第10話 「強襲」

 機体の凄まじいスピードに驚いているうちに、見慣れた宙域が近づいて来た。遠くに作業コロニーが見えている。

 この辺りは作業用SWで牽引けんいん船に掴まり、緩やかな速度で移動していた宙域だ。

 ところが、今はありえない速度で通過している。瞬く間に遠くに見えていた作業コロニーが近づいて来た。


 まだ視認できない距離なのに、この機体のHUDセンサーは何かを捉えているのか、無数のマーカーが現れ解析後にピックアップが始まっている。

 作業コロニーの宙域に到達したら、戦闘の為に急激に減速すると思い備えていたけれど、機体は驚異的なスピードを維持したまま突っ込んで行く。作業コロニーが飛ぶような速さで近づいて来た。

 正確にはこちらが接近しているのだが、対象が飛んできている様に見えてしまう。

 HUDセンサーにピックアップされた対象の上に数字が表れ、その数字が見えない程のスピードで減って行く。どうやらこの数字は対象との距離の様だ。


 機体のスピードを維持したまま、対象の敵機に照準が合わされて行く。動きに合わせ、右アームのマニピュレーターを司る操縦桿が微妙に動いている。

 そしてまたトリガーが自動的に引かれると、レーザー粒子兵器の眩い光が迸り、対象へと真っ直ぐ伸びて行った。

 小惑星付近の戦闘では、トリガーが勝手に凹んだと感じていたが、あれはCAIの操作とトリガーが連動していて引かれたのだとやっと分かった。この機体の全ての動作を、CAIであるアルテミスが司っているのだ。

 最初の対象に粒子レーザーが着弾する前に、また操縦桿が動き次のターゲットに照準が移動する。 

 マーカー上を照準が通過する瞬間に、再びトリガーが引かれ光が走る。

 照準は止まることなく次のターゲットへと流れて行き、照準が合うや否や光が迸った。

 そして、最初に粒子レーザーを放たれた機体から順に、火球に変わる姿がモニター上に映し出されて行く。

 

 白亜の機体は撃墜した敵機の火球を次々と後方へと追いやりながら、そのままの速度で作業コロニーの宙域を突き進み、更に火球を量産していた。

 有り得ない反応速度だった。コクピットのモニター上に次々とピックアップされる敵機に対し、寸分の狂いもなく照準を合わせ確実に撃墜して行く。しかも、その間も次々とマーカーされる対象物を解析し、敵機のみをピックアップしているのだ。

 ──この機体のCAIアルテミスって、どんな演算能力を持っているのだろう。操縦のサポートだけでもかなりの演算能力が必要だというのに、機体の操縦から索敵に攻撃まで全てこなしている。しかも、考えられないくらいの速度で移動しながら……。


「アルテミス!」


 問いかけて直ぐに後悔した。会話に演算のリソースを取られたら、挙動に影響が出るかも知れないからだ。

 無視される事を期待していると、直ぐに返事が返って来た。


「リオン、何か」


 挙動は全く変化しなかった。相変わらず凄まじいスピードで敵を排除し続けている。


「い、いや。俺は必要なの」


「その事は、後でゆっくり説明します。今は少しでも操縦桿やトリガー、フットペダルの挙動を感じて」


「あ、ああ。分かった」

 

 あっという間に作業コロニーを通過し、その瞬間凄まじいGが体にかかり、機体が急回頭する。 

 速度を落とさない様に円を描く様な軌道を取ってはいるけれど、回転半径はかなり狭い。

 そんな回頭中ですら、HUDには次々にマーカーが浮かび解析を続けている。


 アルテミスが最もマーカーの多い宙域に機体を向けると、再び急加速のGが掛かる。 

 意識が遠のくほどのGに晒されながら、俺は数時間前に夢で見た女性の事を思い出していた。

 やはりあの女性はアルテミスなのだろうか。でも、彼女はCAIだ。実体が有るはずがない。

 そう結論付けるや否や、複数の敵機が迫るのが見え、余計な思考を頭の片隅へと追いやった。


 今度は敵も迎撃態勢を整え、照準を合わせられない様に素早く動き、同時攻撃を仕掛けて来る。

 敵機の手元からミサイルの発射光が次々と輝くのが確認出来た。あの時SWで被弾した追尾型のミサイルだろう。

 モニター上には一斉にマーカーが現れ、発射された物体が赤くマーキングされた。機体とは違う認識をしているのだろう。

 直後に無数のミサイルが殺到して来るのが目視できた。この数はとても躱せそうにない。確実に被弾する……。

 そう思った刹那、右手の操縦桿のトリガーとは違うボタンが凹んだ。

 モニター上方から光の粒が連続して発射された。実弾が連射されている感じがする。ゲームで良く見る、曳光弾えいこうだんが数発おきに含まれた機銃の様だ。

 ミサイルに光の粒が到達すると、その場に小さな火球が発生する。機銃でミサイルを迎撃しているのだ。

 それでも、巻き起こる火球を突き抜け数発のミサイルが迫って来た。やはり、被弾は避けられないのかも知れない。

 そう思った直後に、体に細かな横Gを感じ、機体がミサイルの間を縫うようにすり抜けて行く。

 アルテミスはミサイルの軌道を全て計算し、被弾することなく回避しているのだ。

 そして、追い縋る様に追尾してくるミサイルの方へ回頭し再び機銃を放ち、気が付くと全てのミサイルを迎撃してしまっていた。凄い……。

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