(3)
男にとって、思いがけない踏み込みだった。
どう見てもふらふらだった。やせ我慢だった。虚勢だった。
動けるはずがなかった。
だから油断していた。その一刀が、自分の顔に届くのを。
「――――っ?!」
一瞬の衝撃。空白。続く、激痛に、男は悲鳴を上げていた。
人間ではないことを証明するための黒い霧が顔面から噴き出した。
あの日、相棒と呼んでいた頭の左側に一本の捻じれた角を持つ妖が、自分もいつか【八妖】のような後世に名を遺す強い妖になってやると豪語していた妖が、尊敬し、憧れていた妖斬妃に追いかけ回されて殺されて喰われた日。男は怒りに任せて、相棒の右腕と言われていた妖を腹いせに食らっていた。右腕と称されて付きまとっていながら、いざという時逃げ出して、【揺り籠刀】を後生大事に抱えて命からがら村から出た妖を。よくも見捨てたなと喰らった直後、男の顔半分は別人のものとなった。その時の燃えるような痛みにも似た痛みに襲われて、男は顔を覆って悲鳴を上げた。数歩あとずさり、躰を折る。
その耳に、「フフフ」と嗤い声。
見れば、額に汗を浮かべた椿が、片膝を立てて嗤っていた。
ざまぁみろと嗤っていた。
目の前が赤く染まり、男は――いや、頭の右側に一本の捻じれた角を生やした妖は、左の髪をかき上げて、咆えた。
「小娘が!!」
もっと甚振ってから殺そうと思っていた。
相棒の敵を取るために。
本来であれば、長い間刀に封じ込められ、人間にいいように利用されていた妖斬妃を自由の身に出来たかもしれない相棒は、妖斬妃にとっては頼もしい味方のはずだった。感謝されるはずだった。褒められ、認められ、恩恵を与えてもらってもいいはずだった。
それが、実際は自由の身になった途端に追いかけ回されて殺されて喰われた。
そういう最期だったと右腕と自称していた腰巾着の妖から聞いていた。
話を聞いたとき、それほど村を襲うことにも【八妖】にも興味を示さなかった男の意志はがらりと変わった。
絶対に復讐をすると心に誓ったのだ。
そのためには戦力を集める必要があった。幸い自分の手には空色の鞘に入った【揺り籠刀】が。そいつは反抗的だった。言葉と言う言葉は交わしたことはなかった。ただ、感情だけが伝わって来ていた。憎しみと拒絶と怒り。人間よりも妖に扱われたくなどないという意志だけが、強く強く伝わって来た。
だから、あえて使ってやった。とても丈夫な【揺り籠刀】。目の覚めるような空色の刀身には魅入られた。美しかった。本当に美しかった。覗けば白い雲が流れていくのではないかと思った。鳥が飛んでいるのではないかと思った。
だから男は、砕いた。乱暴に叩いて。折れないように欠片だけを使いたかったから。
強制的に力を奪う行為。泣いても喚いても、どんなに恐れられていたとしても、扱うものがいなければ、所詮【揺り籠刀】だとてただの物。
風の噂で、妖斬妃が村から奪われた【揺り籠刀】を取り返すための旅に出たという話を聞いた。
いつか自分の元にも必ず現れると男は確信していた。
だから準備をした。手駒を増やすために妖憑きを量産するために、心の弱い人間を捜し回り、妖斬妃の情報を集めた。
全ての時は、妖斬妃に復讐するために使われた。
不要な騒ぎを起こして人間どもに目を付けられぬように細心の注意を払いながら、コツコツと地道に仲間を増やし、力を強化し、準備をして来た。
そう。全てはこの日のために。
本当は、新たに取り込んだ柊をぶつける予定だった。
どうやら顔見知りらしいと知った男は、柊を盾にし、人質にし、椿を追い詰め隙を見て【妖斬妃】奪い取り、何もできない【妖斬妃】を使って椿を殺そうと思っていた。
だが、椿の限界は思ったよりも早く来た。
柊の陥落には思ったよりも時が掛かった。
嘘までついて、同情を誘い、安心感を与えて誘惑して。それでようやく柊の意志が抵抗を辞めた。
結果、立てた計画に少しばかりの狂いが生じた。
意識を完全に妖が奪うまで、暫しの時がいる。
だが、想像以上に椿の疲労が激しく、妖斬妃が姿を消したのは幸いだった。
誘われているのかと初めは思ったが、男の持つ【揺り籠刀】を見た椿の反応を見た瞬間。自分が【沈根】を持っている限り大丈夫だと確信した。
仮に妖斬妃が何かを仕掛けて来たとしても、今にも折れそうな【沈根】で受けようとすれば、おそらく妖斬妃はともかく椿は抵抗すると考えたためだ。
だが、その考えも取り越し苦労だった。そう思った。余裕だと。これならば、当初の予定通り【妖斬妃】を奪って嬲り殺しにしてやろうと。
しかし、椿は抵抗をした。妖斬妃の力を使うことなく、己だけの力で一太刀を浴びせに来たのだ。
男は一瞬で間合いを詰めると、【妖斬妃】を杖代わりに立てて縋りついている状態の椿に、いつ折れてもおかしくない【沈根】を思い切り振り抜いた。
抵抗など出来るわけがなかった。
【沈根】は【妖斬妃】を大きく打ち上げた。
一瞬、絶望的な表情が椿の顔に広がるが、そんなものはもうどうでもよかった。
男は椿を蹴り飛ばした。
なす術なく椿は蹴り飛ばされて地面に倒れる。
そこをさらに執拗に蹴り続ける。
椿は丸くなる。出来る限り丸くなる。
左腕で顔を守り、右手で脇腹を守るようにして丸くなる。
耐えようとしているのが気に入らなかった。泣いて許しを乞おうとしない様が気に入らなかった。呻き声一つ上げずに丸まったまま。
男は、自身の息が上がるまで蹴り続け、不意に足を止めると、
「ここで死ね。後からあの忌々しい妖も送ってやる。こいつ共々な」
逆手に握った【沈根】を、椿の首元目がけて力いっぱい振り下ろした。
無防備だった。無防備以外の何物でもなかった。
守る者はいない。仲間はいない。頼りの綱である【妖斬妃】は手元に届かない場所にある。
だから、少しばかり予定とは違ったが、終わりにしようと男は思った。
だが、
「なんだ?」
戸惑いの声が男から上がった。
無理もない。容易く貫けるはずの椿の首に届く前に、【沈根】の切っ先が止まってしまったのだから。
「何が、起きてる?」
椿はピクリとも動いていない。生きているのか死んでいるのかすら、正直男には分からなかった。だからこその止めの一撃のはずだったのにも関わらず、刀はピクリとも動かなかった。
どんなに力を込めても、両手で押し込もうとしても、【沈根】は沈まなかった。
「なんなんだ!」
【揺り籠刀】はただの人間を傷つけることが出来ない――と言う契約を知らない男は、苛立ちに突き動かされ、何度も何度もムキになって【沈根】を椿に振り下ろした。
しかし、ただの一度も【沈根】は椿を傷つけたりはしなかった。
「なんなんだ本当に!」
男は苛立ちと怒りを爆発させた。ビキビキと元々の顔である左半分に血管が浮き上がる。
対して男は感じた。【沈根】が嗤っているのを。ざまぁみろと嗤っているのを。
ブツリと男の頭の中で何かがキレる音がした。
「この役立たずが!」
咆えて男は【沈根】を地面に叩きつけた。
【沈根】は、折れることなく地面を弾み、男の後方へ飛んで行き――
「お前はこの手で縊り殺してやる」
刹那、【沈根】が使えないのであれば【妖斬妃】を使おうという考えも過ったが、【沈根】で無理なら【妖斬妃】はもっと無理だと瞬時に捨てて、自分の手で止めを刺すことにした。
持ち主さえ殺してしまえばこっちの物だった。
後は身動き一つできない【妖斬妃】を甚振るように壊すだけ。
泣いても喚いても許さない。
想像しただけで男はゾクゾクと快感を覚えた。
自然と顔に笑みが浮かんだ。
依然、丸まったままの椿の首に手を伸ばす。
両手でしっかりと首を握り締める。
おかしな真似などされないように、身動きを封じるために馬乗りになって、渾身の力を込めて首を折ろう――と、した時だった。
「え?」
ドス。
と言う軽い衝撃と音が男を襲った。
見下ろしていた視界の中に、ボロボロに刃こぼれしたくすんだ空色の刀身が見えていた。
「なんだ? コレ?」
思わず出所を視線で探れば、それは男の胸から生えていた。
「なんでこれが、俺の胸から生えるんだ?」
投げ捨てたはずだった。それ自体が動けるはずがなかった。
味方はいないはずだった。伏兵だって潜んでいなかったことは調べ済みだった。
だからこそ、理解できなかった。
何故【沈根】が自分の胸から生えているのか。
しかも、徐々にその刀身に輝きが戻ってきているのか。
刃こぼれしたはずの刀身が、じわじわと時を逆戻るように戻って行くのを。
何が起きたのかと、ゆっくりと背後を振り返れば、そこに、赤い瞳の柊が、当然のように立っていた。
「な、んでだ? なんで?」
理解が追い付かなかった。
柊は自分の手駒になったのではなかったのか。
それが何故、背後に空色の輝かしさを取り戻しつつある沈根を従えて立っているのか。
呆けた顔で訊ねる男に、柊は答えた。怒りに眉を吊り上げて、あらん限りに睨みつけながら。
「椿さまを傷つけたこと、絶対に許さない!」
一気に【沈根】が引き抜かれ、背中をざっくりと切り裂かれた。
男は、悲鳴を上げて慌てて前方へ逃げた。
それを、【沈根】を手にし、沈根を従えた柊が追いかける。
何がどうなっているのかが分からなかった。
柊の人格は妖に飲み込まれ、男の意のままに操ることのできる手駒になっているはずだった。
それが、身体能力だけは格段に上がっていながら、その意志は全く操ることが出来なかった。
「無駄です」
と、柊は言った。
「あなたが教えてくれたんですよ。妖憑きは悪ではないと。受け入れれば取り込むことも可能だと」
「まさか、取り込んだとでも言うのか?」
一瞬でも足を止めれば終わりだとばかりに、男は逃げる。ある場所に向かって。
それを柊は追いかける。追いかけながら告げる。
「だったら何ですか? あなたが教えてくれたのです。だからぼくは実行しただけのこと。
一度取り込まれ、己の弱さを知り、嘆き、認めてもらいたい相手に認めてもらえぬ辛さを分かち合い。だからこそ協力して欲しいと頼んだら、協力してもらえました」
「はあ?!」
馬鹿馬鹿し過ぎる答えに、男の声が裏返る。
「見返す好機だと言ったのです。仕えたい相手がいると訴えて、認めて欲しい相手がいると訴えて、傍にいたい相手がいると訴えて。これまではダメだったかもしれないけれど、今度こそその願いを叶えるために共に強くなろうと誘ったのです」
(そんな下らない理由であっさりと乗っ取り返すなんて聞いたことがない!)
これまでは、妖すら一目を置くような野心に燃える連中ばかりが妖を喰らい返し、妖憑きとなっていた。そんな相手ばかり見ていた男にしてみれば、そんな甘ったるい理由で自我を取り戻し、妖の力を取り込んだ人間など知らなかった。
俄かには信じられなかった。信じたくはなかった。
「《彼》は、協力してくれました。望まぬ相手に好き勝手されたくなどないと。自由をくれるなら協力すると。だからぼくは約束すると言ったのです」
「まさか」
と言う思いが口を吐いていた。
《彼》と柊は言った。
男は、柊の背後に寄り添う沈根を見た。
沈根は、してやったりの笑みを浮かべていた。そして聞いた。
《あんたが手駒にするために使っていた力が誰のものか忘れたのか?》
沈根だった。
沈根の欠片を核にした妖たちだった。
これまでこんな現象は起きたことなどなかった。だから全くの想定外だった。
沈根が取り込もうとした人間に共感を覚えて協力するなどということは。
誤算だった。人選間違いだった。
人間の心など弱いと思っていた。甘言に耳を貸し、いくらでも楽な道に逃げると思っていた。
だが、違った。
誰よりも見るからに隙だらけだった人の子は、それでも尚、強かった。
「っち」
思わず舌打ちを一つ。
計画を狂わせられることが何よりも気に入らない。
しかも、自分より狂っている相手に狂わされたならば諦めもつくが、相手は甘っちょろい言葉を平気で口にする子供だったのだ。
誰も彼もが邪魔をする。本来憎むべきは妖斬妃だというのに。そいつがいたせいで悲劇は起こったというのに。
憎かった。心の底から憎かった。
絶対に負けたくはなかった。復讐を諦めたくなどなかった。
絶対にこのままでは終わらせない。
男は、落ちている【妖斬妃】を拾うと、すかさず反転。打って出た。
踏ん張るたびに胸が痛んだが構ってなどいられなかった。
持つことすら叶わないかもしれないと思った【妖斬妃】は意外にも何の抵抗もなく男に揮われていた。
一合二合と打ち合って、互いに距離を取り、再び接近。
今やボロボロだった【沈根】の面影は皆無となっていた。
妖たちの時である夜に、人の時の青空が蘇っていた。
傷一つなくなった美しい輝きを見せる【沈根】と、くすんだように陰りを帯びた真紅の刀身の【妖斬妃】がぶつかり合う。
ぶつかり合うたびに火花が飛んだ。
斬り結んでは距離を取り、距離を取っては斬り結ぶ。
柊はしつこかった。妖の力を取り込んだせいなのか、元々身体能力が高かったのか。はたまた沈根が協力しているのか。
一撃一撃はさほどの重さはないものの、手数が多かった。
防戦一方に回されることが何よりも腹立たしい。
それでも、追い詰めていることに柊自身が余裕を見せれば隙も見つかったかもしれないが、柊の目は真剣そのものだった。その後ろで、沈根は楽しくて仕方がないとばかりに笑っていた。
浅葱色の艶やかな髪が、長さと輝きを取り戻していた。肌は白さを取り戻し、纏う衣も鮮やかで。まるで柊が青空を背負っているかのように男には見えた。
青空の下で生きられるのは人間だけ。妖が生きられるわけがない。
それなのに、柊の動きはますます速くなって行った。
完全に捌き切れずに傷を負って行くことが忌々しかった。
怒りが沸々と込み上げる。どこまで怒りは膨れ上がるのかと気が狂いそうになりながら反撃に出るも、数号打ち合わないままに逆転される。
(分が悪い)
己の油断が招いたことだとしても、この流れはいただけなかった。
(体勢を立て直すか?)
と自問する。
(【沈根】は奪われたが、【妖斬妃】は手の内にある。今ここで【妖斬妃】を折ることは難しいが、要はこいつに恨みを晴らせればそれでいいのなら――――逃げるか?)
苦渋の選択と言えば選択だったが、裏を返せば絶好の好機だった。
復讐したい相手が手の内にあるのだ。ある意味願いが叶ったも同然だった。
(逃げよう)
悔しくはあるが、ここで命を失って復讐が遂げられないことの方がもっと嫌だった。
おそらく、椿から離れれば柊は追っては来ないという自信はあった。見捨てるはずがないという確信があった。
だからこそ、椿が倒れている方向とは反対に向かって逃げようとしたが、
「そうはさせません!」
柊の方が速かった。先回りをされて退路を断たれる。
そのまま、息つく暇もなく斬りつけられる。
力に、速さに押された。踏ん張ることは出来なかった。
じりじりと、じりじりと後ずさる。
「あなたたちのことを、ぼくは絶対に許さない」
と、怒れる柊は宣言をした。
「あの日のことを、ぼくは絶対に忘れない。全てが赤く染まった世界を。そんな世界を生み出したあなたたちのことを、絶対に、許さない」
(俺が直接関わったわけじゃねえ!)
とは、言えなかった。言えるような状況ではなかった。
だから男は知らない。
あの時椿が妖斬妃と共に解き放った赤光が、闇に呑まれる寸前の柊の目にも届き、あの日の光景を強く思い出させていたことを。そのせいで、柊が妖に完全に飲み込まれることなく復活したことを。柊自身ですら知ることのない事実。九死に一生の鮮烈な《赤》。
その一撃があったからこそ、男の計画は完全に狂ったことに男は気が付かない。
そして、自分がどんどん、どんどん追い詰められていることにも気が付かない。
腕が痺れていた。足がもつれて来ていた。踏ん張りが効かなくなっていた。
力が止めどなく流れ落ちていく感じがしていた。
嫌だった。このまま負けるのは嫌だった。
気持ちが負け始めていることにすら気が付かなかった。
意志の強さが妖の強さを決めると言っても過言ではない世界で、男は致命的な間違いを犯していることに気が付かなかった。
腕が切り裂かれ、足が切り裂かれた。脇腹が、頬が、受け止めきれずに切り裂かれ、徐々に徐々に恐怖に蝕まれて行く中で、その瞬間は来た。
キィインと甲高い音を立てて、男の手の中から【妖斬妃】が打ち上げられた。
同時に、どさりと尻もちをつく。
肩で荒い息を吐いている柊が、【沈根】を男の胸元に突き付けて見下ろして来る。
終わりなのだと、男は察した。
嫌で嫌で堪らなかった。
だが、気持ちだけではどうにもならない状況だということを把握している以上、男の躰は指一本動かせなかった。
そんな男に向かって、柊は言った。
「あなたのしたことは到底許されるものではありません。ですが、あなたのお陰でぼくは強くなれました。本当の強さとは違うかもしれませんが、妖であるあなたと対等に張り合えるほどの力は有することが出来ました。そのことに関しては、あなたに素直に感謝します」
「じゃあ!」
「ですが、見逃すつもりはありません!」
「何故だ!」
男は喚いた。
「俺はこれまで不必要な人間を襲ったこともなければ襲わせたこともない! それは本当だ! 妖憑きにした連中のことだって、アイツらが望んで受け入れたこと。俺は人助けをしていただけだ!」
「ある意味ではそうかもしれません。ですが――」
「だったら、こうしよう。俺を味方に引き入れろ。俺は役に立つぞ? 立って見せる! お前の手下でもいい。自由に使ってもらって構わない。だから俺を――」
と、なりふり構わず前のめりになって懇願すれば、男は見た。
憐れみを浮かべた柊の顔を。
何故そんな顔を向けられなければならないのか。
自分は今何をしているのか。
それを客観的に察して怒りに頬が引きつったとき、男は、
「っ?!」
察した。
得も言われぬ怖気を。
何よりも強い死の気配を纏ったものが、自分の首に腕を回すのを。
艶やかな着物の袖が男の躰を覆った。甘やかな香りが男の鼻をくすぐった。
男の右顔を隠すように、紫色の長い髪が垂れかかり、その左耳に――
《妾に関わらねば良かったものを――》
クスリと笑みを含んだ死刑宣告が吹き込まれたとき、
「何もかもが遅い」
怒りに震える声が耳朶を打った瞬間、男の頭は軽く宙に舞った。
ボトリと落ちて、コロコロ転がり見上げたそこに、男は大きく広がる青空を見た。
その下に、金色の瞳と赤い瞳を持った従者を従えた妖艶なる
無謀だったのかと、男は考える。
どこから間違っていたのかと考える。
(初めからか)
と、投げやりに男は結論付けた。
初めから、村など襲わなければ良かったのだ。
そうすれば、それなりに面白おかしく生きられたのに――と。
思うと同時に男の思考は闇に消え、その姿はボロボロの刀を一本残して消え去った。
それが、妖斬妃が探し求め、椿が探し求めた【揺り籠刀】【沈根】の奪還の終わりを告げていた。
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