第15話
「……あまりだいじょばないな」
「だろうね。結構なピンチだったし。というかここの結界つよ過ぎ。出自を考えれば親戚みたいなものなのに融通が利かないんだもん。フーがもっと早く呼んでくれれば入り込めたのに、全然呼ばないし。意地はってたの?」
別にそういうわけじゃない。ただ余裕が無かっただけである。
が、ミヤコは「これからは意地はらないで素直にいきるよーに。教訓になったね?」などと小生意気な説教をかましてくる。
正直、今も余裕がない。もうそういうことでいいかもしれない。
「さーてと。んじゃ、そこの百足ヤローなんだけど……ぶっちゃけ、あれを倒すのはわたしでも骨が折れるというか、少女の姿で固定されちゃったわたしだとがいねんてき?に倒すことが出来ないんだけどさ」
いつも通りの小学生らしいファッションだった彼女の姿はいつぞやの紅い稚児姿に変わっている。
右手には剣、左手には紐。
背面からは後光のように鋭い剣が伸び———まるで、古い仏教画に描かれた仁王か修羅のような、聖なる威圧感が漂った。
「まぁ、あれだね。フーを殺そうだなんてこと考えた不届きものには、お仕置きしてやらないとだね」
彼女の身体が消える。
正確に言えば前方に高速で飛んでいったのだ。
先ほど吹っ飛ばした百足に向かって、まっすぐと、ミサイルのように。
僕の肉眼からは何が起こっているのかまったくわからない。が、僕の感覚はミヤコが何をしようとしているのか、何をしているのかが感じ取れた。
右手に握った紐がぱ、と開く。四方八方から、蜘蛛の巣のように広がっていく。
紐は百足をぐるぐると包み、縛りあげた。
憎しみを原動力に、ただただ紐から逃れようと体を捩るが、意味がない。
「知ってるかなぁ?蜘蛛の糸の話ってあるでしょ。地獄に落ちたカンタダにも垂らされた救いの糸。この紐もにたようなものなんだよ。
右手に持った剣を、フェンシングのように構える。
「もっとも、てめーは救われないんだけどね。だって———こっから串刺しになるんだからねっ!」
一刺し、二刺し、三刺し四刺し———数えるのも馬鹿らしいほどの突きが百足の霊体に突き刺さる。
もだえるように、
ただただ、ミヤコが放つ刺殺を甘んじることしかできない。
その突きは全身に行きわたる。
「おらおらおらおらぁ!」
———だが、なおもミヤコは攻撃を止めることはない。
時間にして1分ほどの執拗な攻撃の末に、ようやく剣の乱舞が終わった。
百足は背を地にして、無数の足をワラワラと蠢かせている。
あの百足は……実在するものなのだろうか?
そもそも、あれはなんなのだろうか?
ミヤコが来てくれて少し余裕が出来たからか、そんな疑問が脳裏に過った。
姿形は百足のよう。ミヤコの攻撃を受けている———ということは、やはり霊的な存在なのだろうか。
「そういや義務教育受けてないんだったね。わたし実質高卒だし。いまみんぞくがくの大学?かよってる守護霊だし。学歴でも霊としての格でもかっちゃってるわけで、いやぁつらいわー」
よくわからないマウントを取るミヤコに呆れる気持ちと、なんだかいつも通りに戻ってきた安堵がないまぜになる。いずれにせよ少し冷静な気持ちを取り戻すことができた。
……メイを背負って上まで上がらなきゃならない。そんな体力、残ってるだろうか。
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