第5話 伍

 

 意識が戻ったのは、迷子用の小屋の中。

 テーブルの上に、突っ伏して寝ていたようだ。

 右手には……小さな銃を……握っている……。

 銃をテーブルの隅に置いて、頭を抱えた。

「はぁー……」

 やりたくない……。

 帰りたい……。

 どうしてこうなった。オレは上司の無茶ぶりにも、胃薬片手に頑張って、真面目に生きて来たじゃないか。おかげで、時間が取れないから、新しい彼女もつくれない……のに……同期の奥村は、今月から彼女と同棲するんだって、嬉しそうに連絡してきて……何なんだ、今の、オレの、これは!

 メルヘンが視界を占領して、胸がむかむかする。

 こんな可愛いらしい世界で、こんな気分になるなんて。

 ああ、洗濯物が干しっぱなしの、オレの部屋でゆっくり寝たい。

 はあ……

 でも、やらないとマジで、帰れないのか?


 日が落ちて、部屋の中が暗くなっていた。

 月の光が蒼白く仄暗い。

 電気は……ないよな…………ロウソクってあるのかな?……メルヘン様式で考えると、ランタンとかか…………アッ!

 オレは、方法を見つけてしまった。

 きっと、オヤスミンは灯りを持って、この小屋に入って来る。

 扉が開いたら、灯りを狙って、暗がりから撃てば、身体のどこかには当たれば……麻酔だから、それで、いいんだよな……効くよな……。

 罪悪感が胸ぐらを掴んでくる、だが。

 やっぱりオレのほうが可愛い。

 ごめん、オヤスミン。

 さっき会ったばかりなのに、親切にもしてもらったのに……でも、麻酔銃だから、多分、死なない、はず…………帰ったら、太眉とちょび髭を全力でぶん殴るから…………ごめんなさい、許してください。


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