第2話:ブチまけ!昼:女子アナ・大企業OL・2世タレント、全員地獄に落ちろ!

ランチに出た。何でもいい。

スーパーのおにぎりを公園で食べるのもいいし

小汚いラーメン屋に入るのもいいし

とにかく人間が嫌いなので、メシぐらい独りで食いたくて外に出る。

インスタ映えのカフェでランチなど微塵も思わない。

だって不味まずいじゃん。

よく冷静になって味わってほしい、どう考えても不味い。

そんなに「勝ち組の証」としてインスタに上げたいか?。

それは利益ではない。

人間は食って寝るしかないんだよ。

だったら本当に美味うまいものを食べ、質のいい睡眠を取るべきだ。

くっそ暑い不快指数100の路面カフェで汗ダラダラ流しながらよく熱々の紅茶などすすれるなあ、と哀れに思う。

私は立ち食いそば屋に入って天ざるを頼んだ。

独りで食事が出来るなんて夢のようだ。

工場作業員のときはカビと羽虫はむしと陰口と卑屈人間でいっぱいの休憩所だった。

「早く死ねと心の底から思っている人間」と一緒に食うメシほど不味いものはない。

それを考えると、低賃金のバイトの兄ちゃんが作ったざるそばが三ツ星フレンチに思える。

実際、東京の立ち食いはレベルが高い。

隣のサラリーマンが掛けうどんを掻き込んでいるので更に美味うまくなる。

「独り」って本当に素晴らしい。

人間って本当に不必要な生き物だ。

美味いものをただ美味く味わうのが贅沢ではない。

美味いものを、時間を気にせず自分のペースで食べられるのが最高の贅沢だ。

工場のどろ作業員どもよ、今、何食ってるんだい?。

大嫌いな工場長はそこにいるのかい?。

せめてこの言葉を贈るよ。

FUCK!。


午後から顧問税理士との打ち合わせ。

せどりは、一定の利益と労働時間を超過すると、個人事業主と見なされ、確定申告の対象となり、所得税を納めなければならない。

1年目、これを知らずに無申告にしていたら、社長から忠告を受け、税務署に問い合わせてみると、しっかり追徴課税を取られた。

なので2年目から税理士と契約して、さらに外注を始めてからは社会保険労務の仕事もさせている。

税理士と契約するさい、社会保険労務の業務が出来る税理士を探した。

社会保険労務士を雇っていたのでは二重払いだし、

本来なら雇用主の私がやるべきところだが、

ポンコツ元工場作業員の私がそんなもの分かるわけがないし、

そんなこと出来る時間もない。

なので、ネットで必死に社会保険労務士の資格を持つ税理士を探して契約した。

少し高くついたが、社会保険労務士を雇うよりは割安で、時間と手間を考えると、これは明らかに利益だ。

毎月、仕入・売上・経費の金の出入りの帳簿をチェックしてもらい、節税対策などあれば指導してもらう。

逆に経費で落ちないものは、税務署にツッコまれる前に除外してもらう。

事務作業、めんどくせえ……。

ハナクソ元工場作業員にとっては特にそうだ。

部品の組み立てしかやったことがないのだから、税金や雇用保険や労災の確定申告など、こんなもの分かるはずがない。

月1回の打ち合わせ、うんざりする。

こんなインチキせどらーの顧問をやるなんてどういう気持ちがしているんだろう?。

今、士業しぎょうは飽和状態なのだそうだ。

クライアントを取るのに必死なんだろうな。

立派なカノニコのテカりのあるスーツを着て、きちんと敬語を使う。

こんなバカ女に。

「しのぎ」ってどこの世界も大変だな。

泣ける……。


14時からセミナー。

「せどりセミナー」。

何だそれ、詐欺の匂いプンプンじゃないか。

だから「起業セミナー」とのたまう。

今日は30人。

どんどん増えていく。

完全にバブルだ。

原則1人1回で30万。

だから単純計算で900万。

これを月2回やればまたまた単純計算で、年間2億1千6百万円。

ボロい、

と言うよりもはや恐い。

みんな楽して稼ぎたいと、集まってるんだろうな。

教壇に立つと、飢えたみすぼらしい瞳の人間が、「もう人生詰んだ」という死相しそう丸出しで、解体される前の家畜のようにうなだれている。

そんなクズ人間の前で、まず私は、ブラウスのそでをまくらなければならない。

ロレックスを見せびらかすためだ。

これは社長から絶対やるように強く命令されている。

ロレックスを露出させると一気に受講生の背筋が伸びるのが一瞬にして把握できる。

バカだな人間なんて。

私は必死に嘲笑をこらえながら授業を進める。


授業内容は、ほとんど仕入専用アプリの使い方。

このアプリは専門知識が絶対に必要で、セミナーに来ないと分からないし、これを学ぶために30万円払うのは妥当だと私は思っている。

私も、このアプリの具体的な使い方を知っていなければせどりなどしていないし、利益は絶対に出せない。

それくらい重要なアプリで、受講生は目から鱗を落として笑顔で帰っていく。

ここまではね。

そこから先、はたしてその笑顔が続いているのかどうかは知ったことではない。

実は、このアプリで理論上、利益を取ることは可能なのだが、それだけでは食っていけるまでには当然ならない。

その先には果てしない裏ワザや裏知識が、門外不出の名店の秘技のように隠されている。

しかし、それは絶対にセミナーでは教えない。

当然だ。

ライバルを増やすなどという、自分で自分の首を絞めるようなことはしない。

あくまでも、基礎知識だけ。

「あとは自分の才覚で生きていってね」ということ。

そりゃそうだ。これを全国民に教えると、誰もバカらしくてサラリーマンなんてやってられないだろう。

だから教えない。

噂を聞くと、どうも、どこのセミナーも、やはりこのアプリの操作方法だけを教えているらしい。

所詮、せどりとは、法律スレスレの社会不適合者の集まりだし、そのやからで構築されたインチキ業種だ。

合法的なら、どんな奴からでも、金は搾れなくなるまでむさぼり取る。

せどりバブル。

セミナー事業は今やドル箱だ。

余った講義時間は、マインド論と自己啓発のお説教。

これでごまかしておしまい。

ちょろいもんだよ。


さて、その講義であるが、

毎度毎度、受講生の風貌にはうんざりする。

ウチのセミナーだけだろうか?、

よくこれだけ冴えない人相の人間が毎回毎回集まってくるな、といつも嘲笑して感心する。

みんな不細工だよなあ……。

しみじみ思う……。

美男美女いない!。

ホントそうッ!。

人類じゃないような、さもしい顔をした人間ばかり。

見るにたえない。

具体的に、男は一重瞼ひとえまぶたが多い。

かなりの確率で一重瞼だ。

そして三白眼さんぱくがん

一重で三白眼だと朝鮮系の顔を思い浮かべるが、ああいう切れ長の目ではない。

べろ~んと酔っ払ったように覇気がなく、とろけ落ち、とろ~んと瞳が上に浮かんだ変質者のような目である。

受講生に限らず、私の見る限り、せどらーでこの目をしている男性は多い。

何を隠そうウチの社長もこの目をしている。

ゼニアのスーツを着てパテックフィリップの時計をしていようが、どう見てもいかがわしい人相である。

ヤクザでもないチンピラでもない、せどらー特有の目だ。

私はセミナーでこの目を見るたび「せどらー目」が出た!、とげんなりする。

そして服装もひどい。

ディスカウントショップで購入した偽物のブランドTシャツを堂々と着ている。

ジョークやシャレでなく真面目に着ているから怖い。

ヨレヨレのカビの色が掛かったようなジーパンに、どぶ色に腐ったスニーカー。

不潔という言葉を物体化したような人間ばかりだ。

女も負けていない。

これもウチだけか、みんな昆虫みたいな顔をしている。

目がピョンと極端に小さくツンと吊り上がっていて、そして目と目の間が極端に離れているカマキリみたいな顔をしている。

この目が多い。

だから、ウチのセミナー出身のせどらー女子で、ある程度利益が取れるようになったら目を整形する人は多い。

会社にも目を整形した女がたくさんいる。

昨日も、店舗で商品にスマホをかざしているせどらー女を見たら不自然な目をしていた。

異常にクッキリした二重ふたえ

ゆがんで横広がりしている眼幅めはば

黒ずんでいる泪袋

不規則に食い込んだ目尻と目頭。

どう考えても整形しているとしか思えない目だ。

よほどのコンプレックスだったんだろうな……。

実際、カミングアウトしている人間もいる。

それで本人の気が晴れるならまあいいが……。

髪の毛もパッサパサ。

染めてもいないし、臭いもクサい。

掃除していないゴミアパートみたいな風貌である。

「冴えない」とは違う「みすぼらしい」とも違う。

あえて言うなら「さもしい」という顔面だ。

講義しながらこれを見ると、私もさすがに、化粧にも利益があるかもしれない、と気持ちが揺らぐ。

ウチのセミナーでは、こういう似通った人相の人間ばかりが集まる。

経歴は圧倒的に高校中退が多い。

行っても短大卒が関の山。

社会に出て何をやっても長続きしなかった連中。

職を転々と渡り歩く。

渡りに渡り歩いて、どこにも適応できなくて、最後にウチのセミナーにたどり着く。

事前に送られてきた履歴書を見ると、前職にホワイトカラーがいない。

私のような元工場作業員が、男女問わず、ものすごく多い。

ほとんど肉体労働系……。

左官屋

パチンコ店員

清掃員

レンタルビデオ屋の店員

マルチ商法

FX失敗者

キャバクラ嬢

エステティシャン

そしてニート……。

あと意外なのが、

学校教師

女性看護師

経理事務員など、いわゆる女の職場の人。

そう、みんなほぼ100%組織の人間関係に適応できない組織不適合者で、

「ぜったい人と関わりたくない」

という人間がれなく集まってくる。

かく言う私も人間が嫌い。

だから、彼らが組織を捨ててここにたどり着いた苦しみはよく理解できる。

しかし、こうも人嫌いが集まると、「死相」や「甲斐性の無さ」など、いわゆる「生命力を否定する負のオーラ」で教室内の空気が真っ黒い曇天になる。

何なんだろうな……。

セミナー終了後の懇親会で、みんな、示し合わせたかのように「人が嫌い」と声を合わせて言う。

気持ちは分かるが、いい大人が、集まって口に出して声高々こえたかだかに言うもんじゃないよ。

できればその「否定の力」を、利益追求の闘志として胸に秘めていてほしい。

淋しすぎる。

できればこれっきりで付き合いたくない。

成れの果てだ。

今日も、そんな底辺人間たちを私は笑顔で見送る。

今日も死の臭いのセミナーが終わった。

どっと疲れる……。


昼下がり、次はユーチューブの撮影。

会社の広告塔は忙しい。

今日のお題は「モテない男性」についてのガールズトーク。

どこがせどらーのユーチューブなの?、と疑いたくなるが、これがウチの社長の方針。

せどりの「裏ワザ動画」などは、薄汚い男性せどらーが散々アップしている。

私のユーチューブは、セミナーの勧誘目的で制作されているもので、

「せどりをしたらこんなにキラキラな、金に苦労しない生活が送れますよ」

というPR的な内容になっている。

だから私のユーチューブに出演させるせどらーはなるべく人相のいい人間を選んでいる。

会社にいるほとんどのせどらーはとても表に出せる顔面ではない。

街を歩けば間違いなく職質される人相である。

物販ぶっぱんをするとこんなに輝いた生活が待っているので、ぜひ当社のセミナーに参加して下さい」というわけだ。

社長は、セミナーを最重要の収入源と位置づけている。

だから、その宣伝であるユーチューブにはかなりの力を注いでいる。

私のメイクも衣装もプロの業者を揃えているし、撮影も編集も自前の部署を作って製作している。

一人でも多くのカモを掴みたいし、一銭でも多く効率的に受講料を得たい考えのようだ。

商魂たくましい。

さて、ガールズトークねえ……。

仲良く喋るが、自分以外のせどらーはみんな敵。

内心くたばっちまえと思っている。

今日も見てくれのよさそうな女3人を選んで男について語った。

着飾って塗りたくって愛想笑い振りまくって、まるでアイドルのプロモーションビデオみたいに立派に詐欺している。

そこで「モテない男とは?」と議論する。

「優柔不断」

「自身がない」

「言い訳する」

「行動に移さない」

「コミュ障」

などと、上から目線で、エラそうに男をさかなにして盛り上がった。

うだつの上がらない女が観たら「自分も早くあの位置に行きたい」と思うだろうな。

それで30万円払ってセミナーに参加すれば社長の思うつぼ。

消費は女性。

社長はとにかく私に女子ウケする動画を量産させた。

それが当たって、チャンネル登録者数は3万を超え、セミナー参加者、特に女性の参加者が増えに増えた。

おまけに広告費も入ってくる。

「情報発信」も利益が取れる時代と言うわけか……。

ユーチューブで私は顔を出した。

昔の工場関係者が一人でも多くこの動画を見て本気で嫉妬で狂ってほしいと切に願ったから顔を出した。

私の見る限り、この、「顔出しせどらーユーチューバー」はけっこう多い。

よく、株式投資家ユーチューバーと比較されるが、

投資家ユーチューバーが顔出しNGなのに対して、

せどらーユーチューバーは圧倒的に顔をさらしている。

たぶん、というより絶対、自己顕示欲と承認欲求だろうな。

どうせロクな人生送ってこなかったんだろう。

自分自身の過去への恨みだ。

一緒にされたくないが、残念ながら同じ穴のムジナだ。

やれやれとなる。

撮影が終わると、あとはスタッフに編集を任せて、仕上がりのチェックを後日待つだけ。

ユーチューブはここまで。


まだまだ仕事は続く。

お次はブログ。

ブログはオワコンと言われて久しいが、セミナー勧誘のためなら何でもやる。

しかし、IQが幼稚園児並みの元工場作業員の私にまともな文章が書けるわけがない。

これは事務員に任せて原稿のチェックだけをする。

もう、チェックも出来ないくらい、私には文章は分からない。

とにかく私の個人情報が書かれていないことだけをチェックする。

あとはセミナーの宣伝内容として、講義の日程やキャパシティーなどを正確に伝えて終わらす。

ブログは感覚ではなく、あくまでも理屈なのでサル並みの頭脳の私は降参。

これだけはスタッフに丸投げ。

文章……。

私のアキレス腱だなあ……。

でも、これも広告収入が入るんだよな。

ホントにボロい。


この辺でやっと夕方のひと時。

再び朝と同じく、午後の情報収集をする。

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ユーチューブ

倒産情報

ジャングルのヒットランキング

そして最後に一応経済新聞もチェックしてみた。

これだけ液晶画面を眺め続けると、目が充血して頭がカチカチ痛い。

精査すると、倒産などの身近で大きな動きはない。

中東とロシアがケンカして石油が下がるかもしれない、あとは10月の消費税増税でGDPが落ち込むかもしれないという情報ぐらい。

難しいなあ……。

こんな時に株式市場のニュースが読めればなあと、いつも地団駄じたんだ踏む。

株やってる人間は、我々落ちこぼれ人間の集合体「せどらー」より、遥か先の情報をたくさん知っている。

株さえできる頭があればといつも惨めになる。

消費税……。

今年の10月、確実に上がる。

その時、この国はどうなるんだろう……?。

カウントダウンは始まっている。

会社の業務も終わったし、久しぶりに私は店舗に行ってみることにした。

(つづく)


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