第100話 「絶好の機会」
「何だ、この青と赤の機体は……。オーディンのGWなのか?」
二機のGWに追い回されるオレンジ色のミストルテイン。
そのコクピットでカークス・バーンスタインは困惑していた。
ミストルテイン艦隊によるユーロンコロニー経済群への侵攻開始以来、圧倒的な性能を持つGDを駆る彼らにとり、性能の劣るGWなど動く的でしかなかった。
相手が艦艇を絡めた小隊規模であれば危うい事もあるだろうが、二機程度のGWに絡まれて苦労するなど有り得ないのだ。
ところが、この赤と青のGWによる連携に、押され気味の状況が続いている。
パイロットとしてはセントラルコロニー軍でトップクラスの自分が、連携すべき妹のリーザと引き離された上に、際どい攻撃を受け危うく被弾しそうになっているのだ。
リーザの相手をしている白いGDはかなりの手練れだった。
妹であれば心配ないとは思うが、相手はオーディンの騎士。この二機を出来るだけ早く片付けて援護体勢に戻りたい。
そう思いながら片方の機体を粒子レーザーの連撃で追い詰めようとするが、その度に的を絞らせない連動した動きを見せる。
通常のGWであればGDの急加速や急回頭に付いて行けず、どこかで動きに
不愉快な状況ではあったが、カークスは苛立ちながらもチャンスが訪れるのを待っていた。
この宙域にはミストルテインが数百機投入されている。リーザが邪魔だと言うので共に行動はしていないが、味方の機体がこの宙域に入って来れば、連携してこの二機を排除する事ができるはずなのだ。
そして、そのチャンスが訪れた。こちらの状況に気が付いた味方機が宙域へと入って来たのだ。
GDが四機に対して、相手はGW二機。一気に勝機が訪れる。
三機のミストルテインが散開し、粒子レーザーの連撃で二機を引き離し、即座に二対一の状況を作り出した。
後は追い込みつつ急制動を強いる攻撃を続け、制動直後の隙が出来た所を狙い撃ちすれば片が付く。やっと邪魔な二機が排除できそうだ。
ところが、追い込んだ先へと一撃を放とうとした途端、急激な横Gで頭が揺さ振られ視界が跳ねる。CAIの緊急回避の声で何が起こったのかは理解できたが、機体の感覚を取り戻せないまま、次の緊急回避が頭を揺さ振る。モニターの中で機体の直ぐ脇を粒子レーザーの光が連続して通過して行った。
カークスは直ぐに方向感覚を取り戻し、立て続けに撃ち込まれる粒子レーザーを躱したが、応援に入った三機のミストルテインは、強力な粒子レーザー砲に追い立てられ火球へと変わっていく。
「どういうことだ!」
彼は混乱していた。この強力な粒子レーザーを打ち込めるのは艦砲射撃のはずだ。だが、砲撃をこの精度で撃ち込むなど有り得ない事なのだ。
この戦場は何かがおかしい。いくらオーディンの騎士が参戦しているとはいえ、ミストルテインによる圧倒的な戦力で一気にかたが付く戦いだったはずだ。
それにも関わらず、敵艦隊は善戦しているどころかミストルテインを何機も撃ち落としている。
どれ程の練度であったとしても、複数艦の砲撃の連携で敵機を追い込み、型にはめ撃墜するなど、そうそう出来る事ではない。
ましてや、ミストルテインは圧倒的な機動力と俊敏性を持った機体。艦隊に何かの仕掛けでもない限り起こり得ない事態が起きているのだ。
混乱するカークスの機体に向けて、再び赤と青のGWが迫っていた……。
────
『流石オーディンのCAAIだな。凄いよヤーマーラナさん』
『本当に。助かったわ』
『オホメ……ニ……アズカ……リ……キョウシュ……クデス』
数百隻の艦砲射撃に全ての演算リソースを回しているヤーマーラナが、変な抑揚のたどたどしい通信を返して来た。
オレンジとピンクのミストルテインを引き離すと決まってから、援護射撃をヤーマーラナに依頼していたのだ。
過去の戦いに於いて、数百隻の艦砲射撃を一台のCAIが行った事など皆無であり、通常は不可能だと思われている。
だが、それを可能としているのは、オーディンのCAAIの演算能力の高さに加え、新たな通信技術が運用されているからであった。
『よし、また追い回すぞ』
『了解』
艦砲射撃の連撃を躱したオレンジのGDに向けて青いアジュが距離を詰め、その後方を機体の陰に隠れ赤いクナイが追随する。
二人のやるべきことは時間稼ぎ。付かず離れず攻撃を加え、このオレンジの機体をピンクから遠ざけ続けるのが目的なのだ。
リオンと共に対GD戦の訓練を重ねて来た二人は、見事にその役目を果たしていた。
リオンであれば、あのピンクの機体を確実に仕留めるはずであり、自分達はその報告が入るまでオレンジの機体を引き離しておけば良いのだ。
対GD戦の不利に関してはラーマーヤナの援護砲撃で補う事が出来ている。付け込むチャンスがあれば仕留める事も可能かも知れない状況であった。
一方、全体の戦況は徐々に厳しいものへと移行していた。
敵のGD部隊はラーマーヤナの艦砲射撃で多少は撃ち減らされたものの、その数は桁違いであり、第一艦隊に辿り着いた部隊が艦艇を次々と撃沈して行く。
更に敵の艦隊も隙を見ては粒子レーザー拡散チャフの散布領域を出て、艦砲射撃をエルテリアの第一艦隊に集中させ、徐々に圧し込んでいた。
その影響でリオンやセシリア達が戦っている宙域に、強力な砲撃を受け爆散した艦の破片や、機能を停止した艦がデブリとなり漂い始めていた。
『そろそろ限界か……』
『でも、この二機を何とかしないと』
『リオンの方はどうだ』
『まだ、連絡はないわよ』
『じゃあ、もう少し足止めを……』
二人がオレンジのGDに対し、再び攻勢を強めようとした時だった。
『第二フェーズに入ります』
ヤーマーラナの通信と共に、これまで正確に撃ち込まれていた艦砲射撃が、ただの乱射へと変化した。
『現宙域より退避』
乱射により急激に砲撃密度が増した宙域から、ヤーマーラナの乗るイーリスが密かに後方へと動き始めた。
『こうなれば、オレンジを威嚇しながらリオンと合流するか』
『ええ、それしかなさそうね』
ヤーマーラナからの援護射撃がなくなった事もあり、二機による攻撃の強度は格段に落ちている。
それでもオレンジのGDの行く手を阻むべく攻撃を続け、リオンの居る宙域へと徐々に向かう事に。
ところが、移動を開始した途端、敵に撃沈された艦艇のデブリが漂って来たのだ。
少量であれば問題ないのだが、流れて来た大量のデブリが視界を遮り攻撃が滞ってしまう。
『クソっ! 間が悪いな』
『オレンジが上手く隠れながら抜けて行くわ』
『追うぞ!』
アジュとクナイが急加速でオレンジの機体を追う。
ところが、目の前でデブリと化した艦艇が爆発し、誘爆を避ける為に迂回せざるを得ず、大幅な移動ロスが生じてしまった。オレンジの機体との間に距離が開いてしまう。
二人は何とか追い付くべく、漂うデブリを躱しながらオレンジの機体を追い続けた。
────
カークスは白い機体とリーザの機体をモニターに捉え、大量のデブリの陰に隠れながら白い機体の背後へと迫っていた。
ギリギリまでデブリに隠れて接近すれば、白の機体の不意を付く事が可能だと考えたのだ。
フットペダルを強く踏み、目前に迫るデブリの脇を飛ぶように移動しながら、白の機体の背後に漂うデブリを目指した。
モニターには白い機体に近接戦闘を仕掛けるリーザの機体が映っている。
リーザの機体と対峙している白の機体は、大量のデブリの影響か、こちらの接近を感知している様子が見られない。
その時、彼は確信した。
これは、二人の為に神が与えてくれた最高のチャンス。自分とリーザがオーディンの騎士を討ち取る栄光を与えられたのだと。
孤児院を訪ねて来た両親が、虐められて逃げて来たリーザをカークスが抱きしめている姿に心を動かされ、二人揃って引き取ると決めた、あの奇跡の日の様に……。
機体がデブリの陰に完全に隠れた状態のままフットペダルを一気に踏み抜く。
迫るデブリをギリギリで躱し目的の宙域に飛び出すと、狙い通り、白いGDの無防備な背が目前に迫っていた。
「貰った!」
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