第3話:ブチまけ!夜:誰も笑いかけるな!、声もかけるな!。独りが最高なんだよ!

激安ディスカウントストア「ラマンチャ」に行ってみた。

せどらー初心者が必ず修行に使う、店舗せどりの教科書のような店。

ここで基礎的な商品仕入れのコツを身につける。

さて、見回すと、相変わらずチャチに混んでるなあ……。

夏祭りの夜店みたいに軽薄で如何いかがわしい。

店内音楽は少し小さくなったか……。

でも、充分耳にうっとうしい。

人は一応にぎわっている。

せどらーも二人いた。

増税の駆け込み需要はまだ始まっていない。

今日は利益取れそうなシロモノはないな。

時計コーナーを見てみる。

A社とかG社とかT社とか、有名服飾メーカーの時計がズラリ。

全部本物、そして全部中国製。

この店は、Fグループというコングロマリット(派閥)の時計を多く仕入れているわけだが、そのFグループが中国製造にシフトチェンジしたので、ブランド品であるにもかかわらず、こういうバッタモノ屋に流れてくるようになった。

故障多いし

メーカー保証ないし

修理受け付けないし

ほ~んと貧乏人が買うステイタス時計である。

みなさん、「恥」を手首に巻いているようなものなので買わない方がいいですよ。

余計なお世話か。


次に向ったのが、倉庫型会員制総合小売店の「クスクス」。

倉庫型なので毎度毎度いちいちデケえ……。

ほんとデカい。

断崖絶壁。

カートもデケえ。

女性にはキツイんだここのせどりは。

台車がいるよ、ホント。

真面目に全頭ぜんとうやろうとしたら丸一日かかる。

しかし「クスクス」は、バーコードリーダー使用OKなので、せどらーは堂々とスマホを商品にかざして利ざやチェックをする。

せどらー大歓迎で、山のように買い占めしたら、逆に事務所に呼ばれて、優待会員になることを勧められる。

古書店など、店によってはバーコードリーダー使用NGの店もあるので、「クスクス」はヤリ放題スキ放題あばれられる。

ジャングルランキング20位に入っていたシャンプーがあった。

スマホを翳すと120円の利ざや。

50個買い占めて単純に6,000円の利益か。

悪くない。

50個か……。

カートに山積みだな。恥ずかしい。

今はできない。弟子にやらせよう。

出口に向かうと、輸入品のコーヒーが一杯100円で売っていた。

鼻をやさしくでるいい香り。

たぶん美味うまいだろうな。

でも買わない。

馬鹿げている。

持参した水道水で上等。

せどりをすると、本当に金に汚くなる。

例えば、ここでそのコーヒーを飲めば、さっきのシャンプーの利益は、6,000円から100円下がって5,900円になる。

この100円、ものすごく損をしたような精神状態に追い込まれる。

輸入モノのコーヒーを飲むことで心は潤うかもしれないが、利益にはならない。

現金と利益が総て。

だから水道の水を持参する。

その水がなくなったら平気で便所の洗面蛇口の水をガブ飲みする。

だって「水」じゃん。

日本じゃタダじゃん。

味なんて知らねえ。

タダな物に1円も出してたまるか。

これがせどらーという私の根本的な思考回路だ。

私は、その水道水を飲んで店内を見回す。

まだ駆け込み需要は始まっていないな。

長居してもしょうがないので店を出た。


夜、予約していた月に1回の女性ソープランドに行った。

一番人気の男娼の予約がやっと取れたのだ。

ウチの社長の「せどりと言うな物販と呼べ」ではないが、ここも「男娼」という呼称はNG。

絶対セラピストと呼ばなければならない。

弱い犬ほどよく吠えるというが、ホント底辺職業ほど呼び名にこだわるよなあ……。

「セラピストって柄かよバーカ」って、でも気持ちは分るけどね。

見栄張ってるよなあ。

内装、少女漫画のキラキラメルヘンワンダフルホテルみたいに仕上げてあるもんなあ……。

似非えせロココ調……。

芳香剤プンプン。

雑居ビルの男性ソープとは雲泥の差だ。

ここで私は月1回の性処理をする。

会社の女性せどらーに教えてもらった。

はじめ、利益にならないから絶対イヤだと断った。

自慰行為で充分だ。

しかし、だまされたと思って行ってくれと言われ、騙されてなくてもイヤだと屁理屈をこねたら、じゃあ金を出してやると言われたので仕方なく行った。

行ってイッた。

生まれて初めてイッた。

何だったんだ、今までのセックスは。

男は無責任で勝手だよなあ……とつくづく思った。

女を性のけ口の肉便器みたいに扱いやがって。

自分の事しか考えていない。

今までずいぶん損をしてきたなとガッカリした。

男娼は利益だ。

恋人は損失だ。

生まれて一度もイッたことがないから「こんなもんか」と思って男と付き合ってきたが、ここで初めてイッたとき、今まで本当に男性にいいように利益をむしり取られていたんだなと、怒りが込み上げてきたものである。

私はここで初めて中イキというものを経験した。

その名の通り、膣内でイクことだ。

女性はクリトリスと膣内と二つのパーツでイクことが出来るのだが、ほとんどの女性は圧倒的にクリトリスでイク。

なぜなら中イキさせる技術を持つ男性が少ないからだ。

ここは1回の利用で4万円というなかなかの値段なので、当然イケメン男娼を揃えているが、私の指名する男娼は大したツラではない。

しかし、予約でいっぱいだ。

なぜなら中イキさせるテクニックを持っている。

やはり男は顔ではない。

女を満足させてナンボだ。

私はこの男娼から90分で、クリトリスで1回、中イキで1回、計2回処理して始末する。

ソープは効率的で利益率がいいと考える。

恋愛をして無料で自分の肉体を男に提供するのかと思うと腹が立って仕方がない。

人間関係もわずらわしいしね。

男が性的に利益を得るのがイヤ。

「恋愛=付き合う」と言うのなら女性も等価交換してしかるべきだ。

だから私は恋愛はしない。

男娼を買う。

今日も気持ちよかった。

断然ピョンピョン身体が軽くなった。

イクと確実に片頭痛が消える。


セックスをすると腹が減る。

そしてセックスのあとのメシは美味うまい。

昔、子供のころ、テレビの深夜映画で古い『赤い殺意』という白黒映画がやっていて、その主人公の太ったおばさんがレイプされたあとなぜかスッキリして猫まんまを手で食べるシーンがあった。

なんだか美味うまそうだったなあ、あのシーン。

ソープのあと、なぜかこのシーンを思い出して腹が減る。

そしてB級グルメをむさぼりたくなる。

夕飯は毎日外食だ。

せどりやって唯一の贅沢。

赤貧せきひん工場作業員だった私は、夕食と睡眠だけは潤沢な時間と金を掛ける。

ゆっくり独りで夕食を食べ、ぐっすり静寂の中で眠るのが最高の幸せだと心底思っている。

今日は手羽てばカラげ店で白メシをかっ食らった。

酒は飲まない。

風呂上がりに取ってある。

鶏のアミノ酸の甘い油が絶妙に美味うまい。

歯と唇にとまとわりつくのが小気味いい。

胡椒とレモンの香りがからっぱく混ざってツンと鼻を突いて唾液が一気に出る。

独りで好きなものを好きな時間に食えるのって最高の贅沢だよな。

人間がいないのがいい。

独りってのが幸せだよ。

雑踏の中の孤独。

これがたまらなく好きだ。

喧噪に独り包まれると自分が生きていることを実感する……。

もう外は暗い。

会計を済ませてスーパーに寄る。

明日の朝食を買わなければ。

コンビニでは買わない。

味はコンビニの方が圧倒的に美味うまいのだが、原価率を考えるとぼったくりである。

完全定価で一切せどりで利益が出ないコンビニでの買い物は高額すぎる。

せどりで1円が死活問題になってくると、とてもコンビニで買い物は出来ない。

夕食以外では、なるべく定価の買い物はしたくない。

丸の内のOLとかホントよくコンビニで昼食を買っているが、騙されているなあ……とつくづく哀れになる。

私は24時間スーパーで朝食のパンとヨーグルト、そして晩酌の当てであるピスタチオを買って家路についた。


家に帰るとまずシャワーを浴びる。

自分も含めてせどらーは死のオーラをまとっているような気がしてならない。

だから、真っ先にシャワーを浴びてガラリと気分転換したい。

今日は風俗行って汚ねえしな。

もう業界にもとっくに慣れたし、会社も清潔なので単なる気のせいなのだが、でも何だかけがれているような気がして、どうしてもシャワーを浴びたくなる。

特別ゴシゴシ石鹸でこするような入浴ではないが、あくまでも精神的な儀式というような感覚である。

風呂から出ると必ずストレッチをする。

風呂上がりの血行がいい瞬間にやらなければ意味がない。

せどりは身体が資本。

基本である店舗せどりが出来なくなったら、もう、せどらーとして老衰ということになる。

だから、今は管理職的な立ち位置にいるけど、いつでも原点である店舗せどりだけは出来るように準備はしておこうと思う。

風呂上がりのストレッチは効果的な身体のメンテナンスだ。

大金はたいて高級ジムに週1かようより、毎日風呂上がりにストレッチをした方が確実に身体にはいい。

工場作業員時代に教わった。

工場作業は、終業すると、身体がびた歯車のように動かなくなる。

これをストレッチせずに日々放置しておくと、たちまち身体は岩のように固まって血流が悪くなり視界がぼやけて卒倒する。

若いうちは睡眠でカバー出来るが、30を超えると暴飲暴食でしか補えなくなり、血糖値とコレステロールの蓄積で自己破滅する。

これを同僚から聞いて、必死で風呂上がりのストレッチをした。

私が3年間、奴隷工場作業を続けてこられたのはこのストレッチのおかげだ。

これだけはどんなに遅くに帰宅してもやる。

そしてこのあと至福の晩酌だ。


風呂上がりに酒を飲む時間があるのって本当にすごい贅沢だ。

独りガッツポーズを取ってニヤける。

工場作業員時代は、風呂から上がったら脳が強制的に身体を気絶させていた。

夕食を抜いてでも睡眠を取らないと、とても持たない。

最悪、摂食は朝でもいい。

とにかく1秒でも多く寝なければ現場で倒れる。

それくらい工場作業は厳しい。

ボロ雑巾とはよく言ったもので、本当に、新品の雑巾が、使い倒してボロく色あせてどんどん穴が開いていくようだった。

トラウマ……。

でもその最悪の思い出をさかなに、今、こうして酒を飲む状況が嬉しくてたまらない。

そろそろ深夜組とシフトチェンジしている時間帯だな。

まだ働いているのか奴隷どもは。

夜まで働くなんて間抜けだ。

私は、夜、一切仕事を入れない。

携帯も出ない。

この個人的なたのしみだけは絶対に奪われたくない。

高級時計もブランドバッグも要らない。

自由に使える時間と穏やかな精神状態だけが欲しい。

まあ、根っからの貧乏性なんだろう。

だから、ライフラインとしての水道光熱費を、何の気兼ねもなく使用できるのが信じられない。

水道代を気にせずシャワーを浴びられるなんて天国だ。

電気代を気にせずクーラーをけられるなんてもはや貴族だよ。

水道光熱費を気にせず暮らせるのは幸せの頂点だ。

せどりやって幸福を肌で実感できたのは何よりもこのことだ。

本当にそう思う。


クーラーを点けたままベッドに入った。

今日も一日が終わった。

眠れる、しかもぐっすりだ。

最高だ!。

外を眺めると煌々こうこうとしたい月だ。

今日、ソープ行ったのでメチャクチャ身体からだが軽い。

目のチカチカもない。

身体がマットにぐにゃりと沈む。

最高だ。

工場のクソどもよ、働くがいい。

他人のために働くなんて愚かだ。

馬鹿としか言いようがない。

私は全世界のクソ労働者どもに叫びたい。

他人のために働くな!。

そして人間どもよ、みんな地獄に堕ちろ!。

クーラーをタイマー設定して寝落ちした。

(つづく)

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