第13話 震える感情に身を委ねて


「し、し、信じられない! この無神経っ子ー!」

「うるさ……! そんなに怒鳴ることないでしょ!」


「環! 有原ちゃん! またやってるの?!」


(作業の途中で、お手洗いに行って戻ってきたら、少し目を離した隙にまた喧嘩してるよこの二人!)


「あっ、せ、先輩! 私、ちょっとだけ冴衣ちゃんに話がありますので。すぐに戻りますから!」

「っ! 引っ張らないでよ痛い!」

「え、え、え?」


(環ったら、本当にどうしちゃったんだか……)





「加村さん! 本当に痛いんだけど。あなた……もしかして怒ってる?」

「そりゃ怒るよ!まさか、ある日突然、

『あなたったら、女の子に告白して振られたんですって?』

なんてド直球に聞かれる日が来るとは思わなかったからね!」


「他にどう聞けばいいのよ」

「もっと他に言い方があるでしょ?! いや、そもそも聞かないで!」

「私も一応気を遣って、蓮さんのいない時に聞いたのよ?!」

「だから聞かないでってば!」


「別に、怒らせるつもりじゃなかったの。ただ、加村さんって”そう”だったんだな、って」

「冴衣ちゃんって、そこそこ人を怒らせる才能あると思うけど」

「私も『そういうキャラ』してた時あるけどね。そしたら彼氏いなくても、あれこれ煩く言われないし」

「キャラって…!! いい加減にしないと本当に怒るよ!!」


「ゃ……っ」

「あっ……ご、ごめん」


「……加村さん」

「なに」

「これって壁ドン、ってやつ……? 悪いけど、私そういうシュミは……」

「ーーーーっ!! 私だって!! 冴衣ちゃんみたいなのは全然タイプじゃないからーーーっ!!!!」



「……大声出すと、教室まで響くよ」

「……はぁ、はぁ、はぁ……誰の、せいだと……」

「他の人には、言わない」


「……冴衣ちゃんってさ。自己中ってよく言われない?」

「言われ慣れすぎてるわ」





「もーっ、環たち! 全然戻ってこないんだけど! どこまで行ったの?」


「さすがに探しに行こう」


「あれ? アヤネちゃん!」


「蓮ちゃん!」


「なんだか、忙しそうだね」

「ううん、平気だよ。……そうだ、蓮ちゃん、いま、手はあいてる?」

「え、どうしたの……?」


「あのね、ハシゴが必要なんだけど、一人で運ぶには重くて。誰か一緒に運んでくれる人を呼びに行くところだったの」

「なんだ、そんなことなら、私が手伝うよ」

「ありがとう!」


(環たち、全然戻る気配ないし、ちょっとだけアヤネちゃんと一緒にいても良いよね)



「こっちの、用具入れなんだけど……」

「ずいぶん奥まったところにあるんだね」

「他にもハシゴを使いたい人がいっぱいいて、あんまり数が足りてないの。予備の倉庫にある分も使っていいって、静早の会長さんが」

「そっか。うわ、真っ暗……電球、切れてるみたい」

「それに狭いね。そーっと取り出そう」


「あ、そこの古い掲示板をどかさなきゃ……わぁっ?!」

「蓮ちゃん?!」


「いたた…………」


「「?!?!」」


(わ、わ、わたっ、私、アヤネちゃんに覆い被さってる?!)


(お、起きなきゃ!)


(って、倒れた掲示板が背中の上に……?!)


(重くはない……どうやらドアと壁の間に引っ掛かって隙間ができてるみたい)


(私たち、隙間の下にいるんだ……)


(身動きが……取れない)


「……あ、あのっ」

「……あ……」

「アヤネちゃん、大丈夫?どこか打ってない?」


「だ、だいじょうぶ……」


(よかった……)



(って、安心してばかりもいられない!!)


(こんな状況、どうすれば…………)


(か、体のすぐ下に……アヤネちゃんが……)


「…………蓮ちゃん」

「はいっ?!」


「腕、つらくない?……ずっと手をついた姿勢のままじゃ、つらそう……」

「う、ううん、平気だよ」

「……あのね」

「ん?」


「腕の力、抜いていいよ…………」


「…………えっ」


(アヤネちゃん?! どういう意味なの?!)



「からだ、私の上に乗せちゃえば……たぶん、楽だと思う、よ……?」



(何……を……アヤネちゃんの上に乗せるって……???)



「無理に起き上がろうとしたら、きっと他の備品が崩れちゃってあぶないよ……」


「私がここにいることは、静早の会長さんが知ってるから……時間までに戻らなかったら、探しに来てくれるんじゃないかな」


「だから、大人しく、待ってるのがいいと思うな……」



「……ね? 蓮ちゃん…………」

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