第8話
「いやぁ、面白かったね。カンチくんっているじゃん?彼、国立大行ってるらしくてさ。フーと同じ小学校の出身とは思えないよねぇ」
同窓会の帰り道、ミヤコは一切空気を読まずに今日の感想を語った。僕はそれに相槌を打ちながら、何をどう聞くべきかを考えている。
「ねぇミヤコ」
「なに?」
「メイって覚えてる?」
「覚えてる覚えてる。一緒にお菓子密輸してたよねぇ。私がジュヨウの調査をやってさ。フーがそれをメイちゃんに伝えて、何をどんだけ仕入れるか決めて。あれって面白いよね。学校の中だとお菓子は通貨みたいになるんだね。なんか色々思い出しちゃった」
「メイと遊んだ記憶ってある?」
「え?いや、よくあったじゃん。あの子ほとんどフーのこと手下みたいにして、色々振り回してて……」
「僕じゃ無くて。ミヤコ個人が、ってこと」
そう聞くと、ミヤコはす、と押し黙った。感情が読み取れない。通信制限を食らったスマートフォンのように表情がしばし固まった。 意味深長な沈黙。それにどんな意味があるのか分からない。言葉が途切れる。その間にも僕らは夜の道に歩みを進める。現在時刻は12時を回っている。最終電車はもう無い。家に帰る方法は歩くしかなかった。
「私にはないよ」
沈黙は唐突に破られた。だがその言葉にはいつものおしゃべりな彼女の過剰なくらいの感情はこもっていない。
「どういうこと?」
「別に。そもそもメイちゃんは私のこと見えないじゃ無い。見られたことも無いし……それとも彼女、スピリチュアルにでもハマってた?そんで私のことに感づいたとか」
少なくともそういう感じでは無かった。どちらかと言えば否定派のようだった。
「じゃ、無いね」
取り付く島も無い。彼女は僕の質問に対して答えるつもりはないようだった。
僕はそれ以上の追及をミヤコにはしなかった。ただ、僕の中で11年前、何があったのかについて答えを求める気持ちは強まっていった。
庄司明夏から連絡が来たのは翌日のことだった。僕が彼女に聞いたことーーーつまり、彼女とミヤコが出会ったという村はどこなのか、という質問への回答である。
正確な地名や当時僕らが泊まったメイの親戚の名前など、色々と細かく送ってくれた。
『やっぱり現地に行くつもり?』
そうした情報をあらかた送り終えると、メイは最後にそう聞いてきた。
『うん』
『メイが言ってたことをほとんど覚えてない』
『疑うわけじゃないけど。でもなにがあったかを思い出すためにもう一度そこに行ってみたい』
メイが同行を申し出てきたのはそれを送り終えて10分ほど経った時だった。
『私もいく』という簡潔な文面がぽつんと現れた時、僕はどうしたものか、と思った。
僕の予定ではミヤコを現地に連れて行って、その上で何か言葉を聞こうと思っていた。ミヤコにまつわる何かがあった土地で、彼女について聞く。そうすれば何らかの答えは帰ってくるだろう。
だがメイが同行するとなるとその計画は意味をなさなくなる。ミヤコが見えない今のメイの前で問い詰めても僕の気が狂ったようにしか思えないだろう。そんな真似はあまりしたくなかった。
しばらくして、再び彼女の文章が届く。
『私も何があったのか知りたい。分かるかどうかは分からないけど。でも過去にあった出来事に区切りをつけたいっていうか』
この言葉を見たとき、どうにも彼女を止めるという選択肢は無くなってしまった。その事件……僕が覚えていない夏休み遭難事件は、僕とメイの二人が当事者となる問題だ。彼女にも釈然としない何かが残っていて、そのために現地に行きたいというのなら、彼女の申し出を断るのはフェアでは無いだろう。
僕の覚えていない山の宝探しの続き。だが今回探すのは遺体では無い。ミヤコという傍にいる少女の正体を探すことになる。それに果たして意味があるのか、もし見つけたとして、それが幸福につながるのか。そこまでは分からなかった。
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