第97話 「深紅と深緑」
「くっ……なかなかやるわね。アポロディアス! 他の機体からの攻撃回避は任せて良い?」
『分かった。だが、かなりの手練れだ。気を付けろよ』
「誰だと思っているの? あたしが今まで一度でも死んだ事がある?」
『……』
「なによ!」
『……リオン殿が本気でしたら、既に五回以上……』
「アポロディアス。独り言が漏れているわよ」
『おっと、これは失礼。戦いに集中して下さい』
「こいつをブッ倒す! その後クソリオンを殺す!」
深紅の機体が軌道を一切読ませない細かい制御で、ディープグリーンの機体へと迫る。
両アームから粒子レーザーの光が絶え間なく撃ち出され、ギリギリで回避を続けるロイドボイドに反撃の暇を与えない。アリッサが一方的に追い込んでいる状況だ。
ロイドボイド機へ一点集中の攻撃を続けるアリッサの動きに対し、周囲に展開しているミストルテインが照準を合わせようと構える。
その刹那、それまでロイドボイド機に向かっていた粒子レーザーの光がいきなり周囲のGDへと放たれた。不意を突かれた二機が直撃を食らい火球に変わる。
「邪魔するんじゃないわよ! アポロディアス、後よろしく」
『ふふ。周囲もちゃんと見えているじゃないか』
「あたりまえでしょう!」
『私はピットの中で貴女の応援でもしときますよ』
『あんたの手抜きで死んだら殺すわよ」
アリッサがフットペダルを強く踏み込みサルンガを一気に加速させる。
それまでの細かい動きから一転。紅い矢が放たれたかの様に、凄まじい加速でディープグリーンの機体へと突き進む。
ロイドボイド機に迫るサルンガの両アームの武器は、炎を纏う様に見える赤く光る剣へと持ち替えられていた。
速度を緩めず直線的な動きで剣を突き出すサルンガに対し、ロイドボイドが寸での所で躱しながら近接武器の斧をサルンガに叩きつける。
実は彼はサルンガを誘い込んでいた。だが、絶対の間合いで確実にサルンガを捉えたと思われた斧が空を切る。
機体を捉え切れず斧が空を切るや否や、すかさず赤い剣がディープグリーンの機体へと迫った。
サルンガの鋭い
だが、アリッサは強烈なGが掛かる急制動により機体を瞬時に静止させ、絶対の間合いで機体に叩き込まれる斧を躱し、それにより生まれた隙に素早く剣を突き入れた。
ロイドボイドも瞬時の反応でその攻撃を躱し、なんとか窮地を脱する。
彼は近接戦闘を続ける事に危険を察したのか、急加速で一旦サルンガの攻撃範囲から逃れる動きを見せた。
アリッサは間髪入れず追撃を行おうとするが、周囲のGDから立て続けに撃ち込まれる攻撃に阻まれ、ロイドボイド機と距離が開いてしまう。
宙域にはGD隊が寄せて来ており、サルンガへの包囲を固めつつあった。
「くくっ。やるじゃないか……あの赤い機体の奴は分析データ以上だな」
『ロイドボイド様。あの機体に対しての近接戦闘はお勧めしません』
「
『命令受理。助言
「お前は機体の制御に全力を尽くせ。機体性能はあちらの方が上の様だ」
『命令受理。近接戦闘時の制御強化。ただし身体への負荷が一五%程度上昇します。それにより……』
「ガタガタ煩いんだよ。黙ってろ!」
『命令受理……』
ロイドボイドが僚機に接触し命令を伝える。
CAI制御の機体がアリッサを追い回す中、パイロット騎乗の機体が次々に接触を繰り返しロイドボイドの指示を受け取った。
周辺は混戦状態の上、妨害電波や通信の妨げとなるデブリ等の影響で機体同士の通信が極端に不安定になっており、機体の接触による直接回線での通信に頼らざるを得ないのだ。
総戦力では圧倒的に有利なセントラルコロニー艦隊に対し、不利なはずの四カ国艦隊が意外にも善戦を繰り広げているのは、実はこの通信の差が要因となっている。
指示を受けたロイドボイド隊のGDが、散開しながらサルンガに連射を浴びせ一気に追い込んでいく。
アリッサは攻撃を
GD隊は周囲のGWや艦艇からサルンガを徐々に引き離す追い込み方を続けている。
味方から大きく引き離された宙域に達した途端、防御一辺倒になっていたアリッサが業を煮やしたかのように反撃を開始する。
だが、一機のアリッサに対し周囲を囲む敵GDは一〇機以上であり、敵機を撃墜できる位置に釣り込む前に、他の機体からの攻撃を躱さなければならなくなり、アリッサの攻撃は功を奏していない。
「ふっ。俺は一騎打ちで華々しくとか愚かしい考えは持っていない。強敵は墜とすべくして墜とすのだ」
ロイドボイドが口の端を歪ませながら笑みを浮かべている。オーディンの騎士を追い詰め仕留めるタイミングを見計らっているのだ。
包囲を狭めつつあるGD部隊。あらゆる方向からサルンガへ向けて粒子レーザーが撃ち込まれて行く。
その後も厳しいタイミングで攻撃を受け続けてはいるが、アリッサは一〇数機からの攻撃を上手く躱し続けていた。
それどころか、上手く誘い込まれ功を焦った者が突出し、既に二機が撃墜されている。
「機体性能が高いというだけではなく、あれがオーディンの騎士の実力という事か。不愉快だな」
確実に捉えたと思った射撃を躱され、ロイドボイドの顔が歪む。
だが、その目は得物を狙う獣の様に鋭さを増していた。
そして、モニターに映る敵味方の位置を示すHUDの表示がある位置関係になった瞬間、ロイドボイドがフットペダルを踏み込み、信号弾を撃ち上げながらサルンガへと突進し始めた。
ロイドボイド機の信号弾の光を確認すると、その動きに連動し周囲のGDも一斉にサルンガへと急加速して行く。
「だが、これで終わりだ。いくらオーディンの騎士といえども、この攻撃は躱せまい」
ミストルテインが天地方向から四機ずつ、更に前後左右の位置から合計一二機が一斉に近接攻撃を仕掛けたのだ。
逃れる隙が無い一斉攻撃。並みのパイロットであれば、この状況に対応しきれず機体を切り刻まれて撃墜されてしまうはずだ。
だが、アリッサはその状況に瞬時に反応してみせた。
制御によるロスが最も少ない正面の機体へ向けてフルブーストで加速しつつ、機体を回転させ周囲から迫りくる斧を滑らかに躱す。
迫る正面のGDから振り下ろされる斧を掻い潜ると、その勢いのまま回頭しつつ背後に廻り込んだ。
前回の戦いで、セントラルコロニー軍には味方機を盾にする作戦は通用しない事は分かっている。
アリッサは容赦なく動力部に剣を突き入れ機体の誘爆を誘った。
追随してきた機体が、爆発に巻き込まれるのを避ける為に慌てて機体を遠ざける。
アリッサは火球に変わる敵機を利用し、後方から迫る六機を引き剥がすと同時に、天地方向から迫る四機を一斉に引き受けた。
同時に迫る二機の斧を剣と盾で受けると、機体の勢いそのままに二機のコクピットを蹴り潰し、直後に急回頭からのフル加速で、別方向から斧を振り下ろす機体に剣を突き入れ仕留める。
そして、間髪入れずに急制動を行い、視認出来ている残りの一機に粒子レーザーを向け打ち込もうとした。その刹那、敵機の陰からディープグリーンのGDが躍り出た。
「死ねよ!」
急制動で一瞬動きが止まったサルンガに対し、絶対の間合いでロイドボイドの機体が迫る。
見えない位置からの躱せない一撃。
アリッサの乗るコクピット目掛けて、最短の軌道で斧が振り下ろされた……。
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