第48話 ツンデレ少女
夕焼けに色づく森の中を、花冠の少女シェゼ、ダニェル、貴子がポォミの背に乗って進む。
名前はポォミと可愛いが、その姿は超巨体の雌熊だ。
しかも、人間の言葉が何となく理解できるようで、
「ポォミ、トォチ スナァイ」
とシェゼが言ったことに、
「ガウ」
返事をして方向を変えた。
「すげぇ」
「ノクエシォリ」
貴子とダニェルが驚きに声をもらす。
「フフ」
声を聞いたシェゼが振り返り、後ろに座るダニェルに微笑みかけた。
シェゼは、ダニェルが魔法使いだと思い込んでいた。
今から約一時間前、シェゼは、誰かのはしゃぐ大きな声を聞いて森の中を移動し、空を飛んでいたダニェルを見つけてこの男の子は魔法使いだと勘違いした。
ダニェルは、自分ではなく貴子が魔法使いなんだと何度も説明したが、シェゼは信じなかった。
ならばと貴子は、魔法を見せようとした。
しかし、よく考えてみれば、信じないからといって別段困ることがあるわけでもないのでそのままにしておくことにした。
説明をあきらめたダニェルがシェゼに自分たちの置かれた状況を話すと、ジェゼは、「じき日が暮れるから、今日は私たちの村に泊まっていって」と二人を誘い、三人は今、ポォミの背中に跨ってシェゼの住む村へと向かっているところだった。
「キエッタ」
シェゼがポォミに指示を出す。
「ガウ」
ポォミが一旦停止。
シェゼは、ポォミの背で立ち上がり、木から赤い実を数個とって、
「セア」
後ろに座るダニェルにプレゼントした。
「サリィシャ、シェゼ」
ダニェルが微笑んでお礼を言う。
シェゼは、頬を赤くしてはにかみ、熱っぽい眼差しでダニェルを見つめた。
この視線は、ダニェルを魔法使いと思っているがゆえの憧れや尊敬の眼差しではなく、恋する乙女の眼差しだった。
シェゼは、美少年なダニェルに一目惚れしていた。
「色男だねぇ、ダニエル」
シェゼの恋心に気づいている貴子が、ダニェルの後ろでニヤニヤと笑う。
「何?」
ダニェルは、キョトンとしていた。
シェゼの感情に気づいていなかった。
「いやはや、微笑ましい」
説明するのも野暮なので詳しいことは言わず、貴子は、笑顔でダニェルの肩をポムポムとたたいた。
そんな二人の様子をシェゼがじっとりとした目で見ていた。
「ハァテ サァミ ソワ ジミニィムシャ カァ シウ コミ ダニェル マス?」
貴子へ何かを尋ねるシェゼ。
「『貴子と、ダニェル、どういう、仲間?』」
質問の意味を図りかねているダニェルの訳。
貴子は、シェゼの嫉妬心からの質問だろうと考え、『どんな関係なの?』と脳内修正して、
「友達だよ」
シンプルに答えた。
「ワァナ ディ マイニィグ」
ダニェルがそれをシェゼに伝える。
「……」
シェゼは、怪しむように貴子をじーっと見て、
「ネドス ヘイシェグ」
何かを言ってからプイッと顔を前へ向けて座り直し、ポォミを出発させた。
「『服、変』」
ダニェルの訳。
ダニェルにはデレているが、ダニェルと仲良しな貴子にはツンなシェゼなのだった。
「クソジャリ」
貴子は、汚い言葉を吐いて怒りを静めた。
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