第12話 「旅立ち」
破壊された作業用コロニーを捜索して回ったけれど、生存者はひとりも居なかった。
アルテミスからこの宙域には長くは居られないと告げられ、ここを離れる事を決心した。
実はパイロットレベルがFになった事により開示される情報が増え、アルテミスが答えてくれる内容が増えたのだ。
あの格納庫が有った小惑星は実は宇宙船で、ステルス型揚陸艦イーリスというらしい。
格納庫で話したイーリスは、あの艦のCAI(制御AI)だったわけだ。
イーリスは、俺の身の回りの物や、機体修理の資材、他にも持ち出せる物を積み込む為にこちらへと向かって来ているそうだ。もう直ぐ到着するとアルテミスが言っていた。
「ねえ、アルテミス。俺のパイロットレベルの詳細を見せて」
「リオン。その前にパイロットレベルの情報を伝えるわね。そうでないと、詳細を見ても理解できないでしょう」
アルテミスの言葉と共に、モニターに情報が流れ始めた。
《パイロットレベルはAからFまで存在し、各項目の平均値で決定される。各権限もこれに連動する》
【操作】とは機体の操縦能力、【回避】とは機体への攻撃回避能力、【視力】とは敵視認能力、【射撃】とは射撃の正確性・判断力に関する能力、【近接】とは近接攻撃への対応・判断力を表す。【感情】とは感情の起伏の大きさ、【精神】とは内的・外的要因に対する精神耐久性、【状態】とは萎縮、普通、悲哀、狂乱、気絶、死亡などの状況、【称号】とは各数値から導き出される呼称を表す。【スキル】は別途スキル項目参照。
いきなり、ズラズラと文字が並んで驚いたが、何となく意味が分かった。
自分の各能力がAからFで表され、その平均でパイロットレベルが決まる。
俺の能力の殆どが達成範囲のFが多いから、パイロットレベルがFという事らしい。きっと射撃はまあまあの数字で、他がまだFの範囲なのだろう。
『では、リオンの計測数値を出すわね』
パイロットレベル:F
操作:F
回避:F
視力:F
射撃:F
近接:UN
感情:F
精神:F
状態:過信
称号:スターダスト(宇宙ゴミ)
スキル:修理F
「酷い……相変わらず宇宙ゴミだ……」
『リオン、これからよ。頑張って』
「ねえ、アルテミス。これからどうなるの?」
『あなたは権限未達の条項が多いから、あまり沢山は教えられないけれど。先ずはパイロットレベルを上げる為に、旅を続ける事になるわね』
「旅ってどういう事。さっきみたいに戦争をするってこと」
『いいえ、そういう事に巻き込まれる場合もあるかも知れないけれど。出来る限りそれを避けながら、あなたのパイロットとしてのレベルを上げて行くわ』
「俺は何処かの経済圏の兵士になるのかな?」
『それはあなた次第よ。今から私が話す事を聞いて判断して』
「分かった。話して……」
アルテミスは旅の目的地や、その目的が戦争を止める為だと言う事、それまでに俺がどうならないといけないのかを教えてくれた。
そして、もし俺が旅を辞めたいのであれば、アルテミスの機体は焼却処分して去る様に指示された。
この機体の生体認証は絶対で、格納庫で起動した時点で、他の人には使えない機体になっているらしい。
いまさらだけれど『時を紡ぐ覚悟』とか言われた理由が分かった気がする。
「アルテミス」
『はい』
「俺がアルテミスの期待するレベルのパイロットになれるのか分からないし、その目的地のオーディンとか言う場所に辿り着けるのかも分からない。でも、全ての経済圏で戦争が始まっているのなら、親方やあんちゃんやこのコロニーの人達みたいに、理由も分からずに殺される人達を助けたい。俺を連れて行って下さい」
『リオン……あなたの申し出を喜んでお受けします』
話をしているうちに、目の前の宙域にあの小惑星が現れた。
細かなスラスターの逆噴射が見えて、小惑星にしか見えない揚陸艦イーリスが宙域に停止する。地表から大型のハッチが開くのが確認出来た。本当に宇宙船だったのだ。
機体を自ら操縦して、集めた資材を搬入するためにイーリスと作業コロニーを往復している。
パイロットレベルがFになった事により、操縦の権限を与えて貰ったのだ。
それでも、まだまだ上手く操縦出来ないので、アルテミスにかなりサポートして貰っている。
「そうだ、アルテミス。この機体は名前もアルテミスなの」
『いいえ。私の名前がアルテミスで、この機体は別の名称が有るわよ』
──CAIで名前が有るなんて……やはりアルテミスは本当に凄いCAIなのだろうな。
「この機体は何ていう名前なの」
『ええ。オーディンⅫ型ギャラクシードールプロトタイプ……』
もの凄い長さの名称が続く。
『……陸戦可能型プラクティカル……で、通称シャルーアよ』
「あ、アルテミスって真面目なCAIなんだね。でも、CAIに真面目って変かな」
『え?』
「いや、何でもないよ。つまり『シャルーア』ってこと?」
『ええ、そうよ』
この美しい白亜の機体の名前はシャルーア。
CAIアルテミスを搭載した凄い機体。
俺はこの機体で、強くて凄いパイロットになって行く。
「アルテミス。このシャルーアでレベルを上げる為の訓練をバンバン行うんだね」
『いいえ。それは出来ません』
「へっ?」
『この機体は重要機密になっていますので、何かしらの軍事介入が必要な時にしか使用権限を出せません。むやみに衆目へと晒す訳にはいかないのです』
「えっと。それじゃあ、俺はどうやってパイロットレベルを上げるの」
『これから、この宙域で破壊された敵機の部品を集めて、リオンが持ち込んだ機体をベースに訓練用の機体を作成します』
「……」
シャルーアを使いこなす格好良い自分を想像していたけれど、ちょっと違うみたいだ。
機体を作成するらしいけれど、揚陸艦イーリスの事で気になっていた事を聞いてみた。
「ねえ、アルテミス。イーリスの乗組員は何人くらいなの」
『無人です』
「ええっ! じゃあ、艦の運航とか機体の作成とか修理は誰がやるの」
『運航と機体の簡単な修理はイーリスが行います。機体作成については、イーリスのサポートでリオンが行います』
沢山の乗組員と一緒に旅が出来ると思っていたけれど、随分と大変な旅になりそうな予感がして来た。
でも、今の俺には行く当てなんてないから、頑張るしかない。
しばらく物資の搬入を続けてから、宙域に散在している敵機の残骸を回収した。
まさかこの凄い機体でデブリ回収をやるとは思っていなかったけれど、目的のデブリをアルテミスが簡単に見つけ出してくれるから、短時間でかなりの部品が集まった。
最後に誰も居ない作業コロニーから食べ物を集めて積み込む。レーションばかりじゃ味気ないだろうとの配慮らしい。
これで旅立ちの準備は出来た。
格納庫へシャルーアを収納し、イーリスの案内で艦内を移動して与えられた部屋に入る。
広くて色々な設備が整っていて、随分高機能の部屋の様だ。
部屋の設備を見て回っていると、僅かに体にGを感じた。艦が動き出したのだろう。
「イーリス。作業用コロニーをモニターに映してくれるかい?」
直ぐに壁に画像が浮かび、そこには徐々に離れて行く作業コロニーが映っていた。
今まで俺の全てだったあの空間。もう、親方もあんちゃん達も居ない。
悲しみと寂しさに胸を締め付けられながら、二度と戻る事がないだろう故郷に別れを告げた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます