第45話 居場所

「フゥム……」


 センプテルオが埋まっているキルゴ兵たちのところへ行き、砂を手に取って観察した。

 そして、砂を落とし手をパンパン払うと、


「レーダーーーンッ、パウ!」


 呆然と突っ立っていた二百人の兵士へ向けて声を張り上げた。

 途端に兵士たちは、ピシッと背筋を伸ばして気をつけの姿勢をとった。


「シンクレイキオ!」


「セォ トァ!」


 センプテルオの呼びかけに背の高い四十歳くらいの男が反応し、みんなの一歩前に出た。


「セカ エイジンタイオ コゥ デイ マブ。カティ ジオ コーソ バニ デイ ハウター。セカ オゥレ バニ カルィン」


 センプテルオがつづけてその男へ何かを言うと、


「セォ トァ!」


 背の高い男は、拳で胸を叩いて返事をし、男たちのほうへ回れ右をした。


「センプテルオ、言った、『エイジンタイオ、テント、運ぶ。男たち、砂から、出す。カルィン、手当て、する』」


 というダニェルの翻訳。

 つまり、指示を出していたのだろうと貴子にもわかった。

 言われた背の高い男は、二百人の男を動かし、全員がテキパキと働きだした。


「センプテルオって偉い人なの?」


 その様子を見ながら貴子がダニェルに聞いた。

 ダニェルもわからなかったので、センプテルオに聞こうとしたら、


「メイエ、ウィム シア マウセェヤ」


 と言ってセンプテルオがダニェルを見た。


「ホアッ」


 ダネェルは、目を見開き、


「ヤァヤァヤァヤァヤァ」


 カクカク頷いた。


「どした?」


 貴子が聞くと、ダニェルは、


「センプテルオ、五年前、私と、お母ちゃん、見た、言った」


 カルィンの試合中にセンプテルオから聞いたことを話した。


「マジで!?」


 ビックリな貴子。


「それってどういう状況だったの!?」


 勢い込んで尋ねた。

 ダニェルも同じ質問をセンプテルオにすると、センプテルオは、次のように語った。


 今から五年前、デュワという町で、金色の髪のとても愛らしい子供と、その子と手を繋いだ同じ金色の髪の誰もが振り返るほどの美しい女性が船から降りてくるところを見た。

 女性は、子供をダニェルと呼び、二人は、とても幸せそうに笑い合っていた。


 それから約一ヶ月後、同じ場所でまたその女性を見た。

 しかし、女性の顔は暗く沈んでおり、隣りにあの少年がいなかった。


 その様子から、センプテルオは、あのダニェルという子供は事故か病気で死んでしまったのかもしれないと考えた。


 ひとり町中へと姿を消した女性の表情があまりにも悲痛だったため、ずっと記憶に焼き付いていたのだった。


「エス シウ ビェイ エマァフ。メイ ニス ルシャネェオ」


「『でも、あなた、生きる。良かった』」


 ダニェルが翻訳し、話は終わった。


「ふむふむ、ダニエルがお母ちゃんと別れたのは五年前だし、人違いじゃなさそうだな……」


 神妙な顔でコクコクと頷く貴子。


「デュワ……」


 ダニェルが母との記憶を呼び起こそうとするかのように町の名前を呟いた。


「ハセウ シィ シア マウセェヤ ビセナァ?」


 センプテルオがダニェルに尋ねる。


「メイ ニス ソクトォリフィン コォプフィン ソォフ メア マウセェヤ」


 ダニェルが答えると、センプテルオは口を閉じて静かに頷いた。


「センプテルオ、『今、お母ちゃん、どこ?』。私、『私、お母ちゃん、探す、旅の、途中』」


 というやりとりだった。


「よし、デュワね、デュワ。次は、そこ目指そう」


 貴子が提案すると、


「ヤァ!」


 ダニェルは、もちろん元気よく答えた。


「モウダン センプテルオ」


 センプテルオのそばに一人の兵士がやって来た。

 兵士がセンプテルオに耳打ちし、話が終わると、センプテルオは、


「メイ マス セステイン シュ カァ、メイ ニス ケェオフィン」


 と言って、ダニェル、貴子とハグを交わした。


「『私、仕事、きた。行く』」


 ダニェルが貴子に翻訳し、


「『モウダン』、『千人、隊長』、の意味。センプテルオ、千人、隊長」


 付け加えた。


「そうなの? めっちゃお偉いさんじゃん」


 貴子がセンプテルオの地位に驚き、


「じゃあ、ここにいるのって千人くらいだから全員がセンプテルオの部下か」


 周りへ目を向け、


「だったら、さっき兵士が暴れようとした時、止めてくれれば良かったのに」


 グチった。


「ハウム コゥクギン シウ キエッタ ダ レッカウィ メピァス?」


 ダニェルも不思議に思ったので、なぜ止めてくれなかったのか尋ねた。


 それを聞くと、センプテルオは、エイジンタイオの服や装備品を預かっていた男からカルィンが渡したお金の入った袋を受け取り、それを貴子のほうへと投げ、


「メイ ノォレオ シュ レェタ ダ ルルゥカ ソワ ダ サァミ マァリヤ ザノ エスレオ オク ダ シャダイ」


 と言い残してテントのほうへと去って行った。


「オゥ」


 答えを聞いたダニェルがビックリな反応。


「おっと」


 貴子は、お金の入った袋をキャッチして、


「今センプテルオ、マァリヤって言わなかった?」


 ダニェルに尋ねた。


「『シャダイの、町、来た、優しい、魔女の、魔法、見たい、思った、から』」


 ダニェルは、センプテルオが部下を止めなかった理由を貴子へ翻訳して聞かせた。


「私のこと知ってたのか」


 貴子も驚き、センプテルオが歩いて行ったほうへ目を向けたが、すでに姿はなかった。


「何で最初から知ってるって言わなかったんだろ?」


「不思議」


 貴子とダニェルが仲良く首を傾げた。



 ◇◇◇



 すべてが解決した貴子たちは、予定通りカルィンたち孤児の住むカテコ村へと向かった。

 村に着き、子供たちから大歓迎を受けた貴子とダニェルは、しかし、翌日には村を発った。

 村の子供たちは結婚式を見て行ってほしいと言っていたが、母親の情報を得たダニェルがソワソワしているのに貴子が気づき、先を急ぐことにしたのだった。


 そんなわけで、貴子とダニェルは、シャダイの町へ帰るとクゥツの家も早々に後にして、次なる目的地に定めたデュワの町へ向けて出発したのだった。

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