第11話 「狩り」
追尾式ミサイルの被弾は絶対に避けられないと思っていたけれど、アルテミスはミサイルの軌道を全て把握し、被弾することなく回避して全ての追尾式ミサイルを迎撃してしまった。
唖然としているうちに、機体はそのまま加速して、再び殺到するミサイルを躱しながら、HUD上に捉えたターゲットを撃ち抜いて行く。
次々と火球へと変わって行く敵機。この短時間でいったい何機撃墜したのだろう。気が付くとHUDに表示されている敵機は数えるほどになっていた。
そんな中、アルテミスの攻撃を間一髪で躱す機体が一機。
すれ違いざまに見えたその機体は、俺にミサイルを撃ち込んだのと同じ黒色のGWだった。まさか、同じ機体だろうか。
『ふふ。良い相手が見つかったわ』
残った敵機を火球に変えながら、アルテミスが呟くのが聞こえて来た。
『リオン。今から右アームの操縦桿の操作を任せます。上手く操縦して敵機を撃墜してみて下さい』
「えっ、俺が?」
『ええ、私が左腕の装備で攻撃をしますから、あなたは自分の判断で撃って下さい』
「わ、分かった」
『HUDの照準マーカーの色を分けます。私の照準は白ですので、リオンはブルーの照準を見て下さい』
「りょ、了解」
アルテミスに促され操縦桿を動かすと、HUDのブルー色の照準マーカーがそれに連動して動く。
画像処理で機体のアーム部分が写らないけれど、操縦桿の動きに合わせて右腕アームが動いているはずだ。
どうして急に操作させる気になったのかは分からないけれど、親方やあんちゃん、それに作業コロニーの殺された人達の
機体が減速し回頭すると、黒いGWがいた宙域へ向けて緩やかに加速して行く。
HUDの画面に、マーカーされたままの機体が確認できた。奴だ。
敵を囲んだマーカーが徐々に大きくなり、アルテミスの白い照準が機体を捉えた。俺もそれに合わせる様にブルーの照準を動かす。
その最中に機体の左側から光が迸る。アルテミスが撃ったのだ。
俺も慌ててトリガーを引いた。アルテミスの粒子レーザー光に若干遅れて、俺の撃った粒子レーザーが黒いGWへと伸びて行く。
当たると思ったけれど、黒いGWは両方躱した。
『ふふ』
アルテミスが笑ったのだろうか、小さな笑い声が聞こえた気がした。
黒いGWとの距離は未だある、接近する前にもう一度撃てそうだ。
アルテミスの照準が敵機を捉えると、俺もすかさず同じ場所に照準を重ねる。
再び二筋の粒子レーザー光が敵機へと向かうが、やはり寸での所で躱された。
その時、不意に強いGが掛かり、背中がシートに押し付けられた。アルテミスが急加速したのだ。
加速した機体とすれ違うように、敵機が撃ったミサイルと粒子レーザーが飛んで来る。
アルテミスは相手の攻撃を加速で躱すと、直ぐに回頭し再び照準を合わせて行く。
『リオン。次は撃たなくて良いですから、私の照準の動きを予測して照準を動かしてみて』
「う、うん。やって見る」
アルテミスが敵の攻撃を簡単に躱しながら、機体の向きを調整し再び射撃可能な位置に入った。
アルテミスの照準が敵機を捉えると、断続的に粒子レーザーが発射された。
照準では確実に捉えているのに、黒いGWは躱し続けている。
照準が敵機を追いかけ、アルテミスは敵機の動きを予測する様に撃ち込んでいるが当たらない。
言われた通りにアルテミスの照準の動きを予測して、自分の照準を合わせて行く。
そして、アルテミスが幾度目かの攻撃を仕掛けた時に、俺の予想した位置がアルテミスと違う位置になった。
『リオン。今度は私の照準を気にしないで。あなたの感覚で捉えて攻撃してみて。相手がどう動くのかを感じるのよ』
感覚で捉えろと言われても、いまいち理解できないが、恐らく相手の動きを読めという事なのだろう。操縦桿を握る手に力が入る。
でも、その言葉を聞いて親方の言葉を思い出した。
『……けっ。常に周囲に気を張り巡らせろって、言っているだろうが。気配を感じるんだよ気配を!』
違うかも知れないけれど、同じ事を言われている気がした。
機体が再び敵機に照準を合わせられる位置になる。
アルテミスの照準を追いながら、自分の感覚で照準を合わせて行く。
そして照準が攻撃可能な位置に近づいた時、アルテミスの照準の表示が消えた。HUDには俺の照準のみが表示されている。
アルテミスが敵機に向けて一射目を放った刹那、一瞬敵機の躱す方向が見えた気がした。
操縦桿を僅かに動かし、感じた方向へと照準を向けトリガーを引く。
次の瞬間、アルテミスの放った二射目の粒子レーザー光と俺が撃ったものとが同時に発射された。
二筋の光が向かう位置が若干ズレている。
敵機がアルテミスの一射目の攻撃を躱すと、直後に届いた二筋の粒子レーザーの一方が黒色のGWの筐体を貫いた。貫いたのは俺が撃った方だった。
アルテミスの攻撃を躱し続けて来たGWが火球に変わる。
『リオン、お見事です』
火球を見つめながら、色んな思いが溢れて来た。
親方の事やあんちゃん達の事。そして、コクピットに座っているだけで全くの役立たずだった俺が、最後に役に立ったという事。
「うおおおおおおお!」
込み上げて来る思いに、俺は雄叫びを上げていた。
そして、直後にアルテミスの竪琴の様な美しい声が聞こえて来た。
『リオン。パイロットレベルがFになったわよ』
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