第7話 「辿り着いた場所」

 目が覚めると、何もない宇宙空間を漂っていた。

 モニターを流れて行く星のスピードから、かなりの速度で移動しているのが分かる。恐らくメインブースターとスラスターを同時にフルブーストしたのだろう。

 操縦桿やフットペダルを触っても機体は反応しないし、語り掛けてもCAIが反応しない。お手上げだ。

 そもそも、このスピードを殺すだけのブースターやスラスターの燃料が残っているのかすら分からない。

 軍用CAIの良く分からない動作で命拾いしたものの、こんな宙域を漂い続けても何もないはずだ。

 漂流した挙句、機体の燃料やバッテリー切れで酸素不足や衰弱死とかで死ぬと思う。


 親方やあんちゃん達はどうなったのだろう……。生きていないよな。死んだんだよな。俺、敵が討てたのかなぁ。

 もっと敵を倒したかった。俺がもっと落ち着いて対空砲を撃てていたら、皆死なずに済んだのかも知れない。悔しい。

 皆の顔を想い出し涙が溢れて来た。ヘルメットの中を涙の粒が漂う。


 真面まともに戦えなかった自分の不甲斐無さと、そのせいで皆を死なせてしまった罪悪感に苛まれながら目を瞑っていると、不意に機体が減速するGを感じた。

 モニターを覗くと星が流れるスピードが遅くなっていた。CAIが勝手に減速させているみたいだ。

 機体の行先をモニターで確認すると、見覚えの有る小惑星が見えて来た。CAIカードを拾ったあの小惑星だ。


 小惑星に接近すると、あの時見つけた溶けた機体が目の前を通過して行くのが見える。機体は小惑星の隙間へと滑り込でいった。


「ははは。ここで、この機体を焼却処分しろって事かい? これは軍用機じゃないから、そんな機能は付いてないよ」


 自嘲じちょう気味にCAIに話し掛けてみたけれど、やっぱり返事は無かった。ミサイルの衝撃で何処か故障しているのかもしれない。

 そんな事を考えていたら、目前に小惑星のゴツゴツした地表が迫って来ていた。

 機体は減速しない。このスピードでぶつかると機体が壊れる可能性大だ。

 このCAIはいったい何をしているのだろう。衝突すると分かっていても減速すらしないなんて。やっぱり壊れてるのだろうな……。

 仕方なく衝突の衝撃に備えて体を丸め、半ば諦めながら目を瞑った。

 ところが、衝撃が伝わって来ない。目測を誤っていたのかも知れないと思ったけれど、いつまで経っても衝突しないのだ。

 不思議に思い目を開けると、外は星も見えない真っ暗の状態。

 でも、直ぐにスラスターの噴射音が聞こえ、どこかに着地する軽い振動が伝わって来た。

 同時にモニターに光が差し込み、外に広がる景色が目に入る。


「は? どこだ、ここ……」


 訳が分からなかった。機体は大きな倉庫、いや大型の格納庫に着陸していたのだ。

 思わず呆然ぼうぜんとしていると、コクピット内の全面モニターがOFFになり、機体のコクピットの扉が勝手に開いた。

 空気が漏れださないから、周りの空間も空気で満たされている事が分かる。


『母船に到着しました。速やかに機体から降りて下さい』


 不意にCAIの声が響く。

 どうしようか迷ったけれど、機体の機能は停止してしまっているので、とにかく降りることにした。

 取り敢えずコクピットから飛び出ると、体が自然と床に向かい落下して行く。空気の流れだろうか、床へと流されて行く感じだ。

 それほど衝撃を受ける事もなくフワッと着地した。どうやら床が空気を吸い込み、その流れで引き寄せていたみたいだ。

 周りを見渡しても、広い格納庫の中に人の気配は無い。とても天井が高く、巨大な空間に俺一人立ちすくんでいる状態だった。


「すいませーん。誰か居ませんか。ここは何処ですかー」


 叫んでみたものの、広い格納庫内に声が響くだけで返事は無い。仕方なく格納庫の中を歩き回り、何かないか探す事に。

 ところが、歩き始めて直ぐに背後から物音がした。

 振り向くと、俺のSWが天井から下りて来た爪に吊られて移動させられていた。

 どこかに操作している人が居るのかと思いキョロキョロと見渡したけれど、やはりそれらしい場所も人影も見当たらなかった。

 吊られた機体は、壁際にある機体整備を行うハンガー(収納スペース)へと運ばれ、そのまま固定されてしまった。もしかしたら、自動制御なのかも知れない。


 何か起こるかも知れないと思い、その場で待っていたけれど、特に何も起こらかった。

 仕方なく、壁際を歩きながら格納庫の外に繋がってそうなドアを触ってみたけれど、どれも反応せず開かなかった。

 そのまま歩き回っていると、開かなかったドア付いていた通信用モニターの画面が突然輝いた。通信かも知れないので慌てて駆け寄る。

 でも、画面には何も映っていない状態。それでも誰かが聞いているかも知れないと思い、声を掛けた。


「すみません。誰か居ませんか」


『生体確認……認証済み……状態普通』


「えっ」


 聞き慣れないCAIの機械音声が聞こえた。もしかしたら、この場所をつかさどるCAIかも知れない。


「CAI、ここは何処」


『CAIではなく、イーリスとお呼び下さい』


「イーリス?」


『ご用件は?』


「あっ、イーリス、ここは何処?」


『権限確認中……権限未達。却下』


 会話が出来そうで出来ない。いったいこのイーリスというCAIは何だ。

 大体、権限って何だ? 分からない事だらけだ。沢山話し掛けて、話せる事と話せない事を色々と確かめれば良いのだろうか……。


 それからしばらくは、成立する会話と『権限未達』とかで却下される会話が続いた。

 でも、このイーリスとかいうCAIが、この施設を管理しているCAIである事だけは分かった。

 ふと、お腹が空いている事に気が付いて、試しに問いかけてみる。


「イーリス、食べ物か飲み物を貰えないか?」


『確認中……了解』


 イーリスが答えると、何処からともなくワゴンが現れ、その上に飲み物と固形のレーション(野戦食)が載っていた。

 特に外袋や容器が劣化している状態ではないので、普通に食べられそうだ。長時間飲み食いしてなかったので、これは助かる。

 乾燥したレーションを飲み物で戻しながらお腹に収めた。軍用のレーションなのか、美味しくて意外と満足度が高い。

 お腹も満たされ、イーリスへの質問を再開しようと思っていた矢先、格納庫内に警報音が鳴り響いた……。


『周辺宙域に未確認機体確認。接近の可能性あり』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る