第4話 後輩ハイドアウト(前編)
「先輩。もし先輩さえ良ければ、練習がてら私の家に泊まりに来てみませんか?」
「え?」
「どうぞどうぞ、狭い所ですが」
「お、お邪魔します。うわぁ、本当に来ちゃった……」
「両親は仕事で帰ってきませんから、気楽にしててくださいね。……さて、練習だなんて提案したはいいものの、私も家に人を招くことなんて滅多にないからどうしたものやら。手詰まりです」
「あんたね……単に夏休み暇だったから私を呼んだだけなんじゃないの?」
「先輩、鋭いです」
「呆れた」
「じゃあ今から作戦会議しますか?」
「いいよ別に、グダグダになって流れる未来しか見えない。せっかくの夏休みなんだから私に気を遣わず遊ぼう」
「結局そうなるんですね。といっても、うちは遊べるものが少なくて……」
「じゃあ一旦外に行く?環の家なら駅に近いし」
「それなら先輩、私はプールに行きたいです!」
「私が水着の準備してきてないから却下。何、そんな顔しないでよ、そんなに行きたいなら次回行ってあげるから」
「ふふっ。私覚えておきますよ。じゃあ、とりあえず商店街にでも行きませんか?どちらにせよ、夕飯前にスーパーにも寄りたかったので」
「そういえば、今日の夕食って」
「私が作りますよ」
「環が? 作れたの? じゃなくて、それは何か悪いような」
「こう見えていつも作ってますから。それに人数分、多い方が作るの楽なんですよ。大丈夫です」
「……じゃあ、お言葉に甘えて、お願いしようかな」
「はいっ!」
「先輩って苦手な食べ物無いんですね。羨ましいです」
「そう? まぁ、よく言われる」
「作り甲斐もありますしね。私も、好き嫌いなく何でも食べれる子のほうが魅力的だって頭では分かってるんですけど、舌の方がついてこなくて」
「良いんじゃない? 大人になるうちに味覚も変わるっていうから」
「変わる、か。ふふ、そうなりますかねぇ」
「ところで私、本当に何も手伝わなくていいの? このまま一人で動画見続けてるのも申し訳ないんだけど……」
「いいんですよー。あ、もしかして先輩、一人ぼっちで退屈でした?」
「それは無いから大丈夫」
「あとはお肉が煮えるの待つだけなので、すぐそっちに行きますね」
「うん。あ、これ面白いから後で一緒に見よ」
「あ、私わかりました! 答え言っていいですか?」
「え、待って、私まだわかんない。えーと、父親が二人? いるってことは……」
「まだまだアタマ固いですよー先輩、答えはですねぇ」
『答えは、天才外科医は息子の母親、でした』
「あーそっち……母親かあ!!」
「はい私正解ですー」
「くそー、もうちょっと考えてたらわかったかもしれないのに。あ、環、こっちのツナサラダも美味しい」
「簡単なものですが。そう言って貰えて嬉しいです」
「サラっと作ってるけど、やっぱり環凄いよ。私なんてカップラーメンくらいしか出来ないし」
「先輩……それはもう少し頑張りましょう。生徒会長に手料理食べてもらいたいとか、思ったことないんですか?」
「そ、それはまだ早い」
「どういう意味ですか……」
「仮に将来同棲とかしたら、ご飯作りあったりするの良いなって、考えたことはあるけど……」
「妄想が随分具体的ですね」
「そうなんだよねー、頭の中でならいくらでも計画が上手く行くんだけど、現実に実行しようとすると、駄目なんだよ」
「まあ、その気持ちもわかります」
「同意ありがと。ままならないなあ」
(私は、今日は目的ひとつ、達成できましたけどね)
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