第10話 去り行く者、残る者、戻る者……後編
快速なよろ号に一時間程乗車し、
今回の旅行で履いたハイカットブーツは昔買ったっきりほぼ履かずにいた物だが、取っておいて本当に良かった。この旅行こそが、このブーツの真価を発揮する場だったのだ。結局のところ、雪道をいくら歩けども、旅行中足が濡れることは終ぞなかった。このブーツには今でも本当に感謝している。
駅を出て、一路道の駅へと向かった。「もち米の里☆なよろ」の閉店まであと三十分程、早く向かわなければ。歩道らしきところをさくさく歩み続けること十五分程、道の駅の灯りが目に入った時はほっとした。
大概の道の駅がそうだと思うのだけれど、風連のそれは地元の特産品を盛んに推していた。施設名に「もち米の里」とある時点で予想はしていたのだが、とにかく餅や米を使った商品が多かった。筆者は旅行先の道の駅やスーパーに行くと、その品揃えからその地域の人が何を食べ、どの産業に力を入れているかを想像する習性があるのだが、風連ほど特徴的なところは初めてだった。餅がみっちりと並んだコーナーもあり、力を入れている対象がこんなにも明確なので、ある種の感動を得てしまった。存在を教えてくれた友人の前評判に違わぬ推しの強さであった。
もうすぐ正月ということもあり、筆者はまず切り餅をカゴに入れた。帰りの空港の保安検査で引っかからないかな、防弾ベストと疑われなくもないぞ、などと少々不安になったがまあヨシ! と購入を決めた。そのほかにも、この後の長旅のお供にとまんじゅうやらワンカップやら、更には最近になって
無事に閉店前に道の駅を出ると、風連駅前の衣料品店に立ち寄った。防寒着を買おうと思ったのである。数年前に三月の北海道を訪れた際は、予想した程寒くなかったため、今回も「いうてそんな重装備じゃなくてもいけるっしょ。コート着ときゃ良いっしょ」と余裕ぶっこいていたのだ。確かに身の危険を感じるまでの寒さではなかったが、さすがに物足りない。それに、手袋を買い逃したまま旅を始めてしまったのでせめて手袋だけでも欲しい。こういう時ヒートテックが最適とは聞いているが、最寄りの店舗はちょっと先の名寄である。また筆者は、旅行において「いかにして地元の雇用につなげるか」を常に重視しているので、全国規模の企業だけでなく地元にも貢献できる方法がないか思案していた。そんなわけで、何か良いものがあれば買おうぐらいの気持ちで店に入ってみた。土地柄か防寒装備が充実しており、特に手袋は、生産者を見ると道内の企業だった。おお、道内の気候に特化したものを作っていそうな感じがする。結局、考えあぐねた末に千円ぐらいのを買った。店主にポイントカードの作成を勧められたけれど、旅行者なので、と伝えて辞退した。
風連駅の待合室は二部屋あり、片方だけにストーブが焚かれていた。燃焼ガスを外へ排出する太い配管が天井を這っており、筆者が暮らしてきた暖地との気候の差を改めて実感した。
もう片方の待合室に入ってみると、書類の入ったクリアケースが置かれていた。見ると道北のパンフレットや訪問者用のノートが詰まっていた。こういうのを見つけると一気に心が躍る。薄暗い駅の片隅、今この場には誰もいないけれど、この駅に何かしらの想いを持つ人がいるのだ。毎日利用する人、理由あって離れた人、ふらりと立ち寄って二度と来ないかもしれない人……想いは違えど、いろいろな人がここを訪れ、ノートに残したいと思う何かを感じたのだ。足跡を辿ると、この駅が多くの人とつながっていることが分かる。それぞれの地に人がいて、それぞれの人生を歩んでいることが実感できる。旅に出ると世界の広さを感じることが多々あるが、これもその一形態である。
旅の面白さとは、そういうものである。
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