第58話 「CAAIアルテミス」

「へー、あいつのCAAI何だか偉そうね」


「まあ、本当に偉いからなぁ」


「はぁ? どういう事」


「アリッサ。あれが現存する唯一のファースト(第一世代)にして最高位のCAAI『アルテミス』だ」


「え、何それ……」


 俺をにらんでいたふたりが、アルテミスの事を何か言っているのが聞こえているが、俺はそれどころではなかった。

 優秀なCAIカードだと思っていたアルテミスが、人の姿をして俺の目の前に立って居るのだ。

 しかも、気を失っていた時に見た夢……幻想かと思っていた女性と全く同じ姿をして。


「あ、アルテミスなの」


「はい。リオン、今まで姿を見せず、申し訳ありません」


「CAIじゃないの?」


「一応最初にCAAIとお伝えしたかと」


 そう言われた瞬間、シャルーアの最初の起動画面を思い出した。


「あっ……『Control制御 by Automata機械人形 Artificial人工 Intelligence知能』……」


「はい。Automata Artemisアルテミスです」


 言葉が出なかった。確かにアルテミスとそんな会話をした記憶はある。CAIという認識で問題ないという返事だったから、てっきり……。


「い、今まで、ずっと何処にいたの?」


「シャルーアのCAAIピットです」


 アルテミスが微笑みながらシャルーアを指さした。

 改めてシャルーアを見上げると、頭部のすぐ下の部分が開いているのが確認できた。


「あ、あの中にずっと居たの? い、いつから」


「リオン。その話はまた後にしましょう。今は大事な話がありますから」


 アルテミスの指摘で慌てて前を向くと、相変わらず嫌な感じの睨み方をしながら、ふたりが俺達を見ていた。


「アポロディアス。この時につどう事となった騎士見習いのお二人に、これからの事を説明して下さい」


「はいはい。承知しました」


 アポロディアスと呼ばれた男が気怠けだるそうに歩み出て、俺と少女の顔が見える位置で横を向いた。


「では……わたくしは『深紅の騎士』のCAAIアポロディアスと申します。これより、我がパートナーである騎士見習いアリッサ・フォン・オーディンと、そちらの……えーとぉ」


「リオン・フォン・オーディン殿です」


「はいはい。そちら殿とは、騎士となる事を目指し、この地で訓練を始める事となります」


 訓練の事は到着前に聞いていたから、特に目新しい話ではない。

 あの赤いパイロットスーツの少女が俺と同じ『騎士見習い』で、名前が『アリッサ』という事は分かった。

 何故こんなに敵視されているのかは分からないけれど、オーディンの騎士を目指す者として、これから競わなければならないのは確かだ。


「先ずは騎士訓練を受ける資格が有るのかの判定。つまり騎士見習いのレベルに達しているか否かの判定が行われますので、そちら殿は十分にお気を付け下さい」


「アハハ。これで落ちたら大笑いね。最高位のAAIが育てた騎士見習いが能力不足でしたなんて、冗談にもならないわね」


 冷ややかな視線を投げかける少女の発言に、アポロディアスの口の端が上がる。

 何だか本当に嫌な奴等だ。本当にこれでオーディンの騎士になるつもりなのだろうか。高潔さの欠片もない気がするが……。


「その判定で問題なければ、騎士用のプラクティス機での訓練と、肉体強化のトレーニングが始まります。そこで騎士として認められるだけの能力が身に付けば『騎士』になれ、そうでなければ途中でお払い箱です。そちら殿はダメなら途中でお払い箱です」


 赤の二人は相変わらずニヤニヤしながらこちらを見ている。

 何でそんなに対抗心を燃やしているのだろう……二人とも騎士になれればそれで良いはずなのに。


「アポロディアス。悪ふざけもその辺で止めなさい。リオン殿はその程度のあおりで心が乱れたりしませんよ」


「申し訳ありません。性分なもので……。リオン殿、大変失礼を致しました」


「……」


 本当はイライラしていたけれど、アルテミスの発言の手前、笑顔を返しておいた。


「それでは、こちらから先に判定を始めさせて頂きます。アリッサ行きましょう」


 二人はきびすを返すと、直ぐに赤いシャルーアに乗り込んで行った。

 赤のシャルーアは広場の外へと消えて行き、しばらくするとグレー色のイーリスⅡが空へと飛び立って行った。




 その後、訓練が始まると騎士になるまで皆には会えないと言われ、慌てて皆の所へと挨拶に戻った。皆とはしばしのお別れだ。


「噂には聞いた事があったが、オーディンの機体にはアンドロイドのCAIが乗っているって本当だったんだな。リオン、詳しく教えてくれ」


「リオンちゃん。やっぱり他に女が居たわね。怪しいと思っていたのよ。詳しく教えなさい」


 エドワードさんとセシリアさんに詰められてしまったが、俺自身、本当に何も知らないから困ってしまう。


「いえ、俺も会うのは初めてなんです……。CAIだと思っていたから、何が何だか訳が分からなくて混乱しています」


「今まで知らなかったのか」


「本当に?」


「はい。本当に知りませんでした。やたらと滑らかに話す凄い演算能力のCAIカードだと思っていたので……」


 俺が知らなかった事に二人も驚いていたけれど、一応納得してくれたみたいだった。


「そう言えば、これからどうなるんだ」


「今日はもう終わり?」


「いえ、俺はこれから訓練に入ります。この先、騎士としての結論が出るまで戻れません。皆さんには今から迎えが来て、宿泊場所やこれからの事を段取りするそうです」


「そうか……。リオン、頑張れよ」


「小僧! しっかりな。俺達も色々レベルアップ出来る様に頑張るからな」


「はい」


 エドワードさんとヤスツナ軍曹には肩を叩かれて励まされた。


「リオン。ずっと待っているわよ。貴方が騎士になって戻って来るまで」


「はい」


「まあ、あのCAAI女には要注意だけれどね。遠目だったけれど、かなり綺麗そうだったわね……まったく」


 セシリアさんには、しっかりと抱き締められて送り出された。 

 皆に見送られながらシャルーアへと乗り込み広場を後にする。

 俺は騎士になる。待ってくれている仲間達の為に。そして、皆を守れる者になる為に……。


 ────


 騎士見習い判定の為に、再び宇宙空間に上がるという事で、グレー色のイーリスⅡへとシャルーアを乗せハンガー収納場所に固定する。

 訓練宙域に着くと直ぐに発進するらしいので、移動中もコクピットに乗ったままだ。


「アルテミス。判定って何があるの」


『はい。CAI操縦のGWと戦闘を行います』


「模擬戦闘?」


『いえ、実戦です』


「……」


『リオン。これから騎士になる為の訓練は全て実戦です』


「そうなんだ。命懸けなんだね」


『ええ。騎士に負けは許されませんから』


「頑張るよ」


『はい。全力でサポートします』


「そういえばCAAIって色が決まっているの? さっきのアポロディアスとかいうCAAIは『赤色の騎士』とか何とか言っていたよね」


『はい。基本的には色が決まっています』


「じゃあ、俺は白なんだね」


『それについては、騎士訓練が始まってから説明します』


 他にも聞きたい事が沢山あったけれど、訓練宙域に到着してしまった。

 まずは俺が『騎士見習い』としての能力に達しているか否かの確認だ。でも、こんな所で失敗する訳には行かない。


『この判定宙域では、操縦は全てリオンに移譲されます』


「了解。アルテミス行くよ」


 フットペダルを強く踏み込むと、イーリスⅡの格納庫からシャルーアの白亜の機体が弾き出された……。

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