第15話 復讐に徹しきれなかったり
和美は桜の唇をじっと見ながら、きょうもプリンを食べさせる。
この日は少し様子が違った。和美が、桜の手をにぎったのだ。
手をにぎったまま、桜にプリンを食べさせる――。
プリン小説の下書きに文を連ねて、私は少し考える。
芽生が変態モデルのエロ小説とはいえ、一応これは百合なんだから、さっきの感覚を、作品に還元しよう。悔しいけど。桜にそろそろ和美を意識させよう。
手をにぎられたことで、桜は急に気が付いた。和美が、近い……。
そこまでキーを打って、顔の周りがカーッと熱くなっていることに気が付いた。
さっきの芽生は、やたらと近くで、手を握りながら、じっと私を見つめながら、プリンを食べさせ続けた。じりじりと焼かれるような視線を思い出す。
ほんと、そう感じること自体、ヘンだ。
プリンマニアのせいだ、切ないとか、変なこと書くから!
芽生を変態にしようと思っていたのに、これじゃ、私だけ変みたいじゃないか。
――意識しすぎたせいで、プリンをうまく飲み込めない……咳き込んだ桜の唇の端に、プリンが少し残ってしまった。和美はついに、桜の唇に手を伸ばした。
「こぼすよ」
~~~~!!!!
また芽生が頭にちらついた。当たり前だ、芽生がモデルなんだから。
でも、ちょっと、これ、生々しすぎる。こぼすよ、じゃない! 手にぎってくんじゃない! 意識しすぎたらどうすんだよ!
無理して話を続ける。
「こぼすよ」、を削除して、「垂れるよ」へ修正した。
――桜の唇に手を伸ばした。
「垂れるよ」
指が唇に触れる。
「口から垂らすとか、お子様かっての、貸しが今――」
わたしは「貸しが今」だけバックスペースを押して消す。芽生はやなやつだが、和美をそこまで嫌なやつにするつもりはなかった。
「口から垂らすとか、お子様かっての」
桜の唇のプリンを指ですくって、なぞるように、半分開いた唇の間に誘導する。柔らかい感触が私の指をプルンと押し返す……気が付くと、私の呼吸が乱れていた。なんということだ、これは……俗にいう、興奮状態だ。じかに感じた唇のやわらかさがあまりに生々しく、私はハァハァしてしまっていた。私は、桜に対しては、変態になれてしまうのかもしれない。
芽生は……あれは、過呼吸だった。ちょっとかわいそうだ、さすがにそんな姿を変態へ変換するのは。
でも、
「入らないで!」
「触らないでくれる?」
「能天気なあおいに――」
そんな芽生の反応には、ほんとうに、腹が立った。
いいんじゃないか? ちょっとぐらい、いつもどおり、変態にしてやっても。プリンを作れるようになったんだし、もういいだろ。
だってこれは、ただの、フィクションなんだし。芽生に読まれているわけでもなし。
でも、芽生はLIMEで謝ってきた……。
ごめん、ありがとうって、わざわざ、言葉にして送ってくれた。
そういう芽生はちょっとやっぱりかわい――。
ターン!
エンターキーを押して、公開の青いボタンを押す。
ごめん、芽生。
私だけ変になるのはごめんなんでね。やっぱ変態としてその身を捧げてくれ。
私のなかでは今、借りが三百四十四になってるよ。風呂掃除して一引いとく。
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