第8話 「アルテミス起動」
『近隣宙域に未確認機体確認……敵対個体の可能性有り……複数接近中』
イーリスの声が敵の接近を知らせている。
『敵対個体』って、もしかして作業コロニーを襲った連中の事だろうか。
「イーリス! 何が起こっている」
『……』
「CAI! イーリス!」
イーリスが返答をしなくなった。
あいつらにこの場所を探し当てられて、結局は殺されるのだろうか……。
『……権限確認……了承。セットアップします』
何も反応をしなくなったイーリスが、突然話し始めた。
「イーリス! 状況を教えてくれ」
『権限未達……却下』
訳が分からない会話にイラついていると、格納庫の床に僅かな振動を感じた。
すると、暗くて見えなかった奥の方の扉が開き、何かが吊られた状態で運ばれてくるのが見えた。機体だ。
そして、格納庫の中央辺りに白く輝くその機体が置かれる。襲って来た連中と変わらないサイズの機体。間違いなく軍用のGWと言われる機体だと思う。
こんな機体が出て来たという事は、やはりここには誰か居るのだろうか。
それにしても何だろう、この美しい白亜の機体は。
滑らかな流線形のボディを装甲板や見慣れない装備が覆っている。でも、全てがその美しい造形を崩さない様に設計されていて、武骨な感じは全くしない。
ゲームや古代映画の中に出て来る、屈強で重装備の騎士の様な姿をしているのに、何となく女性的なフォルムをしているのだ。
それが何かに似ていると感じていて、その何かを思い出そうとしているのだが思い出せない。
美しい機体だ。誰が乗るのだろう……。
パイロットが現れると思い、キョロキョロと周囲を見渡すけれど誰も現れない。格納庫の照明にライトアップされた、美しい機体が静かに
『リオン……』
その時、俺の名前を呼ぶ
「えっ? 名前……俺か」
『リオン……』
その声を聴いた途端、この機体が何に似ているのかが分かった。気絶した時に夢で見た女性だ。
全身真っ白で、プロテクターが付いたレオタードの様なボディスーツを着用していた、あの女神の様な美しい女性を思い出した。
似ていないけれど、似ている気がする。凛とした雰囲気やフォルムの美しさがそっくりなのだ。
『リオン……聞こえますか』
再び名前を呼ばれ、意識が引き戻された。
この声は何だ。何処から話し掛けている?
「誰?」
『リオン……この機体で……』
「えっ」
『この機体で時を紡ぐ覚悟はありますか』
「いったい何の話なの。覚悟も何も、意味が分からないよ」
『敵対行動確認……偽装地表に接触……スキャニング行為確認』
イーリスの声が聞こえて来た。敵がこの小惑星に取り付いたらしい。
『リオン。私と共に……』
「だから何の話なの。あなたは一体誰なの」
意味が分からなかった。全く知らない場所に連れて来られて、急に訳の分からない事を言われ、見た事も無い機体が現れて……。
『このままだと、全てが失われる……リオン……コクピットに座って……』
女性の声に悲しみが宿った。何故だか分からないけれど、ただそれだけで急に心が締め付けられる。
どうなるのか分からない。でも、断る気持ちにはなれなかった。
「分かった。乗るよ。でも、多分何も出来ないよ。死ぬだけだよ」
白亜の機体の傍に行くと、コクピットが開いた。
床を踏みしめて飛び上がり、ふわりとコクピットへと飛び込む。
内部を見渡すと、操縦席の上に高性能そうなヘルメットと
いや、これはきっと軍用のパイロットスーツと言われる代物だ。
作業用の野暮ったいスペーススーツを脱ぎ捨て、直ぐにパイロットスーツを身に付ける。でも、意外にブカブカだ。
『着座して』
また女性の声がする。
促されるまま操縦席に座ると、シートの脇から端子が伸びパイロットスーツに連結した。数秒の間が空いた後、スーツの内部が急に体にフィットし始め適度な拘束感に包まれる。ブカブカのスーツだと思っていたら自動調整の様だ。
コクピットの内部を見渡すと、作業用SWとは全く違う世界が広がっていた。
操縦桿やフットペダルは存在するけれど、色々とパーツが付いていて、未知の機能が沢山存在する様だ。
訳も分からずに見渡していると、滑らかな動きでコクピットの扉が二重に閉じられ、内部が真っ暗になった。
真っ暗な空間に『
続けてモニター上に文字が浮かんで来る。CAIの起動画面だった。
《Control by Automata Artificial Intelligence.Start Up Artemis…………》
いつものCAIの起動画面だけれど、文字が多い気がする。
CAAI? Artemis? 何だこれ。
もう一度しっかりと読もうと思った途端、表示は消えてしまった……。
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