第8話 進展デザイア(中編)


(ええー?! すごい音したと思ったら、なんでお風呂場でアヤネちゃんが倒れてるの?!)


(いや、動揺してる場合じゃないでしょ! とにかく助けなきゃ)


(と、とりあえずこのバスタオルを)


「アヤネちゃん! 上がるよ!」

「あ、ありがとう……」


(平常心、平常心、これは緊急事態、人命救助……)









「落ち着いた? 麦茶、飲める?」

「うん……びっくりさせてごめんね」

(そりゃびっくりしたよ!! そしてなるべくアヤネちゃんの身体を見ないようにするのに苦労したよ! 見てない見てない、私は何も見てない)


「旅行帰りで、疲れが出たんじゃないかな。ゆっくり休んで」

「ありがと……」

(アヤネちゃん、どこかまだぐったりとしてるなぁ)

「横になる? ソファ、もう少し詰めるから」

「あ……うん」


(あれ……これって)

(もしかしなくても膝枕……?)


(あったかい)

(そして柔らかい重み……)


(アヤネちゃん、まるで全身から力を抜いて、こっちに預けてるみたい)

(やっぱりかなり疲れてるのかな)

(口数も凄く少ないし)


(あ、髪サラサラ……)


「……?!?!」

「あ、えー、っと」


(しまったー! アヤネちゃんが無防備すぎて、なんかつい無意識で、髪を弄ってた)


「ご、ごめん」

「い、いいの。ちょっと、くすぐったくてびっくりしただけ……」


「…………」

「…………」


「……あ、あの、ね」

「……うん」


「もう、寝ましょう、か……」









(なんか空気に耐えられなくなって思わず寝る宣言をしてしまった)


(確かにもう寝てもおかしくない時間なんだから変ではないけどさ)


(アヤネちゃんもしっかり休んだほうがいいだろうし)


(……しかし、冷静に考えたら私はさっきとんでもないことをしてしまったのでは)


(だって膝枕だよ? アヤネちゃんとの)


(太ももに乗っかるアヤネちゃんのほっぺた、柔らかかった……)


(…………寝れない)


(そもそもこれ、アヤネちゃんのベッドだし……匂いとか、色々……)


(アヤネちゃん本人が今日は母親の布団で寝るっていって、下の階にいるのが幸いだ……)


(いや、本来ならそこは残念がるところよね)


(あーもう、寝れないっ!)


(そういえばスマホ、リビングに起きっぱなしだし、寝れないついでにちょっと取ってこよう……)









「うー、リビングリビング……暗い上に人の家だから勝手がわからないな……慎重にいかなきゃ」


「……蓮ちゃん?」


「うわっ?! ア、アヤネちゃん?」


「どうしたの、もしかしてお手洗い?」

「ううん、ちょっと眠れなくて……スマホを取りに。アヤネちゃんも、まだ寝てなかったんだ」

「……私も、何だか眠れないの」

「そうなんだ」


「…………」

「…………」


(はっ!また沈黙……)


「あの、アヤネちゃんが眠くないなら、もう少し話でもしようか?」

「……そうしよっか。じゃあ、リビングの電気点けるね」


「…………」


「…………蓮ちゃん」

「な、なに?……電気点けないの?」


「高校で、また私に会えたとき、どう思った?」

「あ、そ、そういう話の流れ……?」

「答えて?」


(アヤネちゃん、暗くてよくわからないけど、笑ってる?)


「えっと……じゃあ、正直に言うね。最初はアヤネちゃんって、わからなかった」

「わからなかった?」

「うん、だって、印象全然違ったし」

「それはいい意味で? 悪い意味で?」

「もちろんいい意味で!」


「そっかぁ」

「だってアヤネちゃん、その……すっごく綺麗になってた、し……」


(ああああ! ついに本人に言っちゃった! 顔が熱くてまともに前見れない! ここが暗闇で良かった! 暗闇最高!)


「……あ、ありがとう……」

「その! 綺麗っていうのは! 外見ももちろんなんだけど、振る舞いも堂々としてるっていうか! 1年生で生徒会長になっちゃうし!」

「……目標に、してたからね」


「え?」

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