第19話 プレゼントの相談をしたり
そろそろ、悩ましい季節がやってくる。
悩ましい季節、悩ましい日。
芽生の誕生日。
私は芽生のようなお洒落な料理は作れない。
お手製のローストビーフだの、内臓を取るところからやっていそうな豪華な魚料理だの。女子力高そうな糖質制限なんたらだの、野菜たっぷり美しい色合いの、ベジタリアンが狂喜しそうなスープだの。
そんなもんは、インヌタ蠅とやらがやればいいのだ。
そんなもんは、何を入れるつもりなんだと小一時間問い詰めたくなるような小さな鞄で出かける、芽生のようなイヤミなやつがやってればいいのだ。
私は「安定」で勝負だ。絶対確実なレシピがほしい。
今年はごく普通の、市販のルーで作るホワイトシチューと、芽生の好きな海鮮サラダを献上する予定だ。
デザートが問題だ。
芽生の好きなものといったら、一つしか思い浮かばない。
――プリンだ。
でも、芽生にプリンを作るとか、とんでもない。
昔、芽生に感化されて一回だけプリンを作ろうとしたことがある。
難しいものは無理なので、ネットで検索して出てきた、一番簡単な作り方。マグカッププリン。
卵と牛乳と砂糖を菜箸でかき混ぜて、マグカップに注いで、電子レンジでチンするだけというお手軽プリンだ。プリンの黒い汁の部分は、高温になりすぎると皿が割れるとか、怖いことが書いてあったから省いた。
出来上がったプリンを見て、ああこりゃ違うわと思った。
明らかに、芽生の作るものと違っていた。スポンジのような小さな穴がたくさん開いて、舌触りはボコボコだった。
あれを芽生に食べさせるとか、けちょんけちょんにけなして下さいと言っているようなものだ。ある意味自分を餌として与えるようなもの。マウンティング女子の射程範囲内に自ら入るような真似はしたくない。プリンだけでなく、せっかく作った私の真心までボコボコにされる。
となると、プロの力で何とかするしかない。
――私の頭に浮かんだのは、プリンに対して執着のある、芽生以外の人間だった。アドバイスを個人的にお願いするには遠い存在、でも、芽生と同様、プリンに対してやたらと食いついてくるちょっとおかしな人間。
確信がある。
たぶん、あの人は、私がプリンの話を振ったら、無視しない。
私は「書いたり読んだり」のサイトを開き、「新しい近況ノートを作成」のボタンを押した。
タイトル、と書かれた下に、「タイトルを入力…」の文字が薄く書かれた欄がある。そこにこう打ち込んだ。
――プレゼントプリンについて。
本文
実は、プリンの大好きな友人に、プリンをプレゼントしたいと思っているのですが、手作りにあまり自信がありません。
そこで、もしプリンに詳しい方がいたら、ここのプリン美味しかったよ、みたいな情報があったら、教えてください! 全国展開されているコンビニとかのプリンだったらどの地方の人の意見でも歓迎です。お取り寄せとかも素敵ですね。
関東住みなので、関東――だいたい東京とか品川とか渋谷とか横浜とか、遠くても鎌倉ぐらいかなぁ……関東のそのあたりなら、店舗に行けます。人にプレゼントするのにいいような、デパ地下とかケーキ屋さんのプリンで、いいのが何かあったらと思っています。求むプリン情報!
そこまで打って、公開ボタンを押した。
これで、私をフォローしている人間に、近況ノート更新の通知がいく。
あとは、自分でも調べるだけだ。
二時間ほど、いろいろなプリンのタベタロカログなんかをネットで閲覧し、もういちど小説投稿サイトを開いて、
「うぁ……」
思わず声を上げた。
近況ノートのコメント欄に、それはもうびっしりと、文字の羅列があったからだった。文字数が多すぎて入りきらないから、何回もコメントしたらしい。いくつものコメント欄ができあがっていた。読むにも時間がかかりそうな、げっそりしそうなレベルの詳細な情報を、全部、たった一人、プリンマニアさんが入れてくれていた。
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