第100話 この人にしか相談できないと思ったり
purinmania:僕? 取引先では私のほうがいいし、それはまぁ、言える機会があるなら言ってもいいんじゃないですか?
おつぼねぷりん:周りの人が、一人称「僕」とか「俺」だったりするから、その人だけに言いにくいんですよ〜〜
まぁ、言うとするなら、月影さんの場合は、うちの課に移ってきてからということになるんだろうけど。
purinmania:ほかの人は言われないんだ? どうしてですか?
おつぼねぷりん:たぶん、「男性だったらそこまで違和感ないけど」って思ってるんだと思う
purinmania:ああ、そういう
purinmania:そういう意味か
プリンマニアは理解が早い。
おつぼねぷりん:かなりボーイッシュな人で。化粧しないから、女性は化粧するのがマナーっていう暗黙の了解から外れてる。それで、直させろって話になってるそうで
まじで言いたくない。ほんっと言いたくない……。
purinmania:それ
おつぼねぷりん:はい
purinmania:おつぼねぷりんさん、トランスジェンダーの人っていう可能性も考えて、口を出すの、嫌だと思ってるでしょ
おつぼねぷりん:なんでそう思いました?
purinmania:わたしに話したからですよ
「…………」
言われてみると指摘の通りだ。人に話すと、はっきりと言語化されるんだな。
おつぼねぷりん:相談したいというより、プリンマニアさんの反応、知りたかった。確かに
無意識に、プリンマニアならどう感じるのかを、探りたかったのかもしれない。
本当は、当事者に聞く方がいいのはわかってる。
でもこれは、プリンマニアだから――プリンマニアにそこまで、自分の性別に対する違和感がなさそうだから、話に出せたのかもしれなかった。
この人が自分の性別に対しての悩みを話してきていたら、かえって私は失礼な事を言ってしまっていないか、嫌な気分にさせないか気を揉んで、話題に出せなかったかもしれない。
LGBTQと一口に言ったって、それはセクシャルマイノリティをごったにした呼び方で、人それぞれ、何を感じて生きているかはまったく違う。私が傷つくのと同じように、私の言葉が人を傷つけることはあるのだ。知らずに。無意識に。
プリンマニアにまでイヤなことを言った私が、他の人に言わないでいられる保証なんてない。
たぶん、気づいていないだけだ。いままでだって、無意識に、LGBTQに属する相手も、そうでない相手も。きっと立場の違う人間をたくさん傷つけている。
自分は気を使われたくないと思うくせに、何かまずいことを言ってしまいそうで、縮こまる自分もやっぱりいるのだ。
だから、私は、「まずはプリンマニアに」軽く探りを入れたかったに違いない。
そもそも、プリンマニア以外に、この手のことを深く話せる人なんていないし。
purinmania:たぶん、いまおつぼねぷりんさんが欲しがってるのは、自分以外の人間の正直な感覚だと思うから、言葉を選ばずにいきますね。その人がそうかは置いておいて、まだ仲良くない上に、上司でも何でもない相手にああだこうだ言われたら、わたしなら何コイツって思いますよ
一瞬ウッと来たのは、まさにそうだろうと思ったからだ。
おつぼねぷりん:ですよね。私もそう感じると思う
purinmania:そもそも指示系統が違うし。言えって言われた通りにただ言う人形になるのもなんだかね
そうなんだよ。そうなんだよ!
正直、頼まれても困る。人間関係的にも。
しかし、言葉にして言われてしまうと、完全に追い込まれた気分になってきた。これで課長や小林の言う通りにしたら、自分自身にだけじゃなく、プリンマニアにも操り人形扱いされそうだ。そっちの道を絶たれてしまったような。そして、こういう感じ方をする自分も、嫌だった。
――言葉を選ばずにいきますね、か。
そうだ。この人、知り合ってすぐに説教してきたぐらいだし。けっこうバッサリ言う人だったんだよな。
purinmania:悩ましいですね
おつぼねぷりん:プリンマニアさんなら、ぐるぐるしないで、うまくかわせる?
purinmania:かわせるかはわからないけど、自分が手を出せる範囲のことしかしないと思う
おつぼねぷりん:手を出せる範囲ってどこまでなんだろう
purinmania:わたしなら、完全に保身に回ります。その人にしろ、上司にしろ、下手につついて何か出てくるくらいなら、どっちもつつきませんね。どうにかして放っておきます
放っておく……?
小林がせっついてくるなかで、できるだろうか。私にそれが。
考え込んでしまい、返事がなかったのを、プリンマニアはどう感じたのか。追加の書き込みが入った。
purinmania:放っておいて欲しい事ってあるでしょう。言い方を変えようかな。余計なことは何もせず、見守る
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