第3話
ホールの外に出ると、今までこんな人数がホールの中に入っていたのかと驚くほど沢山の人が存在していた。
記念品を貰ったら早々に帰宅する者、迎えが来るまで談笑している者、数年ぶりの友人との再会で写真を撮る者、様々な人がいた。
帰宅しようとする人影の中に見知った後ろ姿を見つけ、声をかけに歩み寄った。
「優菜、お前帰るの?」
「健ちゃん?うん。みんな明日からもう授業だから帰ろうって話してたんだ。」
振袖を着て華やかな雰囲気を醸し出す3人組の中に健人の想い人、優菜がいた。
「優菜良かったじゃん!旦那のお迎えだよ~!」
「もう!そんなんじゃないって!」
「はいはい。照れない照れない!」
同行していた2人に囃し立てられ、否定の語を発する優菜であるが、その頬は赤く染まり満更でもない様子が伺える。
実は優菜と健人は幼い頃に将来を誓い合った仲で、その事実は2人の家族や友人も知っていた。
なんとも仲睦まじいことで、小学校と中学校のみならず、高校と大学も同じで2人で登下校することもあるのだ。
「旦那も来たし、邪魔しちゃ悪いからうちら2人で帰ろっか!」
「そだね!じゃ、優菜、また明日!大学でね!」
「気にしなくていいのに…。また明日ね!」
空気を読んで優菜の知人は別れの挨拶をし、2人で帰っていった。
「なんか、ごめんな。邪魔しちゃったな。」
「ううん。別に。また明日会えるし、大丈夫だよ。」
全く意に介していないと微笑んでかえすと、それまで申し訳なさそうに眉を垂らしていた健人の表情はみるみるうちに明るくなった。
「そっか、ありがと。じゃ、俺らも帰るか。」
「うん。」
人の流れに沿って、2人も歩き出す。
途中、大人数で盛り上がっていてこちらに気づかない人とぶつからないように優菜の肩をそっと引き寄せる。
いきなりのことに驚いた顔をした優菜であったが、引き寄せられた方と反対側を見て、納得したように頷いた。
人混みの中では大きな声を出さないと話すことは難しい。優菜は、大きな声を出すのは苦手だ。
それを知っているので、健人は特に話しかけることも無く、下駄を履いている優菜の歩みに歩幅を合わせて歩いていく。
気まずさはない。
まるでそこにいるのが当たり前かのように、お互いにお互いが隣にいることに疑問を持たない。
これも長年の付き合いがなせるものなのかもしれない。
すぐ横に手を伸ばせば触れられるほどの距離にいるけれども、2人が触れ合うことは無い。
触れ合わなくても繋がっている。
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