第12話 僕は姉として映るだろうか
そんな1日も終わるのは早く、既に別れを告げてお互いが帰路に着いた辺りでは、既に夕景がしっかりと映る。歩調を早める訳でもなく、ただゆっくりと進む方向に脚を動かす。
すると、唐突携帯電話に一通の通知が入った。足を止めて、パスワードを入力してメッセージアプリを開く。ああ、あの脳筋部活終わったのか。
斗真の名前が記されたルームを開くと、一通の写真が添付されていた。
「……は⁉︎」
そう。かつて桜……おっと危ない。御影ちゃんの手により撮影された写真を掲げた当人を、猫耳フードとかいうふざけた姿で問い詰める自分が。そこに写っていた。一瞬で、脳が宇宙に早変わりする感覚を覚える。広大な情報量が、それっぽい感覚だった。
微塵も躊躇う事なく、高速でキーパッドを操作して問い詰める。返信を待つ時間が、異様に長く感じる。しかし既読はすぐに付くだろうと、画面だけを凝視していた。
『なんでこれ持ってんの⁉︎ねぇ‼︎』
『いやー、なんか居たから。面白いなって』
……ふざけるなよ。いや、そんなに怒りはあまり湧かないが、ふざけるなよの一言に尽きる。斗真がこの写真を拡散させたりする人間でないと理解しているからだ。いや、これは思い込んでいるだけなので、普通に危険ではあるが。
『今すぐ消しなさい』
『嫌だ』
……もう、どんだけだよこいつ。
しばらくは、これを餌に遊び道具にされるかもしれない。いや、今でもかなり遊ばれているが。
ただ、面倒な覚悟を強いられるのも本日2回目となれば流石に反応は薄くなる。適当に消してくれと申請だけ残して、会話を終わらせ、自宅へ戻った。
自宅に着いたのは、丁度6時半頃だった。少々、小腹どころでないものが空いているが、ストレスも交えて辛いので先に風呂へと向かった。夏休みというくらいなので、しっかりと夏である。汗がすごい事になっているのだ。これ暑いだけなのか冷や汗なのか分かんないな。
脱衣所で服を脱ぎ、鏡を眺めていると、時期に自分の体に嫌気が差してきた。いつもの虚無感タイムである。
「………」
途端、扉が開いた。勿論妹しか居ないので、誰かと聞かれれば一択しか無いのだが。
「うわぁぁぁぁ‼︎」
「えっ……ちょ、なに?どしたの?」
向こうからすれば女同士、姉妹同士であろう。しかし此方は違うのだ。凝視するな妹よ。あと唐突に開けるな。確かに鍵をかけなかったこちらにも非があるかもしれないが、それでもやめてくれ。
「あぁ、そうだ。お姉ちゃん出掛けてる間に学校から電話来てたよ。明日補習だって」
補習?しっかりと授業は受けていたし、試験の成績もそれなりだった筈だ。それなのに何故……
否、脳裏に浮かんだのは唯一の苦手教科である『体育』である。
走るの遅い、投げれない、泳げない……等々、絶望的なこの教科で違いないと確信が持てる。義務教育に補修とかあるんだ、都市伝説だと思ってた。
「というか、早く出てってくれない?」
「あ、ごめん」
ゆっくりと扉を閉め、パタパタとスリッパの音が遠くなるのを聞いていた。少し落ち着くまでとその場に立ち尽くしたが、夏といえども流石に寒く感じて、浴室へ向かった。
一方その妹とはというと、このザマである。
「あぁ……やばい眼福だわぁ……」
一般人が聞けば、意味不明だと全員が口を合わせるような単語を並べてカーペットを転げ回る。この姿はもう、暴徒としか言いようがなかった。
彼女の名は、八雲優香。シスコンでは無いと本人は語るが、『あっち側』の人間である。
彼女は、これではいけないと言い聞かせて立ち上がり、夕食の準備を始めた。しかし脳内は現在、姉のことしか考えてないのである。
夕飯の支度を終え、椅子に座り待ち続けること3分。頭にタオルを乗せた姉が登場した。
「あ、ごめん優香。待たせた?」
「ううん?今終わったとこだけど」
「そっか」
いただきます、と、声を上げて、今日も二人の夕食をたいらげた。ここにお父さんとお母さんがいればどれだけ楽しいだろうか、なんて考えていたものの、虚しくなるだけだった。
明日は補習に行かなければならない。となると、大人数の部活動生と遭遇する羽目になるだろう。体育科なら、尚更である。
怖いなあ、と思いつつも、運動部系の人たちは裏表のない良い人たちのイメージが強い。これは、斗真というたった一人の存在が生んだ偏見だが。しかし、そう考えると、少しばかり安心した。
……どうして学校へ行くだけでここまで悩まなくてはならないのだろうか。理不尽に苛まれる理由は解らないが、この夜も深く考えないうちに現れた『自分が何か悪い』と決め付ける感情と共に、深い眠りに落ちた。
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