第2話
『えー、晴れて成人を迎える皆さん、本日は誠におめでとうございます。』
壇上では市長がスーツを着て祝辞を述べている。話を聞くためにホールの席に座っている者は、色とりどりの振袖や袴、スーツを身に纏い華やかな装いとなっている。
今日は子供が一人前の大人としての区切りを迎える日、成人式であった。
『みなさんにはこれからもこの市で生まれ育ったことを誇りに思い、後世へと―…』
この日のために市長が考えた祝辞は、有り難いものではあるが、浮き足立った新成人たちは市長の言葉よりも久しぶりに会う級友たちとの再会に盛り上がっていおり、大きな声で騒ぐ者こそいないものの、そこかしこで話し合う声がする。
市長もそんな新成人の態度には慣れたものなのか、特に注意をすることも無く話を続けている。
『最後になりましたが』
市長がこの言葉を発したと同時に、それまでザワザワと騒がしかったホールの中が水を打ったように静まり返る。
『新成人の方へ記念品として、“ 願い玉”を贈呈致します。みなさん、ご帰宅の際にホール受付で貰って帰ってください。』
待ってましたと言わんばかりに盛大な拍手と歓声が上がり、瞬く間にホールの中を満たしていく。
式が終わるとスタッフらしき人が順番に出口に誘導を始めた。我先にと走り出そうとしていた新成人もいたが、順番を守らないと受け取れないと言われたのか大人しく列に並びに行った。“ 願い玉”を受け取るために並んでいる新成人の顔はまるで喉から手が出るほど欲しがっていた玩具を取りに行く子供と同じくらい喜びが溢れている。
「新成人、おめでとうございます。」
急性アルコール中毒に気をつけるチラシや市の情報誌が入った袋とともに紙製の箱が手渡される。
新成人は袋はおざなりに、しかしその紙製の箱だけは慎重に両手で受け取り、落とさないようにしっかりと握ってホールを後にしていた。
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