第9話 助ける
「バッファ!」
開いた距離を走って埋めて、ダニェルと貴子は、バッファたちに追いついた。
「ハゥン?」
男たちは、足を止めて振り返り、
「ハァテ シィ ケェオフィン アゥス、ダニェル?」
集団の先頭にいたバッファがダニェルのところへと歩いて来た。
「バッファ、ワァナ ケェオ シュ エレェイ、ヤ!」
ダニェルが握り拳を作りバッファへ力のこもった目を向ける。
「ワァナ? ダニェル コミ……ダ ジェイ?」
バッファが眉根を寄せてダニェルと貴子を見た。
「ヤァ!」
ダニェルは、大きく頷いた。
「ハンッ。カァギン トォム エ タミィトラ、ケェオ タァキェイ、ホゥッホゥッ」
鼻で笑ったあと、しっしっと手を振るバッファ。
それを見てダニェルは、
「ギン エ タミィトラ。アァルシェ タカコ シィ エ……」
セリフにためを作ってから貴子へ顔を向け、
「マァリヤ!」
聞いて驚けとばかりに紹介した。
言葉がわからない貴子にも、今のは、『貴子は魔女なんだ!』という意味だろうと予想できたので、
「イエス! アイム マァリヤ!」
胸を反らせてビシッと自分を親指でさした。
話を聞いたバッファは、
「……」
無言で表情を険しくした。
周りの男たちも眉間にシワを刻んで不愉快そうな表情を見せ、
「ブッ、ブハハハハハハハハハハッ!」
タダンは、体を折り曲げて笑った。
「マ、マァリヤ!? ダ ジェイ シィ エ マァリヤ!? ブハハハハハハッ!」
貴子を見る目には涙まで浮かべている。
「……エイ、ジュヤ」
そんなタダンを無視して、バッファが低い声を出してダニェルと貴子を見た。
「ハ、ハゥン?」
「な、何ス?」
バッファの迫力に怯えた二人がこわごわと返事をすると、
「シウ ボッシュ!」
バッファは、怒りをあらわにし、ダニェルと貴子が着ている服の背中部分を掴んで猫のように持ち上げた。
「アウッ!?」
「ほわっ!?」
「アリ シィ ニィオ! メイ ニス イォキィ オク コムソォデ! マァリヤ!? ハンッ!? カァギン ベェウ エンミィ! カァギン ベェウ エンミィ、ゾォフィン サピ!」
目の前の二人に向かって、こめかみに青筋を浮かべたバッファが唾を飛ばして怒鳴り散らす。
それを見た男たちが、これはマズいと考え、バッファの肩を掴んで止めた。
仲間に
「アウッ!」
「いてっ!」
ダニェルと貴子がお尻から落っこちた。
二人してお尻をさすっていると、バッファが、
「……エイィシャ」
ボソっと二人に言ってから、
「タッグ ケェオ」
仲間に声をかけ、再び歩き出した。
男たちは、軽蔑するような目を貴子たちに向け、タダンは、貴子をチラチラ見ては笑い、バッファについて行った。
……
「び、びびった~」
道の真ん中で座り込み唖然としていた貴子が、バッファたちの姿が遠くへ離れてから大きく息を吐き出すように言った。
「何なのあいつら!?」
そして、去って行った男たちに苛立ちをぶつけた。
「……バッファ、怒る」
ビックリ顔のまま、バッファたちを見ていたダニェルが答えた。
「怒る? ああ、『怒った』ね。そりゃ見ればわかるけど、何でよ? 手伝うって言ったんでしょ?」
「タカコ、魔女、ウソ。ウソ、ダメ。今、私、たち、とても、困る。ウソ、ダメ。ダメダメダメ」
「……あ~、そっか。私が魔女って信じてもらえなかったのか」
この世界も地球と同じで、魔法使いがほいほいいるわけではないことを貴子は知っている。
「それで、『俺達が真剣に困ってんのにふざけてんじゃねぇ!』って怒ったのね」
きっと
家族が攫われて気が立ってるところに、見ず知らずの女がやってきて、「私、魔女だから手伝う」なんて言ってきたら、こんな時にふざけるなって怒るのも当然か。
貴子は、彼らの心情を慮った。
ついでにタダンが笑いまくってたのは、私のことを「自分は魔女だと妄想してる変人」と馬鹿にしてたんだろうとわかった。
「タカコ」
「ん?」
「助ける?」
不安そうに尋ねるダニェル。
貴子は、怒っているので、もう手伝わないと言うかもしれないとダニェルは考えている。
「バッファ、最後、『ごめんなさい』、言う」
「謝ってたのか……」
貴子は、小さくなっていく男たちの背中を眺め、
「……んしょ」
立ち上がった。
「タカコ、やめる?」
「へへ、見くびってもらっちゃあ困るぜダニエルよ。一度助けるって言ったんだ。吐いた言葉を曲げちゃあ女がすたるってもんよ」
「? 意味、何?」
「行く! 助ける!」
「オゥ! ありがとうございます、タカコ!」
不安が一掃され、ダニェルも元気よく立ち上がった。
「おっしゃ! レッツゴーだっ、ダニエル!」
「ヤァ!」
バッファたちのあとを追って、二人は駆け出したのだった。
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