第12話 最北の地へ
夕食を終え、筆者は無事に名寄駅に戻った。特急サロベツ三号、稚内方面行きの最終列車である。天候は良好で、二十一時三分、定刻で発車した。
これから稚内までは三時間近くを要する。この時間をのんびり楽しもうと、長旅に備えて買っておいた食料を取り出した。まずは一杯と思ってワンカップを開けた瞬間、筆者は違和感を覚えた。商品名をよく見ると「清涼飲料水」とあるではないか。原材料には「白樺樹液」の文字。
樹液…………?
なぜ樹液が手元にあるのかよく分からないが、慌てるな、ワンカップはもう一本ある。アルコールはそっちで摂取しよう。そう思ってもう一本を見ると、あろうことか、こちらも「白樺樹液」と書いてあった……
思い返すと、道の駅で商品を選ぶ時、確かに商品をよく見ていなかった。円筒形のガラス容器に透明の液体が入っていたから、日本酒と思い込んでカゴに入れたのだった。晩酌の予定が崩れてしまったことは残念だけれども、しかしこうして話の種ができるのも、また良い経験だ。日本酒と思って樹液を買うことなど、全国で何人が経験するだろうか。自生する白樺の樹に思いを馳せつつ、ほんのり甘い樹液を飲み始めた。
乗車して一時間程が経過したところで、恐れていた事態が起こった。スマートフォンの電池切れである。対策はしていたつもりだったのだが……
一日目は長旅になるので、前日のうちにスマートフォンもバッテリーもフル充電していたのだ。バッテリーはスマートフォンを三回程充電できる容量があるから、宿まで余裕で持つと思っていた。だが実際には旭川辺りで怪しくなっていた。残量がどんどん減るのだ。低温環境下であることに加え、位置情報を利用した某アプリを使用していたからだろうか。北上につれ電波のない区間が増えたためか、更に激しく減少していった。宿の位置を概ね把握し終わると、スマートフォンは最後のSOSを発し、静かになった。
二十三時四十七分、列車は終点の稚内に到着した。線路はコンコースの少し向こうまで続き、車止めのモニュメントで終わっていた。これより先に鉄路はない。本当に最北端まで来たのだ、と実感した。
駅前のセイコーマートで少し買い物をし、ホテルへと向かった。
こうして、長く濃密な一日目が終わった。
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