第5話
結局、優菜の願いははぐらかされたままお互いの家に着き、そこで解散となった。
玄関を潜り、リビングにろくに顔も出さず俺は自室へと篭った。
窮屈なスーツのジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイも外したあとは適当に放り投げてベッドに寝っ転がる。
携帯でSNSアプリを開き、今日の成人式の様子を綴れば、同じように成人式に出席していた友人たちから返信やいいねが返ってくる。
それにまた返事をしながら流れてくる写真にも目を通す。
その中に色とりどりの振袖に身を包んで楽しそうにはしゃぐ女子の集団の写真を見つけ、拡大をして見てみるとその中に優菜がいるのが分かった。
両隣には一緒に帰ろうとしていた2人も写っているので、帰る際に友人に声をかけられ、写真を撮る流れになったことが伺える。
15人ほどの集団で、よくよく見ても誰が誰か分からないところから、小学校のときの同級生だと考えられた。
「こんなに小さい写真でも優菜を見つけられるって、俺ヤバいやつじゃん…。」
携帯で撮った横長の写真。最大限にズームをしないと顔の識別は難しい。
それなのになぜか、この写真には優菜が写っていると思い、拡大までして確認をした。
「これも愛のなせる技…ってか?」
自分で言っておきながら、なんとも小っ恥ずかしい台詞だと吹き出してしまう。
懐かしい気分に浸りながらSNSを眺めていたが、願い玉の存在を思い出しベッドの横に置いておいた紙袋を漁り、願い玉の入った小さな箱を取り出した。
箱を開けると中からは水晶のような透明な球体が出てきた。
透かして見てみるが、特にこれといった珍しさのないただの透明な球体である。
願い玉を手に持ち、願いを口に出した瞬間にこの透明さは無くなり真っ黒な球体へと変化するらしい。色が変わることで新品と使用品を見極めることが出来る代物となっている。
しかし、見れば見るほど普通の球体である。
これが本当に願いをなんでも叶えてくれるのだろうか?
願える願いは1つだけ。
人生で叶えたい最大級の願い事。
俺の願いは―…。
「優菜との約束が、無くなりますように。」
そう呟いた瞬間、先程まで光を通し向こう側の景色を見せてくれていた玉が、みるみる色を変えていき、1度瞬きをした時にはもう何も映さない漆黒へと変化していた。
「マジ…かよ…。」
頭の中では有り得ないことだと思っているが、実際に目の前で起こったのなら信じる他ない。
俺の願いは、優菜との結婚が無くなること。
その願いが叶うのは明日か、明後日かそれとも―…。
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