第4話
大学試験は無事に合格した。
ミヤコのおかげと言っていいだろう。別にそこまでいい大学では無い。都内にはあったが都心では無いという立地で、中堅以下の大学といったところだった。
とはいえ、合格自体は喜ばしい。両親は喜んでくれたし、ミヤコもたいそう喜んでくれた。
僕が所属するのは文学部民俗学科。これはミヤコの存在についてより多くのことを知りたい、という思いからの選択だった。
幽霊とか守護霊とか、そういうものについて勉強できそうなのは宗教学か民俗学となるだろう。科学的な計測とか調査はもう疑似科学の領域になっている。そういう怪しげなアプローチに近づくつもりは無いが、そうでなくても彼女が何なのか、考えることが出来そうな勉強がしたかった。
当の本人は大学に行くたびに「いやー、多いねぇニンゲン」などと脳天気に笑っていたが。ある日、僕は気になって聞いてみることにした。
「ミヤコは自称守護霊なんだろ?」
「どちらかと言えば他称なんだけど。なんで?」
「だったら他の幽霊とか、悪霊とか見えたりするの?」
守護、というのだから当然のことながら霊的な何かから護ってくれなくては嘘である。つまりミヤコ以外にもそういう霊やらなんやらがいなくてはおかしい。
「そりゃ、いるよ。ウヨウヨいるね。大学とか、もう雨後の筍みたいな感じ」
「なんだそりゃ」
「そしてそういう連中を例外なくぶちのめすのがわたしの役割ってワケです」
彼女はシャドーボクシングして見せた。ずいぶんと物理的な守護霊である。
「いやマジで。人間がいる場所は例外なくいるよ。日本国内で人が死んでない場所なんてないでしょ?」
確かにそうかも知れない。探せばあるだろうが、そもそもそんな場所を探すこと自体がオカルトじみた所業だろう。
「誰かしら死んでるのよ。人はみんな死ぬの。でもすぐ死なないようにわたしが護ってあげてるわけ。感謝してよねっ」
「ツンデレ風に言われましても」
突っ込みながらもやっぱりいるのか、と僕は困惑していた。正直な話をすれば、僕は彼女以外の霊を見た覚えが無い。もしかしたら見てるのかも知れないが、いかにも霊です、というようなのは今のところミヤコ以外現れていないのである。
「それは私がラッシュで除霊っちゃってるから。そうでなくても大抵の下級霊ともなればわたしが近づくだけで消滅しちゃうし」
「そりゃ、強そうだね」
「強そう、じゃ無くて強いの!大抵の雑霊はざーこざーこざこ幽霊♡って感じで倒せるし、ちょっと歯ごたえあるのは直接バトれば余裕だし。わたし最強だし?」
うへへ、と妙な笑みを浮かべながら彼女は調子に乗った台詞を吐いた。僕としてはよく分からないことなので「ああ、そうなんだ。すごいね」と適当に相槌を打った。
「なのでフーは一切の心配をすることなく、わたしに頼りっきりでいてくれていいよ?えっと、フィールドワーク?だっけ。そういうので霊とか化け物とか出るかも知れないけど大抵のは倒せると思うし。なんせ地元じゃ負け無しだからね」
どう考えても敗北フラグである。ここまで小物感を出せるのはある意味すごい。そもそも地元にそんなすごい霊とかいるとは思えないのである。怪異の目撃例があるわけでも無ければ、すごい神様がまつられている訳でもない。極めて平凡な関東の一地方が僕の地元だった。大学周辺も、まぁそんな妙な土地とは聞いていない。多分それなりに人が死んでいるのかも知れないが、とても多いとか異常というほどの土地でも無いはずだ。そんな場所でしか行動していないのにここまでイキれるのはどうしてなのだろう。
まぁ、ここまで自信を持って断言するのだから本当に強いのかも知れない。
「頼りにしておくよ、精々」
「そ、せいぜいね、セイゼイ」
僕が意図的にした言葉の誤用を分かってないのか、彼女は非常に満足げであった。
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