第86話 傷つけたのに気付いたり
――わかってますよ。
返信を見て、我に返った。
書いたことをすぐに後悔した。
あ……。
自分の小説と、自分の恋愛を否定しただけのつもりだった。
でもこれ、そうなってない!
プリンマニアの状況は、私の小説のまんまなのだ。
え? 何? 私、プリンマニアに何言ったの?
なんと返信しようと迷っているうちに、プリンマニアから、トークが入る。
purinmania:明日も仕事です。もう遅いので、また今度
おやすみなさい、のスタンプが入ってきた。いつも送られる、プリンのおやすみスタンプ。
あ、あ、あ……。
このままおやすみスタンプを送って済む感じじゃない。返信をどうしようか考えあぐね、挨拶のスタンプすら送りそびれた。どうしよう。時間がどんどん経っていく。
気がつくと、時計の針は、午前一時を指していた。
本当にどうしよう。
トーク終了直後ならともかく、一時間以上経ってしまっている。今なにかスタンプを飛ばしたらかえって迷惑になる。
え? 私、なに? なんでわざわざ、同性を好きになるの不毛だとか、ルームメイトを好きになるなんて自分は絶対にしないとか、言ったの? 相手に迷惑だとか。プリンマニアに。なんで?
プリンマニアにそれを言うって。
これはない。いくらなんでも、これはない。
「っ、あぁ~~~……」
布団を転げまわり、何度も自分の打った文章を読みなおした。プリンマニアの立場になって読めば読むほど、文が刺さる。
終わったこととして私は書いた。正直、ほんとうに、あの感情は自分にも唯花にも迷惑なだけだった。嘘は言ってない。
でも、プリンマニアは現在進行形だ。
これを読んだのがちょうど高校のあの時期だったら、自分だったらどう感じるんだよ。喜ばれないとか迷惑とか、他人に言われてみろ。
っていうか何これ、ほんとに何これ。なにを書いたんだ、私!
消してしまいたい。むしろさっきの自分を消したい。
もう消せない。トーク画面から文を消すことはできても、プリンマニアの意識からはもう消せない。
謝らなくては。不用意な言葉を。
朝……朝、プリンマニアが起きていそうな時間に、メッセージを送ろう。携帯のメモ帳に、プリンマニアに送るトークの下書きを入れる。
ちょっと入力して、すぐに消した。
いやこれ……ただの言い訳だろ。こんなの、なに書いたところで……書いたことは消せないよ!
こんなつもりじゃない、あんなつもりじゃないと、言葉で自分を弁護して飾ったところで、何になるんだ。プリンマニアに一度刺さったとげは抜けない。
書いた文章を消し、入力しては消す。そうしているうち、気が付いたら窓の外が白みはじめ、鳥の声まで聞こえてきた。
結局、そのまま月曜の朝を迎えてしまった。
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