第13話 僕たちは音楽と共に出会う
何故この場に集められたのか。それは、予想通りの答えに落ち着いていた。今現在、三時間にも及ぶ体育科の補習を受けた後である。
このクソ暑い夏を迎えた我が国、日本。そこは、多分地獄とかそういう類の場所になっていた。大分県の地獄巡りが可愛く思えるレベルか。なんて、かなり盛った考えだが。
いや、暑いのは仕方ないのだ。季節に逆らえるわけでもあるまい。それなら、なにが仕方なく無いのか。
無論、この汗の染み込んだ右腕を掴んで離さない御影ちゃんその人である。
何故、彼女も補修を受けているのか。授業に出ていたのを僕は知っていたが、理由は分からなかった。
「あの……なんでここにいるんですか?」
刻一刻と奪われる体力をなんとか保ち、ふらついた足取りで冷房の効いた図書室を目指して、校舎へと向かった。
「んー、なんか記録出なさすぎてヤバいからって先生が。あと日向ちゃん。敬語」
そんな理由が通る程、運動が苦手なのだろうかこの人は。側から見れば、そんな感じには思えなかったのだが。
下らないといえば失礼かもしれないような雑談の末に、人のいない方へと脚を進める。
その途中、何かが耳に届いた。
「……音楽?」
小さな音だが、辛うじて聴き取れる。恐らくジャズミュージックの類だろう。
辺りを見回した。どうやらこの突き当たりを左に曲がった辺りから聴こえるらしい。そこには三年の教室が一つあるだけ。音の大きさ的に考えても、廊下に流れているものでは無いだろう。
気の向くまま……というか、好奇心で歩調を早める。教室は締め切っているが、近づけばかなり大きな音であることが分かった。
ガラスの向こう側には、知らない生徒が一人。必死に、踊っていた。
此方には気付いていない様子。二人で並んでガラス越しに見事な動きを傍観していた。
1分半ほど。その音楽が鳴り止み、汗を拭きながら水分を摂取していたその視線が此方を向いた。
瞬間、その生徒は水を吹き出してむせていた。
扉を開け、廊下に出てくる生徒は顔を朱色に染めて喉を震わせた。
「んなっ……なに⁉︎誰⁉︎」
急な質疑に躊躇うことなく御影ちゃんは答えた。
「なんか音楽流れてたから、誘われるようにここに!」
その教室から漏れる空調の整った空気を心地よく感じ、教室にお邪魔することにした。
「なんでこんな所で一人で踊ってたんですか?」
「ゔっ……」
何か、地雷を踏んだらしい。多分『一人』の事だろうと思いつつ、詳細がわからないなりに、とりあえず謝罪した。
「いや……別にいいよ。ここで私一人なのには色々訳があって……」
話は単純だった。
あまり良い功績を出せていなかった我が校のダンス部。それを理由とした一斉退部により、ダンス部は活動できなくなってしまったという。今の部員は彼女一人だけになってしまったらしい。
最後まで残るだなんて、彼女は本当に踊ることが好きなんだと関心を覚えた。
自分自身に得意な事が何一つ無い僕は、少し羨ましいと思ってしまった。
「そういやまだ名乗ってなかったっけ。私は
鳴上さんに続くように、僕と御影ちゃんも答えた。
答えたのだが。ここで彼女の問題発言が炸裂するのだった。
「日向ちゃんの彼氏の桜 御影だよ!」
……なんなんだこの人は。何がしたいんだ。いや、それ以前に弁明しなくては。
「あの……鳴上さん、この人ちょっと感性おかしいんで聞き流してください。お願いします」
「……あぁ、うん……。ていうか、紫苑でいいよ」
自分から『私が女の子しか好きになれないの言わないでね』なんて言っておきながらこのザマである。本当になんなのだこの人は。単純に怖い。
話題を戻そうと、必死に紫苑さんに話しかけた。
「それにしても凄いですね、あんなに踊れるなんて……」
しかし、紫苑さんの反応は想像とは違った。その浮かべる表情が、物語る。
「凄い……のかな、今更踊る意味なんて、どこにも無いのに……」
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