第3話 参


「それは大変だったねぇ」

 オヤスミンには、同情されてしまった。

 オレは今までの経緯を話した。攫われて、問答無用でここに送られて来たことや、ついでに会社の上司の愚痴もポロポロすべらせた。

 ミッションについては、もちろん言わない。

「ひとり暮らし、なんですか?」

 甘酸っぱい小粒の果物を貰って、話しながら一人で完食してしまった。

 連れて来られたのは、またメルヘンな山小屋風の一軒家。

 ベッドとテーブル、椅子が2脚。水道は無くて、水瓶がある。

 程よく小ぢんまりとしていて、居心地は悪くなさそう。

「ここはボクの家じゃないよ。迷子用かな、最近、多いから用意したの」

 シーツを交換しながら、オヤスミンが言った。

 そういえば、オレを3号って呼んでたな、あいつら。

「……その、前に迷い込んで来た方たちは……どうされてますか?」

 ネガティブな発想が頭をよぎる。

「いつの間にか、いなくなっているんだよねぇ。元の世界に帰れたんじゃない、かな?」

 と、コテンと可愛いらしく、小首を傾げた。

(可愛いな、モフモフ)

 その仕草に暗い気持ちが少し癒される。

 アパートがペット禁止じゃなければなぁ。

「じゃあ、夕飯の用意が出来たら、呼びに来るね。それまではここで休んでなよ」

「ありがとう」

 オレが素直に礼を言うと、耳をピクンっと揺らして出て行った。

(モフモフしたいな……)

 オヤスミンのモフモフを妄想で撫でようと、手を伸ばそうとした……が、また意識が遠くなった――。


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