第4話 「パイロットステータス」
「ふへっ?」
親方の言っている意味が分からなくて、変な声を出してしまった。まだ、頭も回っていない。
「何処で」
「全部だ。全コロニー経済圏が戦争状態に入ったんだよ」
「全部のコロニーが戦争になったの」
「詳しい事は分からねえが、セントラルコロニー群に対して、ドロシア共和コロニー群が宣戦布告して、他のコロニーもどちらの側に付くかで戦争状態に入ったらしい」
俺らの住んでいる作業コロニーは、ウルテノンコロニー群と言われる経済圏に入っている。
中央政府のあるセントラルコロニー群やドロシア共和コロニー群の他に、ユーロンとか何とか言うコロニー経済圏が複数存在しているのだ。
詳しくは知らないけれど、コロニー群は大きな惑星の重力を利用して宙域に留まっているそうなので、何処にでも作れる物ではないそうだ。
だから、それぞれ離れた宙域にコロニー群が形成され、そこで独立した経済圏が出来上がるらしい。
一応、人類発祥の惑星を含むセントラルコロニー群が中心だけれど、全てのコロニー経済圏を従わせるだけの力は無いから、昔から経済圏どうしの小競り合いは続いていたそうだ。
「えっ。じゃあ、全部のコロニーが戦争状態ってこと」
「だな。どの程度かは分からねぇが、俺らのウルテロンコロニー群も戦争状態に入ったそうだ。こんな辺境は直接関係ねえだろうが、物資とかに影響が出てもおかしくねぇ」
「影響って、ジャンクパーツが売れなくなるとか?」
「逆だ。戦争は際限なく物資を消耗するからな。原材料の価格が高騰するぞ」
「そうなんだ。じゃあ頑張らないとね」
「おう。だから叩き起こしたんだ。これから三交代制でガンガン回収しまくるぞ」
「分かった。早速準備をするよ」
「いや、お前は寝てこい。睡眠不足は危険だ。八時間後の交代で出る準備をしておけ」
『それなら起こすなよ』と思ったけれど、八時間後に出るなら早めに起きて準備をしないといけない。そういう事だ。
『……可動部確認完了。良好。オールクリア』
新CAIの滑らかなアナウンスで、俺のSWのチェックが終わった。全て良好。
軍用CAIだったけれど、この機体との連携は上手く行ったみたいだ。
全てが上手く行き、機嫌よく宙域に出ようとフットペダルを踏みこもうとした時だった。
『パイロットチェック』
突然、聞き慣れない言葉が聞こえた。
『パイロットランクG……その他の能力値は
「えっ、今なんて言ったの」
CAIが何か分からない事を言ったが、機体とのシンクロ不可とかは、この機体が軍用機じゃないからかも知れない。でも、パイロットレベルGって何だ。
「CAI、パイロットレベルとは」
『パイロットの能力を示す指標』
「CAI、レベルGとは」
『機体操縦レベルに達せず』
「……」
まあ、軍用機体の操縦がベースだろうから、気にするのは止めよう。
「CAI、パイロットチェックの項目を見たい」
『了解』
CAIの返事が返ってくると、正面のモニター上に、《Pilot Status》の文字と共に項目が表示された。
パイロットレベル:G(機体操縦レベルに達せず)
操作:UN
回避:UN
視力:UN
射撃:UN
近接:UN
感情:UN
精神:UN
状態:普通
称号:デブリ
スキル:UN
──なるほど、スキップされた項目が全部『UN(未確認)』になっているんだな。軍用機のパイロットはこんな項目で管理されているのか。
しかし、この称号は酷いな。何だよ『宇宙ゴミ』って。
まあ、俺は軍人じゃないし、機体もシンクロとかの機能が搭載されていないから、ちゃんと計測出来ないのかも知れない。うん、きっとそうだ。
情けない気持ちを頭の隅へと追いやり、要らない情報を消した。
モニターに映る親方の機体からスラスターが噴射され、機体が宙空へと浮かんで行く。
親方の合図に合わせて俺もフットペダルを踏み込み、デブリの漂う宙域へと機体を滑らせた。
いよいよ回収作業の始まりだ。軍用CAIが搭載された機体の動きが楽しみで仕方がない。
────
『この宙域は結構稼げたな!』
親方の嬉しそうな声が飛んで来た。
あれから三日、俺達は捜索宙域を広げ、三交代でデブリを集めまくっている。
原材料の価格が上がるまでは、清算せずに作業場や資材置き場にストックするから、置き場にはデブリが山積みになっている。清算の時が楽しみだ。
親方との会話を終えると、目の前にまた大きなデブリが漂っていた。直ぐに回収に取り掛かる。
──さあ、どんどん集めるぞ。このCAIのお陰でかなりのスピードアップだ!
新CAIの操作サポートは滑らかで、機体の操縦が上手くなった気がしてしまう程だ。本当に楽しい。
ウキウキしながら機体をデブリに寄せ、マニュピレーターで掴もうとした時だった、機体が勝手に横向きにスライドしたのだ。
気のせいかと思ったけれど、やはり操縦桿が若干傾いている。スラスターが噴射されて機体が横に流れていた。
何かの誤作動かと思った途端、今まで俺の機体があった宙域を、かなりの速度で尖ったデブリが通過して行ったのだ。もしスライドしていなければ、機体に突き刺さっていたかも知れない。
「おお、リオン。今のは良く見ていたな。危なかったぞ」
「あ、ああ。まあね」
そう答えたものの、実は実感がない。
──今のは何だ。俺が動かしたのか? それとも……。
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