彼の言う通り、私たちは、互いに良い友人となった。


歳を重ねるごとに、それぞれが持つ友達の意味合いは、少しずつ変わっていってしまった気がするけれど、それに目を瞑っていれば、気に入らない事への不満を口にし合えるぐらいには、良好な友人関係を築けていたと思う。


私達が、友人契約を結んだ、あの冬の一日は、もしかしたら彼にとっては、溢れかえる日常の中の一部で、何も特別な事では無かったのかもしれない。


それでも、私にとっては、額縁に飾られた絵画のように、色あせることの無い想い出で、


だから、彼が自分の生き方に挫折して、私と距離を取ろうとした時も、想い人への悩みを打ち明けた時も、最愛の人との別れに心を壊した時も、私は、彼の友人を辞めることはしなかった。


そんなことで、私たちの、私の、綺麗で夢に溢れた物語を壊すことはしたくなかったから。


私と彼を繋いでいるのは、替えの利かない『友人』という関係性で、それさえ遵守していれば、私は、彼の隣にいることを許される。


彼は、昔と変わらず、臆病で優しい人だから。


性の自覚と共に、歪んでしまったこの想いを知ったら、きっと私から離れることを選択する。


それは、駄目だ。


そんな結末は、私の好む物語ではない。


それを選ぶくらいなら、私は、彼の良き友人のままで良い。

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