第十一話 「筋肉を信じろぉぉぉぉッ!!」
遺跡の出口で目にしたのは、『森の王』があちこちを荒らしている姿。前に遭遇してから一日しか経っていないのに、ジークさんが斬った三本の指が復活している。
『森の王』が視線を向けている先に、人がいるのを見た。どうやら数人で抵抗しているようだ。
「あれは、まさか!」
彼らを見てジークさんが先走る。
「待ってください、ジークさん!」
「待てと言われて退く人間じゃないわよ、あいつ。あたしも加勢する! ミュウ君たちはそこで待機!」
あたしはジークさんを追って飛び出す。どうやらあの人たちが、ジークさんの仲間で間違いないようだ。
ジークさんが『シュニーロマンサー』を
「これ以上はやらせん!」
彼女が『シュニーロマンサー』の刃を地面に突き刺すと、『森の王』の足下から氷の柱が出現し、奴の動きを止める。
「この攻撃……隊長!」
「助かったぁ!!」
ジークさんの小隊の仲間たちが喜びの声をあげる。
「皆、大事ないな? 今のうちにその場を離れろ!」
「無理です! 副隊長が瓦礫の下に!」
「何!? ノルンが!?」
ジークさんに追いつき、あたしは状況を把握する。ジークさんが探していた小隊メンバー、数は四人。その副隊長のノルンって人が瓦礫の下敷きになって動けない。他のメンバーはノルンさんを守るのに手一杯。
「だったら!」
あたしは動けない『森の王』を無視して、ノルンさんの方へ駆け出す。
隊員の報告通り、ノルンさんは瓦礫に両足を挟まれていた。
黒髪のボブカット、丸いメガネをかけている女性。
そういえばジークさんが丸いメガネを特徴として挙げていたのを思い出した。この人のことだったのか。
「えっ、ラグナ族の人……!?」
「しっかりしてください、今瓦礫を持ち上げるので!」
瓦礫を両手で掴み、力を込める。これくらいの瓦礫なら、あたしの力でも大丈夫だ!
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
ノルンさんの足を挟んでいた瓦礫を、魔力を使わず鍛えた筋肉で持ち上げる。
いくらラグナ族が筋肉のつきやすい体質とはいえ、まさかひとりで瓦礫を持ち上げるとは、という顔で唖然とするノルンさんを尻目に、あたしはそのまま瓦礫をひっくり返した。
「ふぅ……」
「いやはや、ビックリしたッス。おかげで助かったッスよ」
「とにかく、あたしに捕まっててください。この場を何とか切り抜けます」
ノルンさんはしばらくまともに歩けないだろう、ということであたしの肩を貸してノルンさんを背負う。
「ジークさん、副隊長さんはこっちで助けたわよ!」
「ありがたい!」
「奴が動けぬ間にできるだけ距離を取る! 早くせい!」
リテラがミュウ君やニューと共にあたしとジークさんの小隊を退路へ誘導する。全員で遺跡から離れつつ、あたしたちは脱出を図ろうとするが、しかし。
何かがひび割れるような音。『森の王』がその怪力で凍結地帯から抜け出そうとしている。想定より自由になるのが早くなりそうだ。このままだと逃げ切れないかもしれない。
「まずいッス!」
「しっかり捕まっててください、跳びますよ!」
「えっ……ふにゃっ!?」
あたしはノルンさんを抱えたまま走った。『森の王』に向けて一直線に。
「筋肉を信じろぉぉぉぉッ!!」
助走をつけて、跳躍。高度は『森の王』の約三メートルほどの全長を軽く越えた。
ノルンさんの驚愕をBGMにして、ジークさんのいる『森の王』の背後に砂埃をあげて着地する。既に他の隊員たちはジークさんの傍にいた。
「なんと鍛え上げられた筋肉……レヴィン、王国騎士団に入ろう!」
「いや、そういうのいいから」
放心しているノルンさんを降ろしながら、ジークさんのスカウトをやんわり断る。
「気をつけてください! もうすぐ氷が破られます!」
「任せて、考えがある!」
ミュウ君の注意喚起に合わせるように、あたしは右手を掲げて『ソルマドラ』を
「『森の王』がいるところの下は祭壇のあった広間……つまりは空洞!」
籠手のある右手に力を集めるイメージで魔力を集中させていく。
『ソルマドラ』の
これならば、『ライジングナックル』のレントが使っていたあの技も可能だろう。
「『我流・ライジングアーツ』――」
詠唱の間に『森の王』が氷のフィールドを破っていく。今更、遅い!
「『サンライト・ウェイブ』!!」
地面に右手を叩きつけ、太陽の魔力を注いでいく。太陽の波動は地を走り、『森の王』の足下まで迫った。
『森の王』が右脚を踏み込んだ、その時。
地面を伝わっていた波動の衝撃が炸裂し、『森の王』の足下が崩れていった。
「やった!」
「すげぇや姉貴ィ!」
『森の王』が下の広間へ落ちていく様子を見て、双子が歓喜の声をあげる。
一方でジークさんの小隊は、子供のように興奮するジークさん以外、唖然としていた。
「おおっ! あれだけの腕がありながら、策士でもあったか! ますます騎士団に欲しい人材!」
「いや、でもいいんスか……? 一応歴史的価値のある遺跡ッスよ?」
「そこはごめんなさい……これしか方法がなくて」
一応遺跡に留まっているかもしれない先住民の皆さんの魂にも謝っておこう。
「まあよい。そこのメガネの娘」
「えっ? ウチ、ッスか?」
「奴はあの程度で死んではおらんじゃろうから、『森の王』について情報交換をしたい。近くの安全地帯を知っていたら教えて欲しいんじゃ」
「う、ウッス! 今回の討伐に際して、拠点にさせてもらってる小さな村があるッス」
「よし、奴が起きる前に急ぎここを離れるぞ」
リテラがいつの間にかノルン副隊長さんを丸め込んでいる。まあ、話が早くて助かった。
「ノルン、まだ脚が痛むだろう。私が背負うから道案内を――」
「いや、隊長は後ろからついて来てくださいッス。ラグナ族の人に背負ってもらうんで」
「そうか。ならば背後は任せろ」
「ラグナ族の人~、村までまた背中を貸して欲しいッス~!」
あたしはノルンさんの頼みを引き受けて、再び彼女を背負う。
はて、ジークさんは隊員にここまで信用されていなかったのだろうか?
「いいんですよ、隊長さんに甘えても」
「別にそういうのじゃないッスよ」
「そうなの?」
「隊長ったら、『騎士小隊の隊長たるもの、皆を導き先頭を歩くべきだ!』とか言って前に行くもんだから、いっつも隊列を無視してひとりでいなくなっちゃうんスよ」
えっ、じゃあジークさんが小隊メンバーとはぐれた原因って……。
「心中、お察しします……」
「もう慣れたッスよ……」
とんでもないジークさんだ。
あのポンコツ隊長に道案内だけはやらせないでおこう。
心の中で誓いを建てつつ、あたしたちはジークリンデ小隊と共に森を抜け、件の村へと向かうのだった。
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