第9話 去り行く者、残る者、戻る者……前編

 予定より一時間遅れの十三時ちょうど、筆者は札幌を発った。特急カムイ十七号は白銀の大地を穏やかに走り抜け、美唄、砂川、滝川など、かつて聞き慣れた駅を通り過ぎた。


 旭川では、名寄行き快速なよろ号の発車まで暫し時間があった。ホームをうろついていると、深紅の列車が近づいてくるのが見えた。古豪の除雪車両DE15である。北の大地にも新型車が投入されたと聞いていたから、稼働していることに感動した。ちょうど旭川で折り返しのようで、車体に付いた雪を落としたり、左右の翼を広げたりしていた。物流の生命線を守る人々の奮闘ぶりを、意図せず垣間見ることができた。


 コンコースでの休憩を挟んでホームに戻ると、快速なよろ号は既に到着していた。最新鋭のH100形による一両編成での運転だ。そういえば、旧式のキハ40をあまり見かけなくなった。前回はどこででも見かけたものだったが。

 座席は既に埋まっていたため、筆者は車内中ほどに立った。周りを見ると、網棚には発泡スチロール箱が載っていて、宮城産の魚介類が詰まっているらしかった。ああ帰省客か、ふるさとへの土産だなと気がついて、ちょっと感傷に浸った。立派な土産を持って会いたくなる家族がいるって素晴らしいことだ。隣の乗客が、何だかきらめいて見えた。


 十五時四分、快速なよろ号が発車した。未だ知らぬ宗谷本線へ、筆者は足を踏み入れた。

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