第10話 かつお節は抜き
空は晴れところどころ雲が浮かび、よそよそと風がふんわり毛をなびかせ、こっちまでふんわりしそう。
しかも、この真新しいふとん。
こころも体もふんわり~
いい気持ちです。これでほ〇っこがあったら、そりゃあもう。
そりゃ・・・もう・・
眠くなってきたよ。
ガチャと音がして目が覚める。
がちゃがちゃと鍵を開ける音がしてドアが開いて、天使が仕事から帰ってきた。
天使は冷蔵庫からジュースを出して、腰に手を当ててぐいぐい飲む。
ぷはーっ
おっさんですな。
キレイなおっさんはお好きですか?
ぼくはネコがいいです。
「お。犬くーん。暇そーですね。」
と、わしわししてくる。
暇ですよー。たーっぷり暇ですよー。
カリカリを色違いに並べるくらい暇ですよー。
「よーっし。じゃあ。仕方ないのぅ。散歩に行ってやろうじゃないかー。」
と、後光が射して見える。ありがたやー。
えっ。まじっすか。
行きます。行きます。
L・O・V・E天使様~
L・O・V・E天使様~
ふ~~~!
天使はリードを玄関の靴箱の引き出しから取り出して、カモンと手で呼ぶ。
男前やなー。
わたくし、こう見えて散歩の礼儀・作法は心得ております。
犬歴3年の大人の犬として、
じぇんとるまんとして必須の礼儀ですな。
①ご主人様の前を歩かない。
決してご主人様の横か一歩後ろを歩いて前に出ない。
おやつ減るからね。
②無駄吠え厳禁。
決して出会う犬に喧嘩吹っ掛けられても反応しない。
おやつ減るからね。
③立ち止まったら横で並ぶように座る。
暇だからってうろうろしない。落ち着いた大人な態度を心がけるべし。
おやつ減るからね。
④コースはご主人にお任せ。
しっかりアピールしつつも、決めてもらう事は一番大事。
おやつ減るからね。
よっしゃー。散歩じゃー。
俺は風になる~
と家から出たとたんに全力疾走。
あっ。しまった。
キキキー。
ふふっ。あぶないあぶない。
思わず、あまりの嬉しさに我を忘れてしまいました。
「駄目よー。車もいるから、気を付けてね―。」
おうおう。ソレはブーメランというやつですぜ。
あっ。いけね。
後ろを歩いてと。
しかし、いい天気ですねー。
近くのお宅からは、お夕飯のニオイしますしー。
おでんですかー。いいですねー。
お。こちらはカレーですかー。タマネギが入ってなかったらご相伴に預かりたいですねー。
あら。こちらのお宅。またフアーストフードですか。太りますよー。
おー。こちらは焼き魚ですか。いいですねー。
ん?これはたこ焼きですか?耳落ちませんか?よく大丈夫てすねー。
お腹すいてきた。
しばらく歩いていると団地から川沿いの土手に出て歩き出す。
その方向をしばらく歩くと能天使の家がある。今日はそこへは行かないだろうが、なんとなくそちらを歩いてきたようだ。
お。あそこに見えるのはご近所さん。あちらも散歩ですかー。
「こんにちは。お散歩ですかー。うわー、かわいいですねー。ボストンテリアですかぁ?」
天使はかがんで、お隣さんの犬を覗き込みながら言う。
「あら。お隣さん。よくわかりましたね。そうなのよー。うちの人がこれがいいって。私はもっと大きいのがいいと思ってたんですけど、お店で気に入ってしまってねー。ねー。」
とわしわししながら話す。優しそうな顔は、にっこりしてて誰でも仲良くできそうな人だ。
「あっ。そうなんですね。ご主人さんも犬好きなんですね。」
「そうなの。私は詳しくはないのだけどね。前から飼ってみたかったみたい。えと。そちらはなんて犬?白くて毛が長くて見たことない犬ですわねぇ。」
「あっ。なんだっけ?そー言えば聞いてなかったわ。」
おいおい。そりゃないですぜ姉御~
そりゃ、捨てられそうな犬って思ってりゃ、それまでかもしれないけどさー。
傷つくわー。
「あれー。君はなんていう種類の犬でしたっけー?すまないねー。聞くの忘れたよー。」
と優しい笑顔でわしわししながら話しかける。
もー。あっしにもプライドってもんがあるんですから、お願いしますよー。
いいですか。オールド・イングリッシュ・シープドッグっていう種類なんですよー。
まっしろだから、ピレニーとか言われそうですけどね。
ほら。顔が違うでしょ。
「えーっと。ゴールデンレトリバーとかかな?」
とお隣さん。
ぶぶーっ。
違います。毛の色が全く違います。
こっちはもっさり生えるし。キラーン
手入れしてあるから、ほら。めっちゃキラキラ。
みてみて。キラキラ。
「なんかよくわからないなー雑種かな?」
と天使。
がーーん。
おいっ。
こらこらこらこらこら。
なんちゅーこというん。
オールド・イングリッシュ・シープドッグですって!
「あら。そうかもしれませんねぇ。見たことないですしねぇ。」
がーーーん。
まてーっ。
こんな高級そうな雑種いるかっ。
もーっ。いやっ。
胃が痛くなってきた。
胃薬帰ったら下さいねー。
お隣さんと天使は近所のスーパーの話で盛り上がりながら立ち話を始めるとどんどん盛り上がり、しばらく終わらなさそうだ。
そのうち散歩中のコッカースパニエルを飼っているお宅と一緒に盛り上がりだす。
「おまえんちも大変だなー。」
どちらともなく犬同士の会話になる。
「まあ、俺たちは幸せにやってるけどなー。」
と、ボストンテリアがコッカースパニエルの肩に前足を乗せドヤ顔でいう。
「なに。付き合ってんの?すげーな。いつからよ?」
「この間、散歩の途中でタイプのニオイだったなーと思って、うちを抜け出して家に行ったのよ。そしたら目が合っちゃって、それからよー。うははは。」
ちょっと男らしく自慢しているようだ。
「やーねー。あなたったら。いい加減にして。」
コッカースパニエルもまんざらでもない。
「あー。そうっすかー。お幸せにねー。」
共感するところがないからなー。
思ってるより冷めた反応にちょっと残念なテリア。
「お前はどうなんだよー。メスのニオイはしないぞー。」
コッカースパニエルにどつかれている。
「いてっ。ごめんて。」
「あー。あっしすか?いやー、あっしはもっとこう、小さくて柔らかい感じがいいというか。しなやかというか。」
「わかるぜっ!こうやわらかくて、付くところは付いてて、しなやかナイスバディなオネーちゃん!フゥー!」
めちゅくちゃどつかれ始めた。
「あんな感じ・・・。」
と近くの家の塀の上のメス猫を見つけて見つめる。
「ん?」見つめる先を見る。
塀の上のメス猫・・・。
コッカースパニエルと顔がボコボコの犬は顔を見合わせて引いている。
「おまえ・・・アレか、そっち系か。」
「おぅ。そっち系じゃ。」
「・・・。」
コッカースパニエルはドン引きしている。
「そりゃ。若いのとかいいけどよ。それはちょっと・・・。」
「あの白いお腹がちょっとたまらんよね。」
「いや、そうじゃなくって・・・。」
「そうそう、白いソックス履いたみたいになってる子とかいいと思うし。」
聞いていない。
「犬ならそういうのいいと思うぞ。」
ちょっと話を戻そうと努力してみる。
「そうだろー。あのくるっとした目とか丸い背中見てるとぞくぞくするよねー。」
「駄目だ。あいつ。」
諦めた。
「たまらん。あのピンとした耳。首の後ろ噛みたくなるわー」
「・・・。」
「大丈夫・・・?」
ちょっと心配になってくるコッカースパニエル。
「うん。ドキドキが落ち着いてきた。」
「おまえ・・・病院行った方がいいぞ。」
「いこっかー。さよならー、みなさん。」
と家に引き返す天使。
見知らぬメス猫にドキドキした犬はちょっとだけ罪悪感の残る散歩だった。
あー。会いたいなー。三毛猫ー。
「今日はおりこうさんでしたねー。褒美にかつお節をやろうではないかー。」
まじっすかー。やたー。
と思わず全力疾走で飛び出していく。
「きゃー。こらー。急に走り出すなー。」
「待ってよー。もーっ。かつお節はなしっ。お預けなんだから―。」
かつお節は出なかった。
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