小説書きさんと、ふたり

銀色小鳩

第1話 書いたり

 私は小説を書いている。


「書いたり読んだり」を意味しているような名前の小説投稿サイトがある。そこに、書いて投稿している。周りには内緒だ。

 書いている内容が、いわゆる「百合」だから。


 百合。ゆり。GL。ガールズラブ。

 いわゆる、女性同士の同性愛を描いたものを、そう呼ぶ。


 女の子が好きな私は、完全にそれを隠して生きている。

 隠していれば、恋愛対象でもない女の子と温泉に行こうが、着替えが一緒になろうが、「あんたには別に興味ないし」みたいな言い訳もしないで済む。

 無駄な誤解ほど、めんどうくさいものはない。


 ストレスは、たまる。


 周りの友達がデートだなんだと浮かれるなか、私には誰一人、恋愛対象になる相手がいなかった。私に絡んでくるのは、ムカつく会社のお局と、ルームシェアしている友達だけだ。


 友達とのルームシェア……設定自体は百合にいい。実にいい。最高だ。


 相手が問題だ。


 芽生めい。こいつは、曲者だ。

 話す内容が金の話ばかりだ。ロマンティックとは程遠い。


 しかも、私を攻撃してくる。だらしない、と。私の金銭管理が、ドンブリ勘定すぎるというのだ。

 そんなにドンブリ勘定の女とルームシェアするのが嫌なら、やめればいいのにというと、上から目線で、言うのだ。


「あんたがドンブリ勘定だから、付き合ってやってるんだ、文句言うな」


 と。


「だらしない生活してると、だらしない体型になるよ」


 年末年始に少しでも太ろうものなら、芽生はすぐに脇肉をつまんでくる。


「ほらね、うふふ」


 あごの下も、揉んでくる。


「ぷにぷにから、ぷよぷよに。ぷよぷよが、ブヨブヨに。うふふ」


 そう言いながら、芽生は、わざと美味しい料理を作るのである。上から目線で。


 なんというか――あれだ。

 綺麗に盛り付けられた意識の高い料理。ダイエットも頑張って、美しくあろうとしている女子。カッコいい……インヌタ映え、待ったなしだろ……オマエはついてこれないんだろ? ……的なマウンティングをかましてくるのだ。


 マウンティングするためなら、人を引きずり下ろす。

 それが、芽生だ。


 ダイエットすると表明した日も、そうだった。だらしない体型になるなと言うくせに、


「肥えればいいよ」


 そういって、芽生は私に、スプーンで、プリンを食べさせる。


 シチュエーションだけは、百合として最高なはずだった。

 芽生の外見だって、けっして悪くない。というか、自分でいうだけあって、芽生はかなりすらっとしている。背も高いから、中性的な格好もよく似合うし、腰も細めだからウエストの目立つスカートなんか穿くと、「腰ほっそ……」なんて舌打ちしたくなる。出るとこは出ているし、細すぎて棒みたいなんて事もない。正直、中身さえこいつでなければ、好みのタイプといってもいい。


 そう。

 中身さえこいつでなければ。


 芽生は、私にプリンを、食べさせたがる。はい、あーん、っていうのをしたがる。


 それだけなら百合モデルとして申し分ないのに、


「卵をいくつ使ったから、いくらいくらだった。卵いくつぶん、奢りね」


 と非常に細かい計算をして、わざわざ伝えてくる。


 せこい。恩着せがましい。


 もちろん、もらいっぱなしには、しない。お礼にコンビニやデパ地下でデザートを買う。が、根っからだらしないので、金額なんか見ない。おいしそうだと思ったら、財布を開けている。


「はい、お礼」


 それがいくらだとか、わざわざ言わない。対抗心だ。私はあんたみたいにドケチじゃない。

 やつは、私のコンビニデザートにまで、口を出す。


「いくらだった?」

「みなかった」


 そういうと、決まって上から目線で、攻撃してくる。


「はぁ!? あんたほんと、そういうのやめたほうがいいよ。無駄遣いしすぎ!」


 なにかすればお小言だ。なんでお礼したのにギャアギャアいうんだろう。

 非常にあつかいづらい。


 お小言……。

 お小言で思い出す女が、もう一人、いる。お局だ。

 今日も私は、怒られた。

 明日やれ、とお局に言われた書類。それが、今日でないといけなかったらしい。人前で怒られた。


「あの、それ、明日にまわすようにって……今日は先に他のをやるようにって、」

「言い訳する頭を、もっと他に使うとか、しないの? あんた、何年この会社にいるの。どっちが優先順位が上か、自分で考えるってこと、しないの!?」


 もう本当にストレスがたまる。


 なので、復讐として、書く。

 彼女たちをモデルに、私は今日も百合エロ小説を書くのである。


 ストレス解消のためでもあったが、要は、モデルになるほど絡んでくるなまの人間が、その二人だけだったから、そういう寂しい理由もあった。他にあまりモデルがいないから。


 モデルに使ってごめんとは、思わない。日夜、彼女たちからストレス受けてるからね。

 このぐらいの愉しみは許せといいたい。


 おとなしく、百合エロ小説のモデルになるがいいよ!


 神様、あなたが悪いんです。

 私にお与えにならなかった世界を、私は小説に書くしかないのです。

 妄想の世界でなら、私はいくらでも飛び立てる。

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