第5話 後輩ハイドアウト(中編)
「アヤネ、今回は一緒にお婆ちゃんのところに行けなくて残念だったわね」
「夏休みも生徒会の仕事があるんじゃ仕方ないさ」
「うん、ごめんね。パパ、ママ。お婆ちゃんに宜しくね」
「本当にアヤネは、生徒会に入ってからずいぶん頑張っているわね。ぼんやりしてた昔とは大違い……」
「あ、あはは」
(お婆ちゃん。パパ。ママ。ごめんね、嘘ついて。一人だけ家に戻ろうとしてる。だけど私、チャンスは絶対ものにしたいの。ずっとずっと秘密にしてるけど、誰にも言えないけど、大事なものがあるの。そのためなら何だってしたい……)
(ねぇ……蓮ちゃん)
(蓮ちゃんは今頃、何をしてるかな)
「美味しかったー! ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした。ご飯、足りましたか?」
「腹八分目ですっごく丁度いい。環、ご飯の支度の才能あるって」
「今日だけで先輩にこんなに褒めてもらえるなんて、私、幸せを使い果たしてしまいそうです。明日、隕石にでもぶつかったらどうしましょう」
「隕石に当たる確率は、宝くじの一等に当たるより大きいらしいね。とはいえ、どうせなら宝くじのほうに当たってほしいけど」
「お、むしろ幸せが幸せを呼ぶって発想ですね? 当たったら先輩にも半分分けてあげますね」
「ずいぶん気安く言ったなー?」
「えへへ、本気ですよ! 先輩と、世界一周旅行したり、テーマパークを貸しきったり!」
「夢が広がるなあー」
「それからお城みたいな豪邸を買って、二人で……」
「ふたり、で?」
「二人で、そう……えーっと、生徒会長さんと先輩で住むんですよ!」
「えっ、ええっ? 何言うんだ急に」
「ほら、先輩さっき言ってたじゃないですか。生徒会長さんと同棲とか何とか。その夢、宝くじを当てた環さんが叶えてあげましょう」
「すごく格好いい台詞だけど、当たってから言ってよ。ぷっ、あはは」
「ふふっ」
「全く、どうしてそんな話になったんだか」
「そりゃ、もともと私は先輩の恋を応援するって名目で一緒にいますからねぇ。立派に責務を果たしますよ」
「そういえば今日もそんな集まりだったね。すっかり楽しんじゃった」
「楽しんでいただけたんですか」
「そう、環と話してると、気楽というか心地いいんだよね。波長が合うのかな」
「あ、そ、そう、ですか。な、なんか嬉しいですね、そういうの……」
「環? どうしたの、突然静かになって俯いて。顔が見えないけど」
「い、いや、だいじょうぶ、ですから」
「もしかして、あんた、本気で照れてる…? いつものおちゃらけた照れ方じゃなくて、そんな顔もするんだね」
「き、今日はっ! 先輩が、すごく褒めてくれるから! 今のも不意打ちでっ! とにかく、う、嬉しいですっ!」
「わ、わかったから、落ち着いて。普通に感想を言っただけなのに、私まで恥ずかしくなってくる」
「私も、先輩と話しているのが心地いいですっ! あの、お、お風呂、お風呂を入れて来ますから!」
「環。あ、走って行っちゃった…。ほんと、頼もしくなったり慌ただしかったり、読めない子なんだから…」
「大人しく待ってようか……」
「あ……お腹いっぱいなのもあって、なんか急に眠気が……」
「昨日もアヤネちゃんとのお泊まり会のことを考えてたら、あんまり寝れなかったし……」
「んん、このクッション、すごく柔らかい、な……」
「…すいません! 先輩! バタバタして! あと少しでお湯が……って、先輩? せんぱーい!!」
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