見つかるようなそんなヘマ、するものか。

目的を達成するために、こちらは細心の注意を払っているのだ。カッとなって刺したり、ただ相手に恨みがあって刺したりというような短絡的なものでは無いのだ。

もっと、壮大な責任のある殺しなのだ。


自分の息子がそんな大それたことをしているとは微塵も思っていない母親は、心配そうな瞳で尚も続ける。

「良い?男だからって安心しちゃダメよ。大学からの登下校中だって危ないかもしれないんだから!変な人がいたらすぐさま逃げるのよ?」

「大丈夫だって、心配症だなぁ。」


軽く返すと呆れたような表情を浮かべたが、テレビでさっきまでとは打って変わって明るい声のリポーターが天気を話し出すと、切り替わったようにあら明日は雨なのねなどと天気の心配をし始めた。


大丈夫


『昨夜××町で事故があり、運転していた女性が亡くなりました。』


大丈夫


『昨日の夕方から□小学校に通う児童が行方不明になった事件で今日未明、森を散歩していた近所の住民がこの児童の遺体を発見したということです。』


大丈夫


『昨日深夜、○○町の歩道橋で酒に酔った女性が階段から足を滑らせて死んでいるのが見つかりました。』


大丈夫


『速報です。□△市の民家で火事があり、建物一棟が全焼しました。火は現在消し止められており、中からは1人の遺体が発見されました。この家に住む住人と連絡が取れなくなっているため、警察はこの遺体がこの家に住む住人ではないかと捜査を進めています。』


だって僕は正しいことをしているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る