第14話 密着ディスタンス


(アヤネちゃんは……いま、何て言った?)


(……それって、まるで)


(い、いやいやいやいや)


(アヤネちゃんは! 私の腕を気遣って言ってくれてるんだ! 考えるな! 変なこと考えるな!)


「ありがとう……じ、じゃあ、ちょっとだけ……」


「……うん……来て、蓮ちゃん…………」


「…………」

「…………んっ」


「大丈夫? 重くない?」

「…………」

「……アヤネちゃん?」







(れっ、蓮ちゃんが……!! まさか本当に蓮ちゃんがこんなこと……!!)


(あんな脚本を読んだから、触発されてちょっとだけ頑張っちゃったりして、そしたら、こんな……)


(蓮ちゃんとこんな格好で、わたし…………)


「……あ、あの、アヤネちゃん」

「……ぅ?」

「私のほうがきっと重いから、アヤネちゃんが上になった方が、いいんじゃないかな……」


「えっ、あっ、え」

「動ける? ちょっと狭いけど……こうやって……」


(わっ、わああああっ! 蓮ちゃんの制服が、擦れて……っ……)


(狭いから、脚がうまく動かせない……)


「よいしょ、っと……アヤネちゃん、平気?」


(わ、私、蓮ちゃんに跨がってるの……?!)



カタン!


(!)


「あ、掲示板が少しズレただけ、かな……大丈夫、何ともないみたい」


(……?! ううん、やだ……っ! 今のでスカートが何かに引っ掛かって、引っ張られて……っ)


(ううっ、手、届かない)


(蓮ちゃんは気づいてない……?!)


(ひぁっ……蓮ちゃん、動かないでぇっ)


「も、もっと崩れてきたら危ないから、聞こえるかわからないけど、助けを呼んでみよっか……おーい、誰かいませんかー!」


(え、ええっ? だめ、蓮ちゃん、いま他の人たちにこんな格好を見られたら……!)


「誰か、いませんかー!!」


(やだぁ! スカート捲れてるところ、見られちゃうっ、知らない人にも、) 


(蓮ちゃん、にも……!)


(ああっ! こんなの、あの脚本にも書いてなかったよぉ……)


(駄目ぇぇ! 扉、まだ開かないでぇぇ!)





「……ん? 今のって、先輩の声じゃなかった?」

「蓮さんの? 確かに、人の声がしたような。でもどうして廊下の奥から?」

「ちょっと、行ってくる」

「あっ、待ちなさいよ」



「先輩? いるんですか?」

「環! 環なの?!」


(た、助かったぁぁ! 何でか知らないけど、環が来てくれて良かった! いくら助けてくれるとはいえ知らない人だったら絶対気まずかった!)


「うっかり事故っちゃって閉じ込められてるの! 外側から開くか、試してみてくれる?」


「えぇ?! 大丈夫でしたか、先輩!」

「ちょっと本当に蓮さんなの?! ご無事ですか!」


(ある意味、大丈夫でも無事でもなかったんだけど……)


「あ、アヤネちゃんもいるから、そーっと慎重に……」


「えいっ!」

「冴衣ちゃん、力込めすぎ!」


「きゃあ!」

「!! ……駄目ぇっ……!」



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「……ふぅ……上手いこと掲示板がずれて、なんとか無事に出られた……のかな? 環に有原ちゃん、ありがとう。アヤネちゃん、大丈夫?」

「やだぁっ!!」

「!!!!????」


「せ、生徒会長さんと先輩、な、な、な、なにを……!」

「な……生々しいことで」



「あ、アヤネちゃん……?? どうしてスカートが床に」

「うわぁぁぁぁん!! 蓮ちゃんの馬鹿ぁぁ!!」


「先輩、わたっ、私、何も見てませんから!!」

「加村さん! ちょっ、また引っ張って……痛い痛い痛い!」









「ううっ……ぐすっ……」

「大丈夫、大丈夫だから。環たちには私からあとで弁解しておくから、落ち着いて。大丈夫、説明すればわかってくれる子だから」

「………ん………ほんと……?」

「うん。ね、だから心配しないで?」


(こんな時にアレだけど……泣いてるアヤネちゃん、無性にグッとくるものがある……いやいや最低かよ私は)


(でもなんだか、昔を思い出しちゃって)


「生徒会の皆も、アヤネちゃんが突然いなくなって心配してるかもしれないし、私が一緒に行って事情を説明してあげるから」

「うん……っ!」


(懐かしい。泣いて、戸惑いながらも、しっかり見つめてくる瞳)


「……蓮ちゃん」

「ん?」

「ありがと、ね。ほんの、もう少しだけ、このままで。お願い……」





「……やっと離してくれた」

「……」

「加村さん、蓮さんとそっちの会長って、どういう……」

「知らないよっ!」


(先輩、生徒会長さんとそういう仲になりたいって言ってた気がするけど、まさか学校内であんな大胆に……!)


(というかいつの間に?! やっぱり先輩が話してないだけで、夏休みに何かがあったの?!)


「加村さんっ!」

「うるさい!」


「うるさくて結構! あなたはまた嫌がるかもしれないけど、そんなの承知で言うから! 私は言いたいことは言いたい時に言う主義なの!」


「……っ」



「どうしてあなたが、そんなに泣きそうな顔、してるの!」

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