第8話

ブーブーブーブー…ブーブーブーブー…


眠たい目をこすり、携帯を探す。

カーテンの向こう側では太陽が輝いているのが分かるが、夜更かしをした身体には眩しすぎて目を開くことが出来ない。


結局、昨日はそのまま泣き疲れて眠ってしまったようだ。

曜日設定にした携帯のアラーム機能のおかげで、かろうじて今日が水曜日だということが分かる。


日付が過ぎたことを確認すると、やはり夢ではなかったのだと思い知らされる。

泣きすぎて腫れぼったくなった瞼は、目覚めようとする気持ちとは反対に深く沈んでくる。もうこのままずっと眠ってしまおうか。

起きて大学に行っても優菜はいない。

いつもの通学路にも、バイト先にも、家にも、彼女の部屋にも。

もう優菜はどこにもいない。


その事実は受け止め難く、こんな状態で講義に出ようものなら、彼女の面影を探して講義に集中出来ないことは火を見るより明らかだ。

その上、生きる意味も見出すことが出来ない。優菜と幸せな家庭を築けないのなら、もういっそここで自分の人生が終わってしまっても良いような気がする。


もし、あの時願い玉を使っていなければ、優菜を生き返らせることが出来たのに。

たらればを考えてもどうしようもないのだが、考えずにはいられない。


神様、仏様。

優菜を生き返らせてください。お願いします。

優菜をこちらの世界に返してください。

そのためなら、なんだってします。

本当です。


『その言葉、本当か?』


突然声が聞こえ、慌てて音のする方へ目を向けると、そこには黒く塗りつぶされた球体のようなものが浮かんでいた。

ヒュッと喉が鳴り、全身が固定されたように動かない。何か声を発しようと口をパクパクと動かすが、喉が張り付いて音にならない。


あれは、なんだろうか?


『青年、願いを叶えてやろうか?』

表情のない黒い球体ではあるが、声の調子から笑っていることが分かる。

この球体は、本当に俺の願いを叶えてくれるのだろうか?


『さて、青年、もう一度聞くぞ。お前の願いを叶えるために、お前はなんでもするのだな?』


声が出ない代わりに俺はゆっくりと頷いた。

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