【オーディンの騎士】
白の騎士リオン
第59話 「騎士への歩み」
ヴィチュスラーの指揮するドロシア軍の艦艇がエルテリア宙域に展開してから約半年。
本国からはセントラルコロニー連合宙域へ攻勢を仕掛ける時期についての連絡もなく、パナフィックコロニー群の大半を占領下に収めたという通達からは目ぼしい連絡は入っていない。
エルテリアにドロシア連合であるDRE側への参加を促し、無理であれば中立、もしくは不戦条約の締結を行い、直ぐにでもこの宙域を去るつもりであったが、エルテリアの反応は好意的ではなかった。
エルテリアは直ぐに艦隊を展開し、一触即発の状態で睨み合いが続く事になってしまったのだ。
そして、ひと月前。どちら側が先に手を出したのかは不明だが、前線の部隊の小競り合いが発端で戦闘状態へと陥った。
お互いの司令官にとっては望まない戦闘であったが、ここでエルテリア艦隊を抑え込み交渉を有利に進めたいヴィチュスラーと、国の威信を背負ったエルテリア艦隊の司令官は戦わざるを得なくなってしまったのだ。
こうして譲れない戦闘は徐々に激化して行ったのである。
その戦闘の最も激しい宙域に、彗星の如き白い光が凄まじい速度で迫っていた……。
────
『さあ、私は合格。次はあんたの番よ。死にそうになったら助けてあげるから』
騎士見習い判定を終え、訓練宙域を離れる赤いシャルーアから通信が入り、アリッサとかいう少女とCAAIアポロディアスの笑い声が聞こえて来た。相変わらず嫌な感じだ。
『リオン。気にせずに集中していきましょう』
「了解」
シャルーアが訓練宙域へと侵入すると、HUDに散開している三機の機体がピックアップされた。
現状は三機とも等距離に位置している。こちらがどの機体にアプローチを仕掛けたとしても包囲が可能な状況だが、これは定石通り真正面の機体に攻勢を仕掛けて、他の二機を釣り込めば大丈夫だ。
その時の相手の動き次第で戦術を決めれば良い。その前に先ずは相手の能力の確認からだ。
フットペダルを踏み込み、正面の機体に向けて一気に加速する。
こちらに合わて相手も動き始めた。両サイドの二機の寄せが予想以上に速い。
HUDにピックアップされている機体が、徐々に目視出来る距離になって来た。色はグレーの機体だが見慣れたフォルムだ。
「敵機はシャルーアか……」
『リオン。相手のシャルーアはCAIによる操縦だから遠慮は要らないわ』
「了解。遠慮して勝てる相手じゃなさそうだしね」
そう答えた途端、三方向から粒子レーザーの光が殺到する。最小限の機体の動きで
相手の動きを見極める為に、両脇の二機には追尾型ミサイルを放ち、正面の機体の動きに合わせて粒子レーザーを三連射。
この距離からの攻撃では躱されることは織り込み済みだが、相手もシャルーアだけあって、次に繋がる機敏な動きで躱される。
両脇の二機も難なくミサイルを撃墜して一気に距離を詰めて来た。CAIの操縦だが良い連携が取れている。
だが、左翼の機体がやや早く距離を詰めて来ているのが分かり、頭の中に一気に攻略順と方針が浮び、それに合わせて体が自然に動いた。
正面の機体との間に粒子レーザー拡散チャフ弾を撃ち込み、左翼側の機体へ向けて一気に回頭する。
ほんの僅かな時間だが、正面の機体に背を向けた形になり、相手から粒子レーザーを撃ち込まれる。だがその攻撃は拡散チャフにより霧散しダメージはなし。狙い通りだ。
凄まじいGを感じながら、速度を落とさずに左翼の機体へ向けてシャルーアを一気に寄せ、粒子レーザーの連撃で動きを牽制。こちらの目的の位置へと追い込む。
細かい挙動を入れ、更に加速してグレーのシャルーアに肉迫した。こちらのマニピュレーターにはアームから出したナイフ形の近接武器が握られている。
敵の躱す方向へと機体を滑り込ませ、すかさず動力部にナイフを突き入れ、すれ違った。
直ぐに急制動を掛け、既に機能が停止したグレーの機体の真後ろにシャルーアを寄せ機体を捉える。
残りの二機の位置を確認すると、こちらの動きに釣られてシャルーアらしい速度で寄せて来ていた。
若干だが、片方の機体がより手前から接近してきている事が分かり、そちらへ向けて倒した機体を掴まえたまま一気に加速する。
敵からの射撃を躱しつつ、掴まえていた機体を正面の敵機との間に押し出し 背後から粒子レーザーを撃ち込む。ほぼ同時に敵機からも粒子レーザーが放たれ、押し出した機体を貫いた。
次の瞬間、撃たれた機体が火球に変わり視界を奪われるが、それは正面の敵機も同じ。
恐らくこちらが火球を躱して来ると予想して待ち構えているはずだ。
すかさず火球を回り込む軌道でミサイルを撃ち込み、正面の敵機の意識をほんの一瞬逸らす。
その隙に右側から凄まじい速度で寄せて来ているもう一機へ向けてフル加速を行い、こちらから距離を詰めた。
相手はこちらの予想を上回る動きに対応しきれていない、一機目とほぼ同じ動きで近接戦闘へと持ち込み仕留めた。
──後は残った機体との一騎打ちだ。他の二機と同じ様に、射撃で釣り込みつつ近接で仕留めれば大丈夫だ。
正面に位置していた機体にシャルーアを一気に寄せる。やはりCAIによる操縦は解析パターンが
再びマニピュレーターにナイフ形の近接武器を持ち敵機を釣り込む。後は仕留めるだけだ。
ところが、次の瞬間、不意に何かを感じ一瞬制動を掛けた。
すると、制動を掛けなければ通過していた宙域を粒子レーザーの光が通過していった。
「新手か!?」
すかさずシャルーアを加速させ、攻撃された方向に対し、正面の機体を間に挟み込む宙域で回頭する。
新手の位置を確認しようとHUDを覗き込んだが、画面には正面の機体の他には、敵対するマーカーはピックアップされていなかった。
そこにピックアップされていたのは……。
「赤のシャルーアか! 何のつもりだ」
赤のシャルーアの行動を確認している隙に、正面の機体が体勢を整え攻撃を仕掛けて来た。
──先ずはこちらを片づける事が最優先だ。
直ぐに新たな戦術が頭に浮かぶ……。
連続して撃ち込まれる粒子レーザーを躱し、徐々に追い込まれる振りをしつつ、相手の射撃を釣り込んで行く。
敵が追い込もうとしている宙域に到達するや否や急回頭し、相手と間の宙域へと盾を手放した。
すかさず盾に向けてミサイルを撃ち込む。
手放した盾を敵の粒子レーザーが貫き、そのタイミングで盾に着弾したミサイルが爆発し火球が広がる。相手には盾と共に機体が貫かれ爆発した様に見えたはずだ。
敵機がこちらを釣り込んでいた動きから、相手の機体の現在位置が頭に浮かぶ。
次の瞬間、火球越しに予想した位置に粒子レーザーを撃ち込むと、手応えがあった。
機体の位置を変え確認すると、粒子レーザーに撃ち抜かれたグレーの機体が火球へと変わる。
『リオン。お見事です』
「ああ、上手く行ったよ。でも……」
『ええ、許される行為ではありません。制圧しましょう』
「良いの?」
『撃ったのは恐らくアポロディアス。懲らしめてやりましょう』
「了解」
フットペダルを踏み込み、赤いシャルーアへと目掛けて一気に加速する。
相手もこちらの意図を理解したのか、それとも最初から待って居たのかは分からないが、敵対行動に移行した。
────
赤と白のシャルーアが絶え間なく攻守を変えつつ、訓練宙域を駆け抜けて行く。
全く同性能の機体であり、どちらも優れた演算能力を持つCAAIがサポートしており、真にパイロットの技量が勝敗を分けると言っても過言ではない状況。
赤のシャル―アが烈火の如き攻撃を加え続けているのに対し、白のシャルーアは攻撃を上手く
赤のシャルーアが的確な射撃で白の機体を追い詰め、回避位置へと的確に粒子レーザーの光が追い駆けて行く。
一方的な攻撃が続き、傍目には白のシャルーアが劣勢に見える。
それでも、
だが、その後に続く白のシャルーアからの攻撃をスルリと躱し、体勢を立て直した赤のシャルーアが再び圧倒的な攻撃を加え始める。
騎士見習い同士の均衡した一騎打ちは、いつ終わるともなく続いていた……。
『リオン。どうですか』
「うん。自分でも驚くくらい相手の動きが手に取る様に分かるよ。黒騎士の戦闘データとエドワードさんとセシリアさんとの訓練のお陰だね。ヤスツナさんとのメカニックの勉強も凄く役に立っている気がするよ」
『ええ、素晴らしい動きです。そろそろ終わらせましょうか』
「どうすれば良い」
『背後を取って、CAAIピットにナイフを突き立てて上げましょう。流石にアポロディアスでも技量の差に気が付くでしょう』
「了解」
次の瞬間、殺到して来た粒子レーザーの攻撃を躱すと、赤いシャルーアへ向けて一気に加速した。
こちらの動きに合わせて猛反撃してくるが、全く読ませない動きで攻撃を掻い潜り、素早いテールスライドの動きで赤のシャルーアの懐へと飛び込んだ。
すれ違いざまに相手のアームを掴み、制動を掛けつつ後方へと回り込み背後を取る。
そのままアームを伸ばしCAAIピットが有る場所にナイフの切っ先を突き立てた。赤のシャルーアを完全に制圧した形だ。
『参った。流石はアルテミス様だ』
アポロディアスの声が通信機から聞こえて来る。
『アポロディアス。分かっているはずです。私は一切手出しをしていません』
『……それでも、試さないと気が済まなかったんだ。そいつが本物かどうかを』
『気持ちは分かります。分かりますが、リオン殿は私の希望であり、私の全てを懸けての挑戦です。偽物の訳がないでしょう』
『ああ、今の戦闘で理解した。だが、また『銀』とかで終わるんじゃないのか』
『いいえ。私は信じています』
話の内容が分からない部分があるが、二人のCAAIの会話が続くなか、例の少女の声が割って入った。
『ねえ! 何の話をしているのよ。私は結局アルテミスに負けたわけ? アポロディアス、何とか言いなさいよ』
『アリッサ。違う……リオン殿に負けたんだ』
『ふんっ……偶然よ、偶然。次は叩きのめしてやるから!』
『ああ、そうだなアリッサ。騎士の訓練は長い。これからだ』
『覚えてなさい!』
拘束を解くと、赤のシャルーアは大人しくイーリスⅡの待つ宙域へと去って行った。
『リオン。まずは訓練施設へ向かいましょう。いよいよ騎士訓練が始まります』
「了解。アルテミス、これからも宜しく」
『こちらこそ。それと、貴方に伝えなければならない事があります。とても大事な事です……』
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いつも読んで頂きありがとうございます。
この話から新章が開始となります。
いよいよ始まるアルテミスとリオンの『オーディンの騎士』への道。
これからも楽しんで頂けると幸いです。
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宜しくお願いします。
磨糠 羽丹王(まぬか はにお)
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