転売ヤー女の生態@「日本死ね」?。甘いって、「人類死ね」だろ!

武田優菜

第1話:ブチまけ!朝:これがシノギ。どうよ?、あたしのこと乞食って言え!

毎朝、化粧をするたびに損をしたように思える。

「君みたいな美人は特にしていろ」

と、社長に命令されて嫌々やっている。

「せどり」を始めて化粧をするようになった。

以前の工場作業員のときは毎日スッピンだった。

それでよかった。むしろスッピンでないと成り立たない業務だった。

しかし、今では、セミナーで教壇に立たなければならないし、ユーチューブも撮らなければならないので、仕方なくやっている。

やらざるを得ない。

化粧……、バカバカしい。

利益が取れない。

我々、せどりをする者「せどらー」は引き算がすべて。

小売店から仕入れて、国内最大のネットショッピングサイト「ジャングル」で転売して、そこで利ざやが出なければ、もはや生きている価値はない。

1円でも利益が出れば勝ち。

値下がりして不良在庫にしたり、損切りしてマイナスで売ったりしたら負け。

1円でも「勝ち」、マイナス1円でも「負け」。

すべては利益のため。

それがせどりだ。

だから化粧などという非営利目的の作業に対して私は理解に苦しむ。


「せどり」と言うと社長に叱られる。

「せどりと言うな物販ぶっぱんと呼べ」。

これが社長の口癖だ。

「せどり」とは卑下用語で、女性せどらーはあまり使いたがらないが、私は開き直って堂々と使っている。

なぜなら、実際、私は、意地汚い商売をしていると思っている。

「せどらー」、要は転売屋である。

語源は諸説あるが、古書店用語で、本の内容や価値には目もくれず、背表紙のタイトルだけで儲かるか儲からないかを判断して仕入(取っていく)、背を取る、つまり「背取せどり」から来ているというのが通説。

そう、私にとって商品知識などはどうでもよく、利ざやがあるか無いかが総てだ。

ある年のある一瞬、なぜかある出版社の『経済学・哲学草稿』という本がトレンドに入ってプレミアム価格(プレ)を付けたが、本の内容に関係なく、神保町の古書店をあさりまくって高値で転売して利益を取った。

実際に『経済学・哲学草稿』が必要な人にとっては迷惑極まりない話だが、その需要と供給の弱みに付け込むのが、私、せどらーだ。

実に意地汚い。

しかし私は現にこれで食って納税している。

働かないあるいは生産活動をしない人間に対する堂々たる経済的自立と思っている。

だから私は自分自身を厚顔無恥で「せどらー」と呼ぶ。

社長は、自分の主催する「せどらー育成のためのセミナー」のイメージが落ちるという理由で、社員、特に女性、さらに特に私のような広告塔である美人には「せどらー」という言葉を使わせない。

イメージの失墜か……。自分で自分を恥ずかしいものと認めているわけだ。

そんな言葉だ「せどり」とは。


私の印象で、せどらーの同義語を良いイメージ順で並べると、

「フリーランス」→

「ビジネス」→

「物販」

ここまでが良いイメージ、

以下は見たまま、

「せどり」→

「転売」→

「転売ヤー」→

「買い占め屋」→

「ハイエナ」→

「乞食」となる。

「フリーランス」とは何ぞや?と思うが、ユーチューブで着飾ってガールズトークしている私の知り合いのせどらー女子は、自分たちのことを「フリーランス」などと、聞いているこちらが恥ずかしくなるような物言いで着飾る。

さもしいとしか言いようがない。

やっていることは単なる消費者の需要に付け込んだ転売である。

身の程を知れと言いたい。

聞く耳持たないだろうな。

2019年においてせどりは今バブル状態だ。

政府が働き方改革で副業を解禁して新規参入者が後を絶たない。

ライバル多し。

今日もハイエナがハイエナをとす転売業務が始まる。


午前5時起床。

せどらーの朝は早い。午前中の情報収集でその一日が決まる。

起きるとまず携帯でメール、ラインのチェック。

メールは主に会社とせどらー仲間から。

会社からはほとんど社長で、セミナーに関すること。

受講者数とかキャンセル状況、あとは講義内容の変更だとかユーチューブのプロットだとか、ほぼ社内業務。

せどらー仲間からはトレンド情報。

「いま、3年前の戦隊モノのトレーディングカードが熱い」だとか

「新しいゲーム機が発売されそうだ」とか

「あの幼児用玩具は値崩れしている」とかそういった商品情報がくる。

せどらーは個人主義・実力主義で縦社会の人間関係が無いので、この横のつながり・情報網が重要になってくる。

みんなライバルだからどこまで信用していいのか微妙なのだが、とりあえずこの横の関係は小気味いい。

工場作業員時代、縦社会の何の生産性もない非合理的で理不尽な人間関係に苦しめられてきたので、「信じるも自由・信じないのも自由」という自己責任による横のつながりはフレキシブルで面倒くさくなくていい。

ラインはいわゆる企業がやる公式ライン、会社がアカウントを取った私のラインだ。

これは、私のユーチューブを見てせどりに興味を持った視聴者が、具体的なせどりの手法について質問してくる場で、セミナー受講希望者の釣り場だ。

必死な質問に寸止めの回答を渡して、

「詳しくはセミナーを受講して学びませんか?」

とカモを釣っていく手法。

私のように、会社の広告塔になってユーチューブをやっているせどらーは、動画に公式ラインのアドレスを張り付けてをしているので、カモがどんどん引き寄せられてくる仕組みだ。

だから、夕方から夜中に届いた質問に詐欺師的な発想で会話を積み重ね、最終的にセミナーを受講するように誘導する。

しつこい変質的な石橋を叩きすぎる質問は放置。

こういう人間は、セミナーに来てもクレームを付けるばかりで、何をやっても成功しない。だから、初めから無視している。

食いつきの良い質問者だけに真面目に答える。

真面目に答えないと見透かされてセミナーに来ないので、結構疲れる。

起床時の携帯チェックはこのくらい。

次にテレビ。

テレビは基本つけっぱなし。

実は、現状、テレビから最新の情報を得ることはできない。

ネットの方が圧倒的に速い。

しかし、国民に与える影響力・インパクトにおいてテレビに勝てるものは残念ながら無い。

プレ、トレンド、ランキングを決定づけるのはほぼテレビだ。

圧倒的に強い。

ある人気アイドルがテレビで「父親の影響でジミヘンが好き」などと発言すれば、翌日にはジミヘンの中古レコードは跳ね上がり、ジミヘンが使っていたギターと同じ型のギターがプレミア化する。

このインパクトを考えると、情報ツールとしてのテレビはとっくに終わったコンテンツであるが、急進的なトレンドを作る機能としてのテレビは決して捨ててはおけない。

だから受信料覚悟で仕方なくオワコンのテレビを置いている。

そのテレビを見ながらパンを食べ、経済新聞を読む。

最低偏差値の普通高校そつで工場作業員の私には内容などさっぱり分からない。

目的はチラシだ。

現在進行形で物価の動向を知るには新聞に挟まれたチラシほど正確なものは無い。

しかも、食料品・電化製品から不動産やアルバイトの時給まで、すべての物価を網羅しているこれほどの情報源はない。

私の知るせどらーは識字に弱い者が多く、ほとんどは新聞を取っていないが、私は社長に勧められて仕方なく取った。

社長は「経済状況を知れ」としつこく社員に言っているが、私は実はチラシ目的で取っている。

これはせどらー仲間にも言っていない。

でも、意外とみんな知っているかもね。


さて次は私の嫌いな朝の身支度である。

今日はセミナーとユーチューブの撮影があるので割としっかりめに化粧した。

と言っても、すべて百均の化粧品である。

先述のとおり、化粧に利益を見出せない私にはこれで充分。

安い発色だし安いグラデーションである。

それでも美人だと周りから言われるので、この天然の顔面をフルに利用して安い化粧品でムダがねを省く。

どうせこの顔面で生まれ落ちたんだから使わなければ損である。

今では、足の速い人間が陸上をやるのと同じだと割り切って化粧をしている。

お次に服装であるが、私はファストファッションを絶対に着ない。

服装は、よろいとして、ある程度の品質のものを着ている。

なぜなら、せどりというのは、小売店なら、下は腐ったリサイクル屋から、上は気取った高級デパートまで、すべての小売店に行かなければならない。

その気取った高級デパートで商品の知識が知りたいとき、身だしなみが悪いと店員が接客しないのである。

これが困るので服装だけはわざわざ恥ずかしくないものを選んで着用する。

と言ってもアウトレットだけどね。

でも、あくまでも新品。古着ではない。

そして時計。

なんとロレックス。しかもメンズ。バカである。

この2019年時点でロレックスを買うのは間抜けだ。

ロレックスはもはや投資の対象になっていて、時計本来の存在価値は消滅しきっている。

きん」や「株」のように、価格が上昇して限界まで値上がったときに売りさばく、完全な投資対象の物体である。

そしてせどり業界では成り金時計の代名詞だ。テレビで見せびらかす芸能人が悪い。

とにかく、今現在、下品な時計の代表格なので本来なら着けたくなかったのだが、

「セミナーで受講生に『成功者の証』として自己顕示しろ」

との社長の命令で仕方なく買った。

しかし、効果は絶大で、私がホワイトボードを指すたびにみんなどよめいて私の左手首のロレックスエクスプローラーⅠにため息をつく。

牛肉の看板で犬の肉を売るってか……、そんなもんである人間なんて。

「普段時計」としてロレックスを着けたくなかったので、悔しまぎれにIWCとオメガを買った。

馬鹿げてはいたが、せどりを始めて唯一の私の意地である。


午前8時、家を出た。

都心の事務所までマイカー通勤である。

車種はスズキエブリイの黒。

せどりは荷台が命。実益目的で買った。見た目など関係ないね。

電車せどらーは絶対利益が出ない。

3年前まで落ちていたパンを食っていた工場作業員のこの私が、25歳で都内をマイカー通勤する。

それだけで痛快だ。

私を虫けらのようにあごで使った工場長に衷心よりFUCKと言いたい。

私の個人事務所は会社の一室を借りている。

会社のイメージガールとして広報活動を行う身動きの取れない私に、社長が一室提供してくれた。

会社は、東京のオシャレ街の中にある雑居ビルのツーフロアを貸し切って、事務所とセミナー教室と、そして弟子のせどらーの合宿施設を兼ね備えたオフィスになっている。

3年前、私が弟子入りしたときは、北関東の貧困街のインチキしゅうプンプンの土の中に埋もれていたっ立て小屋だったのに、今や、せどりバブルの波に乗って天下の大東京のド真ん中の鉄筋コンクリートである。

しかも宣伝素材としてユーチューブの撮影場所に使うため、デザイナーに頼んでかなり完成度の高い清潔で洗練されたオフィスになっている。

すべて目に優しく精神的な安心感を与えるパステルカラーで統一されていて、セミナーの受講参加に迷っているユーチューブ視聴者には取っつきやすく、こちらとしても引き込みやすい構造になっている。

この事務所を完成させて私がユーチューブに出るようになって、セミナー受講生は10倍にふくれ上がった。

「企業が上場して社会的信用を勝ち得るのと一緒だよ」

と社長はよく軽い口調で言っているが、クソ偏差値の私には解からない。

また、それを理解する期待もされていないしね。


ドアを開けると、さっそく私の弟子が最大ネットショッピングサイト「ジャングル」でせどりを始めていた。

実はもう私は自分の手と足を使ってせどりをしていない。

すべて外注にして指示を出すだけにする管理職的な役回りをしている。

月の利益がコンスタントに100万を超えるようになって、3人の若いITリテラシーの高いせどり修行中の男の子を安く使って作業をしている。

会社の広報活動やセミナーが急増したので、こざっぱりと外注にした。

その方が利益がデカいし、結果、売上も3倍に伸び上がった。

初心者はだませば上手く働く。

こんな底辺工場作業員がりに使われるのは屈辱くつじょくだろうなあ。

笑いが止まらん。

人は使う者と使われる者に分かれる。

工場の管理職の奴らに見せびらかしてやりたい。

さんざん私に残飯ざんぱんくわせてたオッサンたちに。

そんな今や管理職の私が、朝、事務所に来てまずやることは、ツイッターのチェック。


①まずツイッター。

絶対ツイッター。

なぜなら情報が世界で一番速い。

商品に関するトレンド動向もそうだが、やはりジャングルに関する最新の情報を知りたい。

世界最大のネットショッピングサイト・ジャングルは規約の嵐である。

そしてその膨大な規約は頻繁にそして突然変更される。

その変更点を知らずに出品するとペナルティーでアカウント停止、早い話が商品の出品停止を食らってしまう。

ジャングルはせどらーの土俵・球場・競技場である。

これを奪われては事実上の廃業。

この事態は何としてでも避けなければならない。

売る場所がなくなれば仕入代金はそのまま赤字だし、何よりも株と違って仕入れ商品(物体)が不良在庫として事務所に放置されてしまう。

いい歳した大人の女が何のために少年野球マンガ全48巻セット本を読むのか、という話である。

ジャングルの新規約は絶対にリアルタイムで手にしておかなければならない。

知らなかったでは済まないのがせどりの大前提。

もともと汚い商売なので、汚いことをされても文句は言えないのである。

情報弱者はせどらーにはなれないし、せどりとは情報合戦で、スピード勝負である。

だから世界一情報が早いツイッターをまずチェックする。


②次に大手検索サイトのリアルタイム検索。

これもツイッターとほとんど似た情報収集作業であるが、ツイッターをフォローしていない人からの情報が多いので自分の知らない商品動向などをチェックすることが出来る。

ジャングルの売上ランキング1位になったゲームソフトがなぜ1位になったかを知りたい場合、リアルタイム検索で調べると大抵判明する。

昨日テレビで芸能人が発言していたとか、

ハリウッド映画のワンシーンに映っていたなど、

なぜその商品が売れているかの理由が分かり、今後の商品動向を追うのに適している。


③次に見るのがメールマガジン、略してメルマガ。

これは発信者と契約をして情報を買う収集の仕方だが、ここからは、せどりの仕入情報や出品情報の新しいテクニックを買う。

せどりは裏ワザの巣みたいなところがあって、

「どうやったら1円でも安く送料を減らせるか」とか、

「どうやったら1円でも高く販売価格を設定できるのか」などの具体的な方法を日々更新していく作業になっていく。


④そして次が、まとめサイト。

まとめサイトとは、ネット上の掲示板に書き込みされる星の数ほどある書き込みから、有益な発言だけをサイト管理者が抽出してくれる夢のような便利なサイトだ。

ハッキリ言って大手新聞社をはるかに超える有益な情報が得られるときがある。

「記者クラブに入っていないため言論が自由だから」だとか、

「個人が海外のニュースをちょくで翻訳しているから」だとかいう理屈らしいが、その辺は私には分からない。

とにかく世界情勢がリアルタイムで分かって役に立つ。

北極はとっくにけていてその航路をめぐってきな臭い覇権争いが世界で繰り広げられている、なんて情報、まとめサイトで初めて知った。

私みたいな低脳人間には、自分の生活に密着した世界経済の動きはまとめサイトで充分である。


⑤そしてお次が、ユーチューブ。

競合者であるせどらーユーチューバーの動画をチェックする。

ここは情報収集と言うより、演者としての語り方とか撮影法、あるいは編集の仕方などを参考にする。

表現が古いと誰も視聴しないので、動画表現のトレンドを追うことになる。

まあ、それと同業者の愚痴を聞いて、せどり業界全体の変化や業界ニュースを知るのに役に立つかなあ……。


⑥そして最後のチェックが、信用調査会社の倒産情報。

倒産はせどらーの生き血である。

もしディスカウントストアの経営危機の情報が入ったら、その企業は確実に在庫処分セールをやるので、せどらーには仕入の大チャンスとなる。

情報が入ったら、1時間後には、もうその店舗は、死骸しがいに群がる蟻のようにせどらーであふれかえっている。

他人の倒産ほど美味うまいものはない。

蜜の味である。

あれだけダンピングしてくれると、せどらーは確実に利益を掴める。

美味おいしい。

このサイトを毎日チェックして、せどらーは新しい倒産を狙っているわけだ。


午前中の総ての情報チェックが終わって、ようやく弟子との会話に移れる(何故かせどり業界では「師匠と弟子」と呼ぶ)。

まずはパソコンに向かっている電脳でんのうくん。

電脳とは、せどりの一種のことで、究極の進化系といえる。

一般的な店舗せどりとは真逆で、小売店に仕入に行かない。

すべての取引をネット上で完結してしまう新しい形のせどりだ。

具体的に、オークションサイトやフリーマーケットサイトから、中古や新品の商品を購入して、それをそのままネット経由でジャングルに出品する。

さらにジャングルの倉庫に、梱包・発想も委託すれば、ほとんど汗もかかず手も足も使わずに、パソコンで商品を移動させるだけで商売が完結し、利益が取れてしまう。

西から東へ県をまたいで店舗の商品を両手背中に背負い込んで汗ダラダラになりながら梱包して発送していた初期型のせどりから考えると、ついに行きつくところまで行ったなという、究極のせどりの形態と言える。

店舗に行って乞食みたいに物品をあさりたくない女性せどらーがこの電脳をよくやる。

しかし、電脳は、お宝品が少なく、利ざやも薄いので、一発大逆転の大儲けというわけにはいかない。

パチプロやデイトレーダーのように、日銭をコツコツ稼いで生活費を得るというような、会社勤めのようなせどりになってしまう。

とにかく、ジャングルの画面内に隠された「裏ツール」を、「裏テクニック」を駆使して淡々と転売を繰り返していく、極めて瞬発力の低いせどりと言える。

これを更に発展させたのが「刈り取り」と言われるせどりで、なんと、もう、ジャングル内で仕入れてそれをジャングル内で出品してしまうという、ほとんどドーピングのような電脳せどりもある。

ここまでくると不労所得に近く、世の中の汗水たらして働く労働者を、ナメ切った口調でののしるせどらーも私の周りに多い。

そのナメ切った電脳くんから、

廃盤になってプレがついたボードゲーム、

初回限定品の少年ロボットアニメのプラモデル、

ゲーム機のコントローラーで販売台数の少なかった緑色の希少品、

の計3点の仕入で、合計8万の利益が出たとの報告を受けた。

ボロい商売だ。

ジャングルのサイトとにらめっこして引き算するだけ。

本当にボロい。

そして汚い。

その汚い笑顔で報告する電脳くんの目が気持ち悪い。

「気持ち悪い1号」だ。

しかし私はその本音とは裏腹に、電脳くんを満面の笑みで褒め称える。

どんなに人生の年齢を重ねていても新人は褒めなければ伸びない。

これはどこの業界も同じだ。

「お前も少しは店舗せどりで足を使ってこい」とは決して言わない。

使える人間はとことん使う。

灰になるまで使う。

こいつは電脳でとことん使う。

店舗せどりは、また別の気持ち悪い奴に任す。


その「気持ち悪い第2号」の、足を使った「店舗くん」が徹夜明けで帰社してきた。

店舗くんと言うだけあって、日本中の店舗を西から東、北から南へお宝を探して駆けずり回って商品を仕入れてくる。

身長185㎝のプロレスラーみたいな男で、

生ゴミみたいな身なりをしていても、化粧品屋だろうが子供用品店であろうが高級百貨店であろうが、恥も外聞もなく、なりふり構わずカートを山積みにしてハイエナのごとく商品を買い占めていく。

本当にその店舗で購入したい人のことなど一切関係ない。

ジャングルの平均価格から目の前にある商品の値札を引き算し、せどり専用アプリを使って利益が出ると確認が取れれば、他人のことなどお構いなく爆買いしていく。

今日も、全国チェーンの古本屋から超人気マンガのセット本

80年代アイドルの写真集

戦隊モノのトレーディングカード

そして倉庫型会員制総合小売店からシャンプー

ドッグフード

業務用食塩

そして激安ディスカウントストアからマッサージ器

Tシャツ

化粧品

そして大手電器店からゲーム機

腕時計

プロテイン

更にリサイクルショップから掃除機

プリンター

液晶ディスプレイ

そして最後に子供用品店から電車のおもちゃ

よだれかけ

おむつを購入。

合計で12万の利益。汗ダラダラ……。

「在庫の整理とジャングルへの出品は私がやっておくから、ゆっくり合宿所のお風呂に入っておいで」

と、とりあえずこの生ゴミを事務所から追い出す。

私も3年前こんなことやっていたなあ……。

店舗せどりは、せどりの基本で、セミナー受講生にもまず店舗せどりからさせてコツを覚えさせる。

思考停止の単純作業で、小売店に赴き、ひたすらバーコードリーダーに商品のバーコードを読み取らせ、それをスマホの仕入アプリに反映させ、利益が出ると判断したら躊躇ちゅうちょ・容赦なく爆買いで買い占める。

これを業界用語で全頭ぜんとうという。

とにかく、よそんの商品に対して狂ったようにスマホをかざしていくので、はたから見たら本当にハイエナか乞食である。

本来、買い物を楽しもうとしている一般消費者の迷惑などお構いなしで、商品をカートに山積みにして、店舗を荒らしまくって暴れていく。

その姿は本当に恥ずかしく、私はせどりを初めて1年目、このハイエナ作業が本当に嫌で、早く利益を取って外注であぐらをかきたいと思ったものである。

しかし、店舗くんは「店舗せどりが好きだ」と言う。

お宝発見という楽しさもあるが、基本、独りで動き回るので人間関係もなく、気楽でいいと言う。

私もこいつも、根っこは同じだなあ……と、少々げんなりする。

まあ、本人がそう言うのならこの乞食肉体作業はしばらく彼に任せよう。


次に事務所に現れたのが、3人目の「気持ち悪い弟子3号」プレくん。

プレ値せどりとは、今までの2人は、もうすでに売られているものを買って、それを転売するせどり。

それに対して、プレ値せどりは、まだ発売されていないこれから稀少品としてプレミアム価格が付くであろう商品を予約購入し、それをしばらく寝かせて、プレ値が付いた時点でジャングルで転売しようというせどり。

けっこう商品知識が必要とされるが、仕入アプリで、類似品の過去の売れ行きデータを調べればコツを掴むようになる。

プレミアム品は、そう頻繁に発生するものではないので、彼には他に、

大手IT企業のショッピングサイトやドラッグストアでの「購入(仕入)で付くポイント」をひたすら貯め込む「ポイントせどり」、

中国の巨大ネットショッピングサイトからバッタもんを仕入れてそれをジャングルで転売する「中国せどり」を並行してやらせている。


まあ、こんなものだ……。

以上のように、せどりは、店舗、電脳、プレと、大きく3つに分かれ、一般的な個人の一匹狼ならぬ一匹ハイエナせどらーは、このどれかに特化してせどりを行い、日々のしのぎを稼いで女房子供を食わしてどうにかこうにか生きている。

私は、修行くんたちを外注で安く使い、3種のせどりすべてを網羅しているので利益はデカい。

そして使う体力は反比例して小さい。

外注サイコー。

奴隷さまさまだ。

しかし、その分、情報収集に一日の大半を使うようになった。

これが悩ましい。

何度も言うが、私は、腐れクソ偏差値の元工場作業員である。

頭脳労働は得意ではない。

でも、この情報分析だけは外注にするわけにはいかない。

これを他人とやるようになると、当然、戦略会議を開かざるを得なくなり、途端に人間関係のどつぼにはまり込んで地獄を見てしまう。

人間関係はご勘弁。

それが嫌でせどりをやっているので、こればっかりは逃げずに、日々の膨大な情報との猛スピードの追いかけっこをしながら、どうにかこうにか働いていくしかないのである。やれやれである……。


さて、情報収集と外注員の報告が終わると、確定申告のために、毎日の

「仕入売上の収支」

「経費の精算」

「在庫の棚卸」

をエクセルに記録し、今後の活動方針を考える。

この低脳の私が活動方針。

笑う。

いや真剣な話。

とにかく、今、完全なせどりバブルで、新規参入者も多く、ジャングルの規制が厳しい。

かなりの締め付けをやっている。

その締め付けの筆頭が、いま流行はやりの真贋しんがん調査だ。

転売品を出品すると突然ジャングルからメールが届く。

「その商品は本当に本物ですか?。本物である証拠を示してください」

という趣旨のメール。

本物であるか証明しろって……。

このメールがここ最近届くようになって面倒くせえなあ……とため息をつくのだが、無視すれば一発退場、即廃業である。

だから仕入れた時のレシートだとか、

商品のシリアルナンバーだとか、

実際に手に持っている写真だとかを送信して、からくもくぐりぬける。

どうしてこんなことになったかと言うと、やはりせどりバブルによる新規参入者の増加で、盗品や中国産の贋作や、仕入れてはいけないサイトから仕入れたものなどを売るせどらーが増えているらしい。

もともと意地汚い商売なので意地汚い人間が集まってくるのは当然だ。

しかたなくジャングルの言うことを聞く。

次の締め付けが、出品規制。

「その商品はジャングルで売ってはいけません」というもの。

再販価格のある新刊本や新譜のCD。

あとメーカーがそもそも

「ウチの商品はジャングルで転売してはいけません」

というものもある。

著作権法で禁じるわけだが、要は、転売という手垢てあかまみれの小汚い商売で企業の商品イメージを悪くしたくないというのが大きな理由。

ずいぶん嫌われたものだなあと苦笑するが、ジャングルから締め出されるわけにはいかないので泣く泣く従う。

こういう規制が増えてくると、本当に肩身の狭い・世間を狭くしている商売だなあとつくづくやるせなくなる。

しかし、こんなことでいちいち落ち込んでいたら乞食なんて出来ないので開き直って仕入を続けるのだが、一番ショックを受けるのが、突然のジャングルからのアカウント削除。

通称「アカバン」。

バンとは全面削除のこと。

出品の仕方が悪かったのか?

値段の設定方法が悪かったのか?

商品そのものが悪かったのか?

理由は一切告げられず、ジャングルから一方的に追放処分を告げられる。

これがきたら「ついにか……」と相当なショックを受けるわけだが、しばらくプータローをしてほとぼりが冷めたら、またアカウントは復活でき、元の通り転売ができる。

ジャングルが何のためにわざわざバンをやっているのか分からないが、私は、暴走するせどらーに対する見せしめのような気がしてならない。

それくらい、2019年、今、転売ビジネスは盛り上がっている。

このジャングルのアカバンを、これから先どうやって回避していくかを、外注に移行してから、毎日考えて生きている。


事務作業が終わると、次に、外注員が仕入れた商品の梱包発送作業に移るわけだが、これも外注。

先述したように、ジャングルの倉庫に送って、ジャングルに梱包発送させる。

もう、ホント、手間と時間と肉体をとことん使わない。

信じられない。

あの地獄の工場作業員時代は何だったのかと愕然とする。

約3年勤務した。

ずいぶん時間を無駄にしたと後悔しているし、ずいぶん奴隷労働させられたと恨んでいる。

もう、二度と工場作業員に戻りたくない。

外注は天国だ。

「人を使う」ではなく「人を虫けらのように使う」だ。

最高だ。

人が苦しんで汗水たらす姿を見るのってこんなに快感なんだと思った。

そりゃ、国会議員や官僚なんて辞められないだろうな、と思った。

国会で居眠りして全国中継されていても、何千万という利益が舞い降りてくる。

まさに上級国民。

外注は覚醒剤だよ、ホント。

外注はせどらーのひとつのゴールだ。

せどらーはまず店舗仕入から始めて、電脳へ行き、そして外注へ落ち着く。

あるいはウチの社長のように、起業・法人化してセミナー塾を開催し、セミナー受講生から講義代をぼったくって生きていくか、

あるいは販路を拡げて卸売業者と契約して、ネット小売店となるか、

この3パターンがせどらーのゴールである。

私は今のところ、

外注、社長の会社のセミナー講師、せどらーユーチューバーで落ち着いている。

この先、行けるところまで行こうと思っている。

遠くの未来を考えると背筋がゾッとする。

どうせロクな死に方はしないだろうな。乞食なんざ……。

やれやれ、腹減った。

おっと、もう昼か。

(つづく)


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