第12話 接吻祭り
勝利の興奮が落ち着くと、バッファたちは、相手が捨てた武器を拾い集め、野盗のテントの中から縄を見つけ出し、野盗どもを縛り上げた。
それを確認した貴子は、火の鳥を消し、ダニェルと一緒に河原へと下りた。
タダンも連れて行こうとしたが、貴子が近寄ると、怯えからギャーギャー喚いてうるさいのでそのままにしておいた。
貴子とダニェルが女、子供、男たちの間を歩いてバッファのもとへと向かう。
みんながダニェルを見ると、顔見知りは、「オゥ、ダニェル」と親しげに声をかけてきた。
みんなが貴子を見ると、「オゥ、マァリヤ……」と感動を込めたつぶやきを漏らした。
貴子が、そんなみんなに、
「ごきげんよう。お怪我はごさいませんか? えぇえぇ、マァリヤですよ。オホホホ」
聖母様気取りで挨拶をしていた。
貴子は調子をコイていた。
誰にも通じてないが。
「ハゥン?」
バッファが自分のほうへとやってくる二人に気づいた。バッファは、
「オゥッ、マァリヤ!」
貴子へと大股に歩み寄り、
「ごきげんいかがですか、バッファさん」
微笑を浮かべて調子コイてる貴子を、
「サリィシャ!」
と言って力いっぱい抱きしめ、
「おうふっ」
息を詰まらせる貴子の頬に、
「ン〜〜〜マッ」
感謝の熱い口づけをした。
「ぎゃーーーーー!」
貴子が悲鳴を上げた。
「ン〜〜〜〜〜マッ」
もういっちょう長めにした。
「おぎゃーーーーーーーーーーっ!」
長めに悲鳴を上げた。
それを見た他の男たちも貴子のもとへとやってきて次々に感謝の口づけをした。
「ぎゃーーー! ほぎゃーーー! やめて! 気持ちはわかったから! 私んトコそういう文化ないから! やめて離してせめて汗ふいて! あら、イケメン(うっとり)。おぎゃーーーーー! あんた唇に近いっての! 離してつかぁさい! 離してつかぁさーーーーーい!」
……
接吻祭り終了。
貴子は、グッタリしていた。
ほっぺが臭かった。
「ハッハッハッ、メイ ニス バッファ。オク ダ サァンヒルキ、メイ ニス メイエ エシャ メイ コゥクギン エリュ オク シウ ディ マァリヤ」
バッファが笑って貴子に話しかける。
貴子が無言でダニェルを見た。
訳して、という意味だ。
「『私、バッファ。昼、私、あなた、魔女、ウソ、言う、ごめんなさい』」
「ああ、魔女はウソって言って怒ったやつね。いいよいいよ、気にしてない。大丈夫。貴子です」
「『メイ カァギン チシェ。メイ ニス タカコ』」
ダニェルが貴子の返事をバッファに伝えた。
それを聞いたバッファは、首をひねり、
「タカコ ゼスギン エソォク マァリ ケット?」
ダニェルに聞いた。
「ヤァ。サハ ゼスギン エソォク タタァ アスヤァシャ」
首を縦に振り答えるダニェル。
「ホォン。テビ シィ ダ ランダ ナン ダ ノォル マァリヤ」
「ヤァ、ダ ランダ」
ダニェルが貴子を見て頷いた。
「ヤァヤァ」
バッファも貴子を見てコクコク頷いた。
「何の話?」
尋ねる貴子。
自分のことを話してるんだろうことはわかるが、内容はわからない。
「バッファ、言う。『タカコ、マァリ、言葉、話す、ない?』。私、『はい。他、言葉、話す、ない』。バッファ、『長い〜〜〜昨日、いる、魔女、同じ』。私、『はい』」
「マァリって何?」
「広い〜広い〜、ここ」
ダニェルが両手を大きく広げてから地面を指さした。
「もしかして、国の名前かな。ふむふむ、ということは」
貴子が脳内で二人の会話内容を整理する。
『貴子は、マァリ語が話せないのか?』
『うん。他の言語も話せない』
ここまでは、合ってるだろう。
謎の、『長い〜〜〜昨日』だけど……『ず〜〜〜っと昨日』? 『ずいぶん前』ってことかな?
てことは、
『ずいぶん前にいた魔女と同じだな』
『うん』
が正解だと思う。
「へ〜、私の前にも魔女がいたんだ」
興味津々の貴子。
「それってどのくらい前? どんな人? 今何してるの? 会える? 私とどっちがイケてる?」
ダニェルに聞いた。
「う〜ん、う〜ん……」
ダニェルは、困った顔でうなり、
「う〜〜〜ん……」
荷袋をゴソゴソ漁り、
「サァ」
銀のコインを差し出した。
「いや、そうでなく」
貴子は、ダニェルの手をそっと押し戻した。
「ダニェル、テビ シィ プレッジ シュ ベェウ オォリ シュ エ マァリヤ」
感心した様子でバッファがダニェルの頭を撫でた。
「ムフ―」
ダニェルが自慢げに鼻を鳴らした。
話の流れと表情から考えて、『ダニエル、お前魔女と話ができるのか。すげぇな』『ムフー』ってとこだろう、と貴子が頭の中でアテレコをつけた。
「トゥヤ!」
パンッ、と気分を変えるようにバッファが手を打ち鳴らし、
「ミィテヤ、クアック シェイ ソォフ エ モッタ!」
みんなへ向けて何かを言うと、
「ヤァ!」
全員が元気に答え、辺りへ散った。
「何?」
貴子がダニェルに聞く。
「バッファ、『みんな、食事、する』。みんな、『はい』」
「え。今から? ここで? マジで?」
「マジで」
「え~……」
こんなところで、とビックリな貴子だが、
「……でも、まぁ、そうか」
考えてみれば頷ける話だった。
今から村に帰るとしたら夜の森の中を通ることになる。
女子供連れで。
明らかに危険。
だからここで食事をして、その後も、おそらく夜が明けるまで休むのだろう。
野盗がここをねぐらにしてたってことは、この場所は、獣の害もないんだろうし。
貴子は、バッファが考えているであろうことが、理にかなったものだとわかった。
「シス シウ ミティ シュ ウィイダ リシュ?」
バッファが水入れ用の革袋を持ち上げて貴子に尋ねた。
「『お酒、飲む?』」
ダニェルの訳を聞き、
「飲む!」
貴子は、ダッシュでバッファのもとへと向かった。
……
貴子の予想通り、みんなは、明け方までここで過ごし、陽が昇ると野盗を引き連れて森を出た。
野盗は、男たちが町へと連行し、貴子とダニェルは、バッファたちの村に迎え入れられ、厚いおもてなしを受けた。
貴子は、滞在中、夕食時に出される酒をしこたま飲んでは翌日二日酔いで苦しんでいた。
そんな貴子を見て村人は、「こいつ本当に魔女か?」という顔をしていたとかなんとか……。
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