第5話 「目の前の戦争」

 取り敢えず大きなデブリを回収すると、交代の時間になったので、親方と共に作業コロニー近辺へと戻る事に。

 コロニーに近づくと、待機していたあんちゃん達の機体後方にスラスターが噴射され、スルスルとこちらへと流れて来た。


『お疲れい!』


「あい!」


 そんないつもの交信を交わしていた時だった。作業コロニーの反対側の端に火球が見えたのだ。

 コロニーの端と端だから小さな火球に見えるけれど、間違いなく何かが爆発している。


『何だありゃ』


 爆発は治まらず、コロニーの本体に次々と火球が上がっていた。


『海賊の襲撃か』


『チッ、こんな時に』


 あんちゃん達の会話が通信機越しに聞こえて来た。

 この作業コロニーには大した資源やお金は無いけれど、辺境は警備が手薄だから、時々海賊の襲撃があったりするらしい。


『おい、お前ら。こっちまで来られたら面倒だ。応戦の準備だ』


 親方のひと声で全員コロニー内へと戻り、作業場で応戦の為の武器を装着し始めた。

 武器と言っても、作業用SWに装備する武器は映画やドラマとかで見る様な格好良い銃器ではなくて、一番強そうな装備でも、刃の部分の反対側にレーザー粒子刃が付いている斧みたいな奴だ。

 他には棍棒こんぼうみたいなものをマニピュレーター部に装着したりしている。


『リオン!』


 親方の声が飛んできた。


『お前はゲームが得意だったな』


「はい」


『だったら、この上にあるコロニーに固定してある対空砲に行け。SWの外部コードを繋げばリンク(接続)できる』


「わ、分かった」


『十分気を付けろよ。ミサイル一発で死ぬぞ』


「はい」


 親方に言われた通り、コロニーの表面に設置してある対空砲に取り付きSWとリンクさせる。直ぐにコクピットのモニター上に対空砲のHUDが表示された。

 真っ暗な宇宙空間を背景に、視認性の高い緑色の表示が情報を伝えている。

 画面上で囲まれているのはあんちゃん達の機体。動いている物を捉えると、四角で囲んで追尾し始めるのだ。

 遠くに火球やSWの様な影が小さく見えるけれど、まだ射程外なのか表示は反応していない。


 実は戦闘は初めてだった。親方の武勇伝を聞いた事は有るけれど、実際に戦闘に関わった事はない。

 皆は海賊程度ならこの作業コロニーの戦力でも十分に追い払えると言っていた。 

 ───そんなものなのかなぁ……大丈夫かなぁ。

 そんな事を考えていた矢先、モニターに四角で囲まれた物体が現れ、何かがこちら側に来ている事を知らせて来た。

 心臓が跳ね上がりそうになりながら震える手で何とか操作し、四角い囲みに向けて対空砲の照準を合わせて行く。この辺はゲームと一緒だ。大丈夫だ。

 徐々に対象物が近づいて来ているけれど、直線的な動きをしているから敵ではないかも知れない。

 そして、視認できる距離に達した時に、捕捉した対象物が何だか分かった。引きちぎれた作業用SWの上半身だった。

 敵ではない事に安心すると共に、一抹の不安が沸き上がる。それ以上見なければ良いのに、コクピットと操縦者の状態が気になり目が逸らせない。

 そのまま横を流れて行く機体を凝視してしまったけれど、剝き出しになったコクピットに人の姿は無かった……。緊張がほぐれて深く息を吐く。

 でも、安心したのも束の間。その後ろを無残な姿になった人が流れて行くのを見てしまったのだ。


「ひいっ」


 思わず変な声が出てしまい、汗が噴き出す。

 ──人が死んでいた。戦闘で人が死んだんだ。

 恐怖なのか何なのか分からないが、急に胸が締め付けられて呼吸が出来なくなる。

 人の無残な死を目の当りにしたのは初めてだった。堪えようとしても体の震えが止まらない。


『リオン、大丈夫か』


 親方の声が聞こえて来た。親方も流れて来たSWと操縦者の死体を確認したのかも知れない。


「うん……オエッ」


 胃から何かが上がって来た。けれども、空腹だったせいもあり、何も吐瀉としゃする物はなくて、上がってきた胃液が喉を刺激して気持ちが悪い。


『怖いなら、中に戻っていても良いぞ』


「いや、大丈夫。大丈夫だから」


『無理すんなよ』


 親方と通信をしていると、モニターがまた何かを捉えて四角で囲んだ。今度は直線的な動きじゃない。


『敵が来たぞ!』


 親方の叫び声が聞こえ、周りにいたあんちゃん達の機体も身構える。

 必死で照準を合わせようとするけれど、対象の動きに付いて行けない。速い。

 的を絞らせない為なのか、不規則に動き回りながら機体が迫って来ている。

 敵の機体が巨大に見え、恐怖で体が強張って動けなかった。

 照準を絞る事も、相手を撃つことも出来ずにいると、敵がそのまま対空砲の横を通り過ぎていった。


『ぐはっ』


 通信機から誰かの声が聞こえた。はっとして振り返ると、チーあんちゃんの機体が火球に包まれて飛び散っていた。


「チーあんちゃん!」


『何だあの機体は! SWの大きさじゃねえぞ』


 親方の叫び声が聞こえて来た。敵の機体が大きく見えたのは、恐怖心だけじゃなくて本当に大きかったのだ。


『ありゃ、軍用のGW(ギャラクシーウォーカー)じゃねえか。どういう事だ』


『ぐわっ』


 また別の声が聞こえて来た。

 細かいデブリが機体にぶつかる音がして、近くに居たはずのニイあんちゃんの機体が消えて無くなっていた。

 ニイあんちゃんのSWもやられた。信じられない。こんなの嘘だ。


「うわあああああああ!」


 通り過ぎた敵に対空砲を向け、闇雲に撃ちまくった。

 何なんだこれは、いったい何なんだよ。

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